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姉と僕の交換ノート1

姉さんがどんな印象を牧都さんに抱いたのか、それを探るため、交換ノートをすることにした。それは織都さんからの提案であり、それとなく聞ける方法の中で一番良い距離感を保てるからだった。

姉さんは、そんな僕の思惑を知らずに快く交換ノートをすることを、引き受けてくれた。

普段の牧都さんは才能をひた隠しにしているし、深く喋らない限り彼は目立つようなタイプではない。いや、あえて目立たないようにしていると言った方が正しいんだろうか? 彼の凄さは一部の生徒しか知らないことだ。

その才能を本人がひた隠ししているから、それが一部の生徒しか知らない理由だ。

姉さんは同じ学校でも、織都さんがどんな顔をしているかは知らない。

だから、駅前で歌っていた男性が、牧都さんだとはわからないはずだ。普段の彼と、あの時の彼とは雰囲気が全くの別物だから。

例え、ギターを担いでいても、同一人物だと見極めた人を僕は見たことがない。牧都さんと織都さんの幼馴染である暮里朱李くれさとしゅりさんでさえ、そんな強者は見たことはないらしい。

まあ、僕の場合は例外だよ?

絶対音感を持っているから。

僕が言いたいのは、絶対音感を持っていないで見極めた強者はいないって話な訳なのです。

姉さんは前に見た感じ、絶対音感を持ってなさそうだったから、女の勘が働けば良いなと思ってる。牧都さんのためにも、姉さんのためにも。

まずはそれとなく探ろう。

そう考えながら、交換ノート一日目のページを開けば……。

僕は驚きのあまり、目を見開いた。

偶然、泊まりに来ていた織都さんの元へと駆け寄り、狭いこたつなのにも関わらず、無理矢理隣へと入り、僕は交換ノートを見せた。

「見てよ、織都さん」

僕がそう声をかけた。

すると、ん〜……とそう唸りながら織都さんは僕の肩に頭がぶつかるくらい近づいてきて、姉さんとの交換ノートを読んでいる。

「間違えなく、牧都のことだな」

そうボソリと呟いて、織都さんは頬杖をついて僕のことを見た後、また寝てしまった。

そんな織都さんを眺めた後、僕はまた姉さんが書いた文章を読み始める。

ーー交換ノートを提案してきてくれるなんてとても嬉しいです。でも、何を書いて良いかわからなく、最近感動したことについて書きたいと思います。駅前で歌っている人がいて、その人の声があまりに綺麗だから聞き惚れてしまいました。

ーーあんな風に歌えたら良いなと思います。彼とも話してみたいと思いました。

ーー同じ制服を着ていて、ネクタイの色が違っていたから上級生でしょうか。

ーーぼちぼち探してみようと思います。どうしてでしょうか、彼と出会うことで私も変われるような気がするのです。だから、どうしても私は彼と話してみたいのです。

そう書かれた文章に対して、僕はそれでも姉さんが牧都さんを見つけ出さなければいけないと思った。そうじゃないと、姉さんは“僕の姉”としてしか見てくれないような気がして、彼らが出会うまでは僕らはお節介をしてはいけないような気がした。

だけど、一言だけこう書く。

ーー彼に会いたいならば、見た目に騙されてはいけませんよ、姉さん。

ーー僕は彼が誰だが知っていますが、後々姉さんのためになりませんし、傷つくことになりますから自分で探し出して下さいね。

ーーでは、また。

素っ気ないような気がしないでもないが、本当に姉さんのためにならないからこうする他ない。牧都さんは、織都さんが僕のことを良く思っていたからすんなり受け入れられただけで、姉さんが彼と仲良くなれるかだなんて限らないのだ。

牧都さんには既に、朱李さんに依存してしまっている。

だからこれ以上大切な人は作らないかもしれないと、織都さんは言っていたから。


次の日の朝。

「全く、こたつで寝てたの? 風邪ひいちゃうよ、織都さん」

そう言って僕は織都さんを起こす。

色鉛筆が散らばっているから、僕が寝た後に起きて絵を描いていたんだろうか。

相変わらず景色の絵ばかりだ。

そう考えながら、絵が描かれている画用紙を回収していると、一枚だけ人が描かれていた。珍しいと考えながらその絵を見ると、見覚えのあるマフラーと手袋をつけた誰かが描かれていた。

正面を向いてないから、これが誰だがわからないなあとそう考えていると、肩が急に重くなる。寝ぼけてるといつもこうなんだから。

織都さんは寝ぼけている時、誰かの側に居たがる癖を持っている。

しょうがないなあとそう思っていれば、ボソリと織都さんは言う。

「それ、柚利」

その発言に、どうりで見たことのあるマフラーて手袋だと思った。

織都さんのマフラーと手袋を買いに行った時、僕も気に入ったものを見つけたから実は買ってたの。それにしても織都さんが人物画を描くのは珍しい。

僕がそう考えていることを見抜くように、織都さんは……、

「人物画を描くのは、……家族以外ではお前だけだよ」

そう言った。

金髪の髪が僕のうなじを擽る。

くすぐったさを感じながら、体温を感じていた背中は徐々に冷えていった。

織都さん、目が覚めたようだ。

……ったく、だから彼女さんにフラれちゃうんだよ、織都さん。

一ヶ月前、

「……柚利くんと私、どっちが大切なのよ。織都、答えて!」

そう言われて、僕と織都さんは答えてしまったんだ。馬鹿だなあ、多くの女性は自分を一番に想って欲しいと思っているのに。

僕なんかより、織都さんがしたいことを彼女さんの方が分かってくれたはずなのに、なんで僕を選んじゃったのかな? と思う。

そう思いながらも僕は矛盾していて。本当は、嬉しかった。

そう言えば、そんな発言を彼女がしたのは確か、僕とルームシェアするから同居出来ないと、彼女からの同居の申し出を断わったからだったと思う。

そう考えると……。

織都さんとの関係を、恋人関係だと間違われても仕方がないことなのかもしれない。

まあ、織都さんとはそんな関係にはなることはあり得ないことなんだけど。

何度か、学校の腐女子に捕まって、織都さんと何処までなら出来る? と聞かれたことがある。そのたび、織都さんとはそんな関係にはならないとそう言っているのに、僕はいつの間にか腐女子達にはツンデレキャラとして定着されてしまった。

流石に織都さんとキスとかすると考えると……、腕に鳥肌が立ってるしね。

普通に恋愛対象は女の子だし、ただ好きな相手がいないだけだし。

まあ、そんなことを直接聞いてくる腐女子は一部だし、後の女子はただ傍観しているだけなのでまあいいかと思っている。








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