第一章 失業
私は何がしたいのだろう。
私は何処へ行きたいのだろう。
私には只一つ、ハッキリと解る事がある。
あの時、何か違うアクションを起こしていたならば今と違う感情で毎日を過ごしていただろう。
人生とはほんの少しのことで変わってしまうものなのだろう。
もしかしたら、それが私の運命だったのかもしれない。
十月の半ば私は長年勤めた会社を辞めた。
原因は上司とのトラブルだった。
まぁ誰にでも経験はあるだろう。
会社を辞めた私だったが、後悔はなく、むしろ解放されたかのような清々しい気持ちだった。
あの上司の顔をこれから見ないですむという事がなにより嬉しかった。
しかし、ただひとつ気懸かりもあった。
それは、9月に結婚したばかりであった事だ。
新婚生活1ヶ月にして私は無職となったのである。
もちろん直ぐに新しい仕事は探すつもりでいた。
問題は給料だ。
今までは多いとはお世辞にも言えなかったが、それなりには貰っていたと思う。
妻も結婚を機に会社を退職し、生活は私の稼ぎでやっていくしかなかった。
妻からしてみれば詐欺にあったみたいなものであろう。
結婚生活一ヶ月目にして先が解らない毎日を過ごすことになるのだから。
私は家に着くなり妻に会社を辞めたことを伝えた。
返ってきた答えは私が考えていたこととは違い、簡単な答えだった。
「そう。毎日辛そうだったもんね。仕事に関しては私が口出す事じゃないし、あっでも次の仕事は早く決めてね。」
妻がそう言ってくれたのが何よりも嬉しかった。
確かに私は朝早くに仕事に出かけ、帰ってくるのは毎日午前零時近く。
結婚してからも、夫婦らしい会話はなく、会社から帰ると私は死んだように眠りにつく、それが毎日だった。
妻からしてみれば、結婚式もあげず、新婚旅行にも行かず、会話らしい会話もない、こんな毎日を送るより、もっと新婚生活を満喫したかったのだろう。
会社を辞めた次の日、私はハローワークに向かった。
選ばなければ仕事などいくらでもあるだろう、そう思っていた。
しかし、この不景気でろくな仕事はなく、あったとしても今までの給料の半分で、とても受けてみようと思う仕事はなかった。
朝一番でハローワークに出掛けたはいいが昼前にすることがなくなっていた。
「まぁまだ初日だしな。」
私は独り言を言いながらハローワークを後にした。
家に帰るにしても時間が早すぎてとても帰る気にはなれなかった。
私はいけないこととは解りつつもパチンコ屋へと足を向けた。
数年前まではスロットをよく打っていてスロットには多少自信があった。
少しでも生活の足しになればと思ったのだ。
・・・いや、自分の中でそう思いたいだけで、正確には、ただこのムシャクシャした気分をどうにかしたいだけなのだ。
二時間近くスロットで勝負して、五千円が八万円にになった。
七万五千円勝ったのだ。
今の私にとってみれば会社を辞め少しでも金が欲しい時にこの七万五千円は有り難かった。
それに、スロットを打つ前までムシャクシャしていた気分が嘘のようにスッキリとしていた。
私は勝った金でケーキを買い家に帰った。
家に帰ると妻が
「仕事何か良いのあった?」と聞いてきた。
私は
「大した仕事無かったよ。明日また行ってみる。」とだけ答え部屋に閉じこもった。
次の日、私はハローワークに出掛けると言いパチンコ屋に直行した。
その日は夕方まで打ち、一万円使って、十一万円になった。
ちょうど十万円の勝ちである。
普通の会社員が一日で十万円稼ぐことなど、まずあり得なく、これがギャンブルの楽しさであり怖いところなのだ。
私は家に帰り妻に言った。
「なあ、しばらくの間、スロットで稼いでも良いか?お前も俺のスロットの腕知ってるだろ?。」
私がそう言った瞬間・・・妻は一瞬だけ悲しそうな顔を浮かべ・・・倒れた。」