姉と僕の交換ノート4
偶然は偶然を呼ぶ。
その偶然は必然だったのか?
それを判断出来るのは、僕らではないのは確かなことである。
絵の具の染みを、織都さんのコートから見つけたため、僕は一人この前の店へと歩みを進めていた時、偶然見かけてしまった。
……姉さんがまた、牧都さんの歌を聴きに来て聴いている姿を。
それを牧都さんは眺め、穏やかな顔つきで歌を歌い続けている姿を。
その姿を見かけたのは、偶然か。それとも必然のことだったのか。
僕はぼんやりと考えながら、身嗜みを気にしない織都さんのために、服屋へと向かい続ける。……何も見ていないフリをして。
牧都さんに頼まれたのだ。何年も同じ服を着て、洗濯したことにより、よれよれになった服達を総入れ替えして欲しいと。そのため、服を買うには多すぎるくらいに織都さんの両親から予算を預かっている。
ちなみに、冬服以外の服は全て僕が独断と偏見で選んだ、織都さんの似合う服に、既にすり替えておいた。冬服は今週中にはすり替えておくつもり。
マフラーと手袋は、僕のお小遣いから出したプレゼントだけれど。
今日は僕が織都さんの家へと泊まる日だ。ルームシェアをするのは、大学生になってからだけど、ほぼ毎日を織都さんとは過ごしている。
……絵の具がついても、大半の色では目立たないような色の服にしよう。
僕は、そう考えながら織都さんのために服を選び始めたのだった。
部屋着用に、何着か長年愛用していた服を何着ずつか残して、僕は織都さんの服の整理を終わらせた。靴とかは後で、無理矢理でも買い物に付き合わせた時にでも入手することにしようかな。流石に、服はサイズがわかってるから勝手に買うことは出来るけど、靴とかは種類によってそのサイズに合う合わないがあるから頼み込んで買い物に付き合ってもらった時に入手することにする。
織都さんは、センスが良い。
だから、予め服さえ用意しておけば、それに合うように着こなせる。
織都さんのアトリエにあるクローゼットに冬服を整理した後、疲れ切った自分自身の体を、程よく柔らかいソファーベッドに埋めるように横になる。
瞼が重く感じた時には遅かった。
直ぐに僕は、気絶するように深い眠りについていたのだった。
時計を見れば、午前三時。
基本的に食には関心のない僕は、夕ご飯を食べていないことに気づいたが、まあ良いかとそう思ってしまう。真っ暗の中、ランプだけをつけて無心に絵を描き続ける織都さんの姿を、しばらくして暗闇に目が慣れた頃に視界に入る。僕は妙にさびしくなり、織都さんの背中に抱きついた。
またしばらくして、
「どうした、柚利?」
心配そうにするそんな声が聞こえてきたが、何も言わず抱きしめる力を強くすれば、鉛筆が机の上に置かれる音がした。思わず、顔を上げれば穏やかに笑う織都さんの顔が見えて、僕は抱きしめる力を緩めてしまったその瞬間、小柄な僕を包み込むように抱きしめてくれた。
時々、本当に時々のことなんだけど、僕は凄く不安になることがある。
織都さんに抱きしめられると、その不安は直ぐに消え去ってしまうんだ。
織都さんの温もりを感じられることこそ、僕が生きていると感じる時。
命とは儚いものだ。
僕はきっと、織都さんよりも早くこの世界からいなくなるのだろう。
何故か、そうだとわかるんだ。
だから、恋することは出来ない。
好きな人こそ悲しませたくないと、僕は思うから人とは違う形で自分が生きた証を残したいと思っている。だから、今は少しでも織都さんの側にいたい。
「織都さん、お願いがあるの」
……笑顔で言えたかな?
それが僕は心配でならなかった。




