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最終話 桃太郎の試練

人物・背景などは想像力全開フル回転でお楽しみください。

 結果的に、おばあさんに家を追い出された桃太郎がテクテクと歩いていくと

黄泉の国から派遣された3人の審査員が待ち構えている。

彼らはキジ・犬・サルに姿を変え、桃太郎へ話しかける。


「そのキビ団子をくれたら一緒に鬼退治へ行っても良いよ」

「それは助かります。皆さんで分けて食べてください」


第四の試練、合格!

「秀」の魂には、いささか簡単過ぎたようだ。



 

 さあ、いよいよ大詰め!


「この門をくぐる者は、生きて帰れると思うこと無かれ!!」


 鬼が怒涛の迫力で桃太郎一行を出迎えた。


「村人に悪さをし、宝を盗んだ悪い鬼達め覚悟せよ! いざっ!!」


 たくましい青年に成長した桃太郎の活躍は、いやはや何とも勇ましい。

次々と鬼共を蹴散らし、あれよあれよと言う間に鬼の親分まで退治した。

 ちなみに、鬼の親分以外は皆、黄泉の国から派遣されたエキストラだ。

某時代劇のごとく、退治されては物陰に隠れ

赤→青→赤、若しくは青→赤→青と肌の色を塗り替えて何度も桃太郎の前に登場する。


 さて鬼退治に成功し、宝の山を大八車へ積み、さらに捕らわれていたお姫様を連れて

村へ帰った桃太郎に、この魂更生システムで最も難関な試練が待っていた。

出迎えたおばあさんが、疲れ果てた桃太郎にこう伝える。


「あなたが持ち帰った宝の全てと我が家の全財産を、村人全員に与えなさい」


 ああ! 疲れた肉体と精神の彼に、なんとご無体なことを申すのか……

しかし彼はこの試練に堪えて乗り越えなけれならない。


「まずは『おかえりなさい』だろう、ばあちゃん!?」


 と言いかけた自分をグッと堪えた桃太郎。

 命がけで村人の為に戦って取り戻した宝だけでなく、自分の全財産も捨てて一文無しになれと言う、おばあさんの指示に桃太郎がどういう態度と返事をするのか!?

長い沈黙が黄泉の国の者達とおばあさんが固唾を飲んで見守る。

誰しもが「ここまでか……」と覚悟を決めたその時


「はい、わかりました おばあさん。 私は皆の為に全ての宝と全財産を与えましょう」


 にこりと微笑み潔く全財産を手放した。

これぞ「秀」の魂である桃太郎! 黄泉の国の者達は安堵のため息を漏らす。

ところが何と、おばあさんは怪訝な表情で桃太郎の目を覗き込んだ。


「お前は一文無しになるんだよ。お前の言葉は本心かね?」


 おいおい、それは無いだろう? もう勘弁してやれよ、もうその辺で合格にしようよ、ばあちゃん!


と黄泉の国の誰しもが同じ思いを抱いていると、桃太郎はサラリとおばあさんへ言葉を返した。


「もちろんそうです、おばあさん。 なぜなら、私はあなたに育てられたのですよ。

どうして嘘をつく必要があるのでしょうか」


 するとおばあさんは残酷な一言を畳み掛けた。


「お前は、本当の宝を手放していないではないか!」

「え……?」


 桃太郎は、姫の手を固く握っていた。

そう! 桃太郎の全財産とは、鬼が島から救い出した姫だったのだ。

彼はおばあさんの言葉で気がついた。

自分は姫を愛しているのだと……。


「桃太郎様……」


 姫が桃太郎の足元へひざまずき、潤ませた瞳で懇願する。


「姫を……姫を……ずっと桃太郎様のお傍へ置いてくださいませ!

後生ですから……どうか何卒……」

「……姫……!!」


 桃太郎はあまりの苦しさに唸ってしまった。

全財産を手放し一文無しになるとは何と苦しく残酷なのであろうか。

黄泉の国の誰しもが「もう、サブクリアでいいんじゃね?」と言いかけたその時

桃太郎は、黄泉の国のみならず天の国をも揺るがす言葉を述べた。


「姫…私はあなたに会えてとても幸せです。姫への私の愛はいつでもどこでも変わりません。

なので姫…どうか私の愛別離苦をわかってください」


 ”愛別離苦”とは、親愛な者と別れるつらさ、愛する人と生別または死別する苦痛や悲しみで

仏教でいう苦行のひとつである。

地獄の底を這いずっていた罪人が、魂更生システム『桃太郎』全試練に見事合格したこの瞬間、

どこからともなく「ヤンヤー、ヤンヤー」と合格を祝う神々の言霊が響き渡り

天の国から、美しい音色を奏でる天女らを引き連れて悟りの最高の位・仏陀がご降臨された。


「桃太郎…「秀」の魂よ…よくぞ数々の試練を乗り越えました。あなたが人間へ転生する事を許可します」

「ありがたいお言葉を……」


 桃太郎は地面へ額がめり込むほど身を伏せて感謝の意を表した。

そして、仏陀でさえ驚く願いを申し出る。


「どうかお願いです。私は人間へ転生しなくて構いません。

でも代わりに、私の大切なおばあさん、おじいさん、姫が、来世も人間へ転生できますように……」


 なんという素晴らしき更生を成し遂げた魂であろうか! 彼の言葉に天は感動に震え

世界が眩しいほどに光輝くと、桃太郎はこの上ないありがたいお言葉を頂戴した。


「あっぱれ、桃太郎よ! そなたを帝として転生させ、一生幸せな人生を送る事を約束しよう」

「なんというありがたきお言葉を……!」


 桃太郎よりも先に涙したのは、育ての親、おばあさんとおじいさんであった。

その後、桃太郎は帝として転生し、おばあさん・おじいさん・生まれ変わった姫と共に

いつまでも末永く幸せに暮らしたそうだ。


 なにはともあれ、めでたしめでたし。

これが『悪魂輪廻転生システム・桃太郎』の全容である。



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