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7 夜に来るもの

あけましておめでとうございます。

お年玉ゲリラ更新です。本年もよろしくお願いいたします。

 この町を守る主戦力は何か乗り物を持っていそうな男たちと、プリティーな少女たちの混成軍であることが判明した。五色の戦士たちの存在は確認できないが、あいつらがいないことに大金を賭ける気はないと明言しておく。

 100ジンバブエドルぐらいなら可?





 俺が提案した偵察飛行は今からだと夜になりそうなので明日に回すことになった。今日の活動は防衛力の強化に費やす。


 ちなみにその過程でこの町の名前も聞いた。この町はコル・バリエスタ。首都エスド・エスレムを取り巻く衛星都市のひとつで、対魔族の最前線になったのは最近だそうだ。


 夜が来るまでの短い時間に城壁の破壊された部分を可能な限り修復する。

 被害のひどいところは負け戦の所なので死体の片づけが終わっていなかったりもした。守り切った城壁からそちらへ人員を回し、そのまま防衛任務にも就かせる。

 俺はどこかの部隊への専属にはならなかったが、城壁の修復作業には汗を流した。変身すれば作業効率は上がるはずだが、周りから止められた。魔力炉の出力は戦闘にこそ充てるべきだ、と。

 同行していたアルシェイドはこんなのは勇者の仕事ではないと嘆いていたが、容赦なくやらせた。俺たち人造戦士は製造された時点で筋肉が発達している。ここで使わない手は無かった。


 勇者はこの町にはもともと十二人いたらしい。

 数に入らない番外編で俺、そして本部付の始まりの勇者モトサト。すべて合計して十四人だ。


 モトサトは行方不明だった。おそらく、脱出したセントラルに同乗していたのだろう。煙を焚いて脱出を図ったのが彼である可能性は高いが、不確定だ。

 正規の勇者の戦死者は四名だった。この数が多いか少ないかは分からない。完成したての未熟な勇者が多いという。一般人の兵士を守るために早めに変身した者が魔力切れで殺されたのだろう、とゴウレントは言っていた。


 女の子の戦力は完全に軍属になっている戦女神が一人、活動している戦巫女チームが最低でも三チームはあるそうだ。正確な数が分からないのはどうかと思うが、プリティーな子たちならそんな物かもしれない。勇者とは違い、最短だとわずか一年程度で能力を失うので正確な数は出せないのだろう。





 戦いの準備を進めるうちに夜の闇が近づいてきた。

 知識として知ってはいたが、陽が沈むと急速に暗くなるのだとちょっと感動する。俺は星空を見上げるのもこれがはじめて。もっとのんびりと見上げたかったと心底思う。


 誰かが打ち上げた魔法の明かりを頼りにしばらく作業を続けたが、そのうちにミュリエラちゃんたちが夕食を運んで来た。


「お待たせ。『勇者の靴底亭』特製弁当です」


 彼女の実家は食堂だという。

 残念ながらこの辺りに米食文化はないらしい。弁当と言っていたが出てきたのはハンバーガーだった。固い丸パンに挟んだ濃厚なタレをたっぷりつけた鶏肉とシャキシャキの葉物。

 美味い。実に美味である。

 このタレの味を守る為だけでも命を賭ける価値は充分にある。


「勇者殿、この後の作業はどうしましょう?」


 それを俺が決めるのか? 民兵とはいえここの軍組織はちょっとゆるすぎやしないか?

 みんな疲れているし夜間作業には危険がともなう。平時であれば間違いなく作業終了を指示する。

 だが今は、ほんの少しの城壁の高さの差が誰かの生死を分けないとも限らない。


 俺が決断しかけた時、甲高いピーという音が響いた。


「笛の音? 確か、魔族の襲撃を知らせたのは鐘だったよな?」

「笛は警戒警報だよ、ムサシさん。魔族だと確定はしていないけど、闇の中に何かがいたんだと思う」

「ありがとう、ミュリエラちゃん。ごちそうさま」


 俺はハンバーガーの最後の一切れを口の中に放り込んだ。それを飲み込むまでの間に頭を猛回転させる。


「城壁の修復作業は一旦中止。最後に壁の破損部の上に汚したロープを張っておいてくれ。オーガーあたりが乗り越えようとしたら足をひっかけるぐらいの高さに」

「了解です」

「その後は警戒態勢で待機。俺は城壁の上に上がる」

「ボクも行く! おっさんの所まででしょう、案内するよ」

「助かる」


 俺たちは城壁の墜落したセントラルに近い側に造った臨時の指揮所に駆け込んだ。

 そこにはすでに慌ただしい空気が……無かった。かわりに息をするのも憚られる様な緊迫した空間になっていた。

 先に来ていたアリアちゃんが黙礼して来た。


「状況は?」

「敵の姿は確認できないである。が、聞こえないか?」


 城壁のすぐ外には魔法の明かりが漂っている。そのおかげでゴブリンなどがこっそり侵入するのを防止できるが、逆に光が届かない所は見え難くなっている。

 月でも出ていれば違うのだろうが、今は空に瞬くのは星明かりのみ。

 ふと思ったが、この世界に月はあるのだろうか? 俺はそれすら知らない。


 言われた通りに耳を澄ます。

 耳よりは身体に感じられる物がある。これは地響き?


「重量級の足音。魔獣どもが視界の外を走り回っている?」

「やはり、そう思うか」

「しかし、何のために?」

「それは我が知りたい。トレーニング中であろうか?」


 戦場の真っ只中で走りこみか? そんなわけあるか。

 作戦面ではゴウレントよりアリアちゃんの方が頼りになる様だった。


「敵はこちらの指揮系統が壊滅したのを知っています。挑発ではないでしょうか? 戦意を失わない勇者がいたら単独で突出すると思っているのでは?」

「あり得るね。後は動き回ることで攻め口を悟られない様にしているのかも」

「するとその内、一点集中で仕掛けて来るであるか。まずい、まずいである! ムサシ、アルシェイド、小娘ども、この裏に小型の飛空艇を用意しているである。それに乗って空中で待機。敵の攻勢が開始されたら急行せよ」

「了解」

「わかったよ、おっさん」


「こっちです、勇者様」

「……ホーマン飛行士?」

「はい。あっちで指揮をとっていたら飛行経験者という事でこちらに引っ張られました。こんな小さな船は本領発揮とは言えませんが、それでもそこらの民間飛行士には負けませんぜ」

「よろしく頼む」


 用意されていた飛空艇は本当に小舟、といった感じだった。水に浮かべる船にしか見えない本体から低翼単葉型の主翼が伸びている。船の最後尾には小さな水平尾翼もある様だ。

 頑張れば10人程度は乗れると思うのだが、そうしないのは重量の関係だろうか?


 ホーマン飛行士が操縦桿(?)を握ると主翼が緑色に発光し、飛空挺はふわりと浮いた。操縦桿と言っても床から垂直に突き出したただの棒で、曲げたりひねったりは必要ない。あれを握って念じるだけで操縦出来るらしい。


「行きますぜ。しっかり掴まって下さい」

「おう。発進後、すぐにスピードを上げて城壁から離れてくれ。対空砲火に捕まりたくない」

「承知してまさあ」


 飛空艇が急発進する。

 意外に速い。加速に身体が後ろに引っ張られる。強風にゴーグルが欲しくなった。


「ちょっと、飛行士さん! 墜ちる、墜ちる! 翼が消えてるよ!」


 ミュリエラちゃんが悲鳴をあげる。

 何かと思って見てみると、翼の発光が薄れていた。


「別に、問題ないな」

「はい、問題ありませんぜ。お嬢ちゃん、高速艇に乗るのははじめてかい? スピードを上げるとなぜか浮遊光なしでも落ちなくなるんだ。俺らは『風に乗る』と呼んでるぜ」


 空力を経験的に理解して利用しているらしい。

 飛空挺は城壁の内側を旋回しながら高度を上げる。町中は真っ暗だが、城壁に沿ってリング状に明かりが灯されているのが見える。


 敵はどこだろう?

 上空から見ると何カ所か闇がうごめいている。


 と、闇の中から光弾と火球が打ち出された。ゴウレントのいる臨時指揮所のあたりに着弾する。


「!」

「大丈夫、獅子の勇者様なら持ちこたえます」

「あのおっさん、無駄に頑丈だもんね」


 ま、あそこは守りが一番固い所だ。俺たちが駆けつける必要はない。


 散発的な攻撃が指揮所に降り注いだ後、別の所でも動きがあった。

 角を振りかざした獰猛そうな魔獣が十数体、光の中に現れる。奴らの狙いは昼間の戦いで壊された城壁の破損部だ。

 いくつかある破損部の一つに突進。あそこは守っていた勇者の首級が晒されていた所だと俺は気づいた。


「砲撃は陽動だ。あちらに向かってくれ」

「了解」


 城壁は持ちこたえるだろうか?

 無理だった。

 簡単な補修がされたそれを魔獣どもは嵐のような突撃でつき崩す。


「突破された」

「まだです。内側のバリケードが効いています。直線の通りに誘導される」


 本部ビルまで一直線、な大通りに入りこまれるのはマズイ事態じゃないかと思うのだが、アリアちゃんの意見は違うようだ。


「ボクたちが行くよ! いいよね!」

「私もそれが最善だと思います」


 プリティな二人組は意見が一致している。俺はちょっと考えたが、考え込んでいる暇はないと思い直す。


「行ってくれ」

「飛行士さん、敵の前にまわして」

「ガッテンだ」


 ホーマンは飛空艇を通りの上に持っていく。

 小さな飛空艇と言っても翼長は長い。通りへの降下は不可能だ。

 どうするつもりだ?

 と思ったら、少女たちは空中に身を投げた。祈りのポーズをとって落下していく。


「この身、御身に捧げます」

「戦いの力、無敵の力、世界を護る力をこの身にやどせ」

「「神力降臨」」


 二人の姿が光に包まれる。

 光の中で二人は『変身』する。

 靴には高いヒールがつく。アンクレットが追加され、スカートにはフリルがつく。きらびやかなベルトが巻かれ、胸元を大きなブローチが飾る。白と黒の手袋をはめて、耳にはイヤリング。最後に額にティアラをはめると、髪の毛の量がなぜか増大した。


 二人は生身の人間なら到底生きていられない高さを落下して、優雅に着地した。


「吹けよ風、巻き上げろ炎。戦巫女ミュリエラ」

「大輪の氷の華を咲かせましょう。戦巫女アリア」

「「ここに降臨」」


 通りの向こうから現れる巨大な魔獣たち。その体高は四メートルあまり。少女たちとの体重差は比べるまでもない。そんな奴らが十数頭ギャロップで突進してくる。


「いくよ、アリア」

「いいわよ、いきなりの必殺技。出し惜しみなし」


「炎と氷」

「二つの力を合わせれば」

「それは無敵の力」

「すべてを砕き、すべてを浄化する」

「「氷炎の螺旋撃」」


 少女たちの舞うような動作とともに赤と白の魔力の奔流が撃ち出される。

 紅白の魔力は一直線に並んだ魔獣たちをすべて飲み込む。

 炎と氷と言うから熱膨張と収縮を利用した温度差攻撃かと思ったが、魔力の奔流が通り過ぎた後には何も残っていなかった。まさかの極大消滅呪文系? いや、城壁や周囲の建物に損害が出ていない所を見ると魔族だけを攻撃する浄化技であったらしい。


「片付いたか」

「いえ、勇者様、まだです」


 螺旋を描いた魔力が通り過ぎた後の地面から何かが立ち上がろうとしていた。

 魔獣たちよりはずっと小さい。普通の人間よりほんの少し大きい程度。それでも戦巫女の少女たちよりはずっと大きいが。


「魔獣を指揮していた第三位階の魔族です」

「ひとつ聞きたいが、彼女たちは今の大技を連発できるのか?」

「無理だな。体内の魔力の大半を放出したはずだ」


 お、アルシェイドがしゃんとなった。戦闘場面だとスイッチが切り替わるようだ。ちょっとびっくりした。


「次は俺が行く。艇を寄せてくれ」


 相手は二人だ。雷鳴の勇者一人に任せる訳にもいくまい。

 俺も立ち上がった。


 アルシェイドは素早く腕を振ってポーズを決める。そして、跳躍。空中で雷光に包まれ、ヒーローの姿へチェンジした。


 俺も腕をぐるりと回して変身ポーズをとる。これが二度目の変身。ポーズを『史上初の変身ポーズ』そのままにしておいて良かったぜ。どんなポーズを登録したか忘れていたら目も当てられない所だった。


「HENSIN」


 この発音だけは日本語だ。

 また足元が爆発する前にジャンプする。


 モード蜘蛛(スパイダー)

 蜘蛛糸を利用して軟着陸、するつもりだったが目測を誤った。見事に魔族と戦巫女の間に着地したアルシェイドと違って、路地裏につっこんでしまう。


 イテテテ。


 モード蜘蛛(スパイダー)の重装甲に守られて大きな怪我はない。が、ダメージが回復するまで出ていくのはやめておこう。


「真打登場。雷鳴の勇者アルシェイド見参!」

「ヌゥゥゥゥ。勇者と連携しているとは、話が違うではないか」

「どうやら、私たちが想像していたより指揮系統は混乱していないようですね」

「ぶち殺す前に、そっちの名を聞いておこうか」

「第三位階魔族、破甲のガング」

「同じく疾駆するソーレス」


 こっそり覗いてみると、今度の魔族はどちらも四本脚に近い存在だった。

 ガングと名乗った方はゴリラ型だ。二本足で立つこともできるが、腕を地面に付けたナックルウォークの方が素早く移動できるような体形。野太い声を発していて、見るからにパワーがありそうだ。

 ソーレスの方はケンタウロス型。持っている武器はランス。どうにかして機動力を殺さなければ苦戦は免れない相手、かな。こちらの方が知性派のようだ。


「魔力を使い果たした戦巫女など戦力にならん。そこの勇者ともども叩き潰し、犯しつくしてくれるわ」


 さすがゴリラ、エロゲ脳だ。


「待て、ガング。こいつらが組織だった抵抗を続けるとなるといささか分が悪い。すでに威力偵察の任は果たしたのだ、ここは引くぞ」

「ヌゥゥゥゥ、忌々しい」

「待てよ、逃がすと思うか?」

「逆に聞こう、雷鳴の勇者よ。私の足に追いつけるとなぜ思う?」


 出番のようだ。

 アルシェイドが言葉に詰まっている間に、俺は何食わぬ顔で魔族たちの後ろをとった。仮面のせいで素顔は見えないが、それでも何食わぬ顔をしていた、と言っておく。


 蜘蛛糸の壁(スパイダーウォール)


 俺は得意の技を自分の背後に使った。

 壁を背にして魔族たちの退路を断つ。

 誤魔化し完了。


「雷鳴の勇者では追いつけないかもしれないが、俺が逃がさなければいいだけだな。……アリア、ミュリエラ、良くやった。後は任せろ。肉弾戦は勇者(おとこ)がやる」

「お願いします」

「ヌゥゥ。蜘蛛糸を使う勇者」

「あなたがゾイタークが言っていた名無し(ネームレス)ですか?」


 なんだ? いつの間にかムサシよりカッコイイ名前がついている?

 いや、俺だってもう少し時間があればもっといい名を考えたかったんだ。ムサシが安直ならコジローでもヤマトでも、もう一回捻ってガンリュウとかシナノとか。ベンケイって手もあるか。

 え、どれも大して変わらないって?

 どうせ俺にはロクなネーミングセンスは無いよ!


「俺も少々思う所があるんだが、同じネタを繰り返し演じるのは芸人として駄目だと思う」


 いや、毎回同じネタで押し切って偉大なるマンネリズムにまで昇華した偉人もいるけどさ。


「よく分かりませんが、それはあなたが名乗り上げをやり直したいという事ですか?」

「分かっているじゃないか」

「聞きましょう」


 俺はビシリッとポーズをとった。


「存在そのものがイレギュラー。異世界勇者ムサシ、見参でござるダス」





 アレ、何か間違えた。

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