本物のせーえきとは~条件次第でどうにでもなる~★
「はっ!」
暴れて疲れて眠って、なんて本当に『普通』の子供みたいに見えるチノ・アーサタント。今回は彼女について詳しく説明していこう。
「くそ! わたしとしたことが寝てしまったなんてな!! ふんっ寝てあげただけ感謝してほしいね!」
彼女はまず自分が一番だと思っている。実際にそうなのかもしれないが。
「ううん? やはりおかしいマナが増えているとは思えない」
「起きたんすか」
「れーじ!」
布団から起き上がると下半身だけ布団に隠れるように体育座りになる。その顔はいやらしくにやけている。どうやらヨーグルトについて詳しく突く気でいる。
「わたしのこと、知りたいでしょ」
「まあ、一応マスターですし」
ふふん、と偉そうに条件で教えてやろう、と言い切った。
「条件?」
「本物の精液をくれ」
零司は普段からポーカーフェイスだがこの時ばかりは命の危険を感じたのか、ピクリと眉を動かした。
どうやら彼女は勘付いている、と察したのだ。
「精液というのは男の」
「わかったわかった。わかりましたよ」
ドヤ顔でいきなり性的な話をしだすチノに負けないように声を張り静止させた。
「ちょっと待っててください」
男にも準備があるのだ、と布団からチノを出さないように自分が部屋から退室しようとした、するとチノが実力行使で零司を止めた。どうやって止めたかというと、なんと言い表すのだろうか、空気を掴むように手の平を零司に向け、動きを止めた。
「む。なぜ王女が待たなくちゃならんのだ! 今すぐに! 今すぐにだ!」
(こいつ咥えさせたろか……!!)
いい加減立場を弁えさせてやろうかと、零司の堪忍袋も切れそうな時。
「ホイホイ出さないか! 早く! 王だぞ! ねえ!」
「精霊界では王女だったかもしれないすけどここでは俺が上なんすよ。第一年齢的にも俺が上でしょう」
「わたしはザッと数えて三千だけど」
零司の思考がハタリと止まった。別にチノは何もしていない。チノの言葉に思考が停止したのだ。
「なっ……」
「ふん、わたしは精霊界のハジメから存在しているような者なんだからね! れーじみたいな『おこちゃま』とは違うんだよ! あっはっはっ!」
出たバカ笑い。チノ・アーサタントはよく笑う。もううるせえくらいに笑う。
「じゃあ一つ俺から真実を教える」
「なあに?」
探偵らしくここは彼女に応えることにするか、とマスターの威厳を見せるためか敬語をやめる零司。
チノは可愛らしく、なあに? なんて首を傾げて言葉を待っている。世間でいうあざといに部類する。
「アレ(ヨーグルト)は精液じゃないんだよ」
「なっ!」
今度はチノの思考が停止した。否、やはりか、とも確信して思考が止まる。別に怒りはしない、ヨーグルト、美味かったからな。とチノは珍しく暴れることはなかった。
「えっ!! う、うそ。うそ、だよ! せーえきってこんなに苦いのか!? うえっなんだこれ! 今まで食べてきた中で一番まずいかもしれない!」
「なんか悲しくなるんでやめてくれませんか」
本物の精液を味わったらしいちのは正直な感想を。そして頑張った零司は心身共に死にたいと思った。
「いや、でもクセになる味だ! もっかいくれ!」
「無理だ!!」
「お、おお……感情的にならないでよ……怖いな」
無茶なことを言い出す精霊に零司がムキになる。当然と言えば当然か。仮に零司が「セックスしよう」なんて言い出したら、チノは興味津々で始めるかもしれないが、零司は零司だ。
性欲なんてほぼ無いぞ、なんて人間が零司なわけだ。しかも、チノは好みの女性ではない。尚更精液を出せ、だなんて無理がある。
「でもまーマナが回復したかも。これで条件はクリアだね! よかろう! ならば見せよう! わたしの最強の武器を!」
「あ、俺の知りたいことは聞いてくれないんすか」
「ふん。下民の知りたいことなんて知らないからね! ほら! 行くぞ~!」
今朝、男の意識を飛ばしたように、右腕だけだらんと下ろして左腕を宙に仰がせる。そこから出てきたものは。
「棒?」
「ばっか! いや、棒といえばそうだけど……伸びろ! 如意棒!」
チノ・アーサタントが用いる最強の武器。それは『如意棒』
「西遊記すか」
ご存知な方はご存知かもしれぬが、この棒はただの棒ではない。自在に伸び縮みする伸縮性に優れている。耐久力もある。
「ふふん、この如意棒は孫悟空という最強の男から譲り受けたもの。特別に触らせてやるぞ! 我が夫よ! ふははは!」
マナが戻り上機嫌になったのか、絶対に触らせない如意棒を差し出してきたのだが。
「っ!」
「ん? あ、ああ。そっか、下民には触れることすらできないんだっけ」
触れようとしたその時、指先に電撃が走ってきた。一瞬で終わったが、かなりの激痛だ。頭がくらりとした。
「あっわたしったらっ! おっ夫ってっ! や、やだあ! 気が早いよぅ! もう! 好き!」
今その発言に気づいたのか、チノが顔を赤らめて如意棒で何度も頭をつついてくる。正直痛い、意識が飛びそうだ。
「……」
「うっそ! 死んじゃった? いや生きているか……」
~おまけ~
チノ・アーサタントってこんな感じです。あくまでもイメージ。
イラストくそ恥ずかしいの舞~~(^O^)~~