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第1話 悪魂輪廻転生システム 桃太郎誕生

人物・背景などは想像力全開フル回転でお楽しみください。

 むかしむかし地獄では、

『地獄の底で這いずる魂に試練を与え、乗り越えれば人間としての転生を許す』

という、罪人の魂<悪魂>を更生させて輪廻転生させるシステムがあった。

仏陀の気まぐれ『蜘蛛の糸』を起源とする為、全罪人に1度だけ気まぐれに訪れる地獄脱出チャンス。

だがそれは、失敗すれば完全永久に地獄の業火に焼かれ続けるという諸刃のシステムでもある。

魂に試練を与える手段として桃を使用した事から、いつしか『桃太郎』と呼ばれるようになった。

この『悪魂輪廻転生システム・桃太郎』の大まかな内容は以下の通り。


 まずは地獄で行われる選別の様子。

経典にあるように地獄には10の階層があり

罪人らは、血の池地獄・餓鬼地獄・針の山などを這いずり、常にもがき苦しんでいる。

すると果てしなく高いところからUFOキャッチャーを模した『桃』が罪人の頭上へ音も無く降りてきて、一人また一人と無差別に摘み上げ消えてゆく。

『桃』に捕まった罪人らは未曾有の恐怖に断末魔な悲鳴を上げ、彼らの叫び声は地獄の果てまで響き渡るのだが、決して気の毒に思うことなかれ。

『悪魂輪廻転生システム・桃太郎』によって地獄脱出チャンスを得たのであるから。

 次に『桃太郎』の試練について。

選ばれた罪人らは、そのまま1人ずつ桃に吸収され「核」と呼ばれる種として体育座りで待機する。

すると「果肉」と呼ばれる外壁から無数の管が伸びてきて罪人の毛穴一つ一つに突き刺さる。

ところが不思議なことに、彼らは肉体的な痛みを感じない。

なぜならこの管は、罪人らがどれだけ反省しているかをチェックする測定機器だからだ。


 さて、このように測定された反省率によって、桃の糖度が決定する。

この糖度は魂を評価する値だ。

秀>優>良>可の順で、各々に見合った試練を与えられることとなる。

 ちなみに反省率90%以上は「秀」であり

下界では、宮廷へ献上される桃(糖度16%以上)と同程度の最高級の甘さだ。

これまで無限数の罪人らが測定を受けたのだが、この「秀」の評価を得た魂は現在(下界元号・平成)においてもただ一人しかいない。

黄泉の国での準備が整った魂は『桃太郎』として試練の旅に出される!


 罪人の魂が入った桃は、三途の川へ次々と放たれる。

その川は現世の川へと続いており、目的地まで人知れず流されていく。

どんぶらこ、どんぶらこ……と進み、各々の評価(罪人の反省率)に応じた地点へ到達すると

それぞれの川岸に最初の判定員となる4人の人間が待ち構えていて、彼女らによって選別が行われる。


判定員メンバーは次の通り。


  上流:桃の評価「秀」を担当…子育てのプロフェッショナル・おばあさん。

  中流1:桃の評価「優」を担当…子育て熟練者・中年のおばさん。

  中流2:桃の評価「良」を担当…子育て初心者・新米ママさん。

  下流:桃の評価「可」を担当…自分の事だけで命一杯・小学1年生。


 下流へ行くほど判定員の選別基準は曖昧になりハードルは低くなる。

だがその代わり、桃の置かれる環境が悪くなる。

担当者の子育て失敗により転生を果たせなかったり、担当者の遊び道具に終わる率が高くなるからだ。

当然のことだが、定められた地点で拾われない場合は「試練不合格」として地獄へ戻される。


 それでは、『悪魂輪廻転生システム・桃太郎』での唯一の「秀」を例にしてこの後を紹介していこう。

 上流の川岸では、おばあさんが洗濯をしながら桃を待ち構えている。

そして程よい距離まで近づいたとき、おばあさんは審査を開始する。


「甘い桃がこっちへ来い。甘い桃だけこっちへ来い」


 おばあさんの言葉に該当する桃は、どんぶらこと川岸へ流されていく。

そして無事に川岸到着し拾われれば第一の試練合格だ。

当然、「秀」の魂は合格!


 さて、桃を家に持って帰ったおばあさんは第二の試練に取り掛かる。

小柄な身体に似合わぬ大きな包丁をよいしょと持ち上げると

家を揺るがすほどの大きな掛け声で、おじいさんの前で桃を割った。


「え~いっ!」


 これは「運」に任せるしかない。

おばあさんは血しぶきを浴びたくないので自ずと気合が入る。

この時は運良くパックリと割れた桃から赤ん坊=「秀」の魂が出てきた。

尚、ここで血しぶきが上がれば「試練不合格」として地獄へ戻される。

当然、「秀」の魂は第二の試練も合格!

彼は規約通りに「桃太郎」と命名された。


 ところで、子育てのプロフェッショナル・おばあさんの子育ては素晴らしい。

「秀」の評価を受けた魂であっても元は罪人。

年頃になれば世に背く”かぶき者”(現在は不良と呼ぶ)になるところだが

まるで教師の覚えめでたき生徒が集まった1組もしくはA組から立候補し当選した生徒会長のように、清く正しく真っ直ぐな少年に育ち


「明るい未来を築くことがボクの夢」


 と語る模範的な青年へと成長した。


 ある日、おばあさんは桃太郎へ第三の試練を与える。

『鬼が島』へ鬼を退治に行け…と。

桃太郎は有無を言う間もなくキビ団子を持たされ、家を出される。

驚いた彼が家に戻ろうと振り返ると、おばあさんは、おじいさんと村人全員を引き連れ見送った。

「万歳!万歳!」と追い立てるので桃太郎は帰る事ができない。

たいていの桃太郎(罪人の魂)は


「ふざけんじゃねぇ! クソババア!」


 とキレて試練不合格になり直ちに地獄へ送り返されるところだが、彼は至って冷静に行動した。


「皆の為に鬼退治へ行ってきます!」


 と大きく手を振り旅立ったのだ。

さすがは評価「秀」の魂! 第三の試練も難なく合格!

次に第四の試練が待ち構えているのだが、それは次回紹介しよう。

 

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