5.異世界へ行く方法
さて、異世界学について説明しよう。
たとえば、そこのあなた(中略)これが一例です。
この平行世界…つまり、IFの世界に行く方法を発見いたしました。
我々は、その方法を用いて他の世界の謎を解明していくと宣言させてもらう。
20☓☓年 磯貝博士の公式記者発表より抜粋
あれから時は流れて、ついに終業式…あの後、美空はなんだかんだ言って、博士から異世界学についての講義を熱心に受けていた。
磯貝博士は、常識こそないものの、異世界学の知識についてはさすがと言うべきである。
「磯貝博士! こんにちわ!」
美空がいつも通り研究所に入るが、いつもなら資料の山に埋もれている博士の姿を見つけることはできなかった。
「磯貝博士? いらっしゃらないんですか?」
美空が声をかけるが返事は帰ってこない。
「あぁ…美空君か…すまないが、そこの資料を取ってくれないか? 一番上に積んである黒いファイルだ。」
突然、磯貝博士の声がした。
美空が声のした方を振り向くと、そこには、いつも通りに構えた磯貝博士の姿があった。
「今日は、そっちですか…。」
「まぁな…少々迷ったのだが、いつも通りだとマンネリになる可能性も…それよりも、そこの黒いファイルを早くとってくれないか…わざわざ私が、1メートル移動しなければならなくなる…。」
「はぁ…これですか?」
美空は、近くにあった黒いファイルを磯貝博士の方に持っていく。
磯貝博士は、それを受け取るなり、ファイルを開いて中から一枚の紙を取り出した。
「さてと…今日から冬休みだからな…研究所を離れて少し遠くへ行く。」
「なるほど…つまり、準備をして来いと…」
「それは、必要ない。今から出発するぞ。」
美空の言葉をさえぎるような形で、磯貝博士がそう告げた。
美空は、何かの冗談じゃないかと思っていたが、磯貝博士がいつになく真剣な顔をしていたので、冗談ではないと気づかされる。
「いや…しかし、準備なしでは…」
「心配することはない…ちなみに向こうからは、大体、現在時間の±5分以内の誤差で戻ってくることができる…つまり、今から出発してもある一定期間中に帰ってくれば、西暦2056年12月22日の午後2時15分から同日午後2時25分の間に戻ってこれるから問題はない。」
磯貝博士は、そう断言して実験室の方に歩いて行く。
いったいどこへ行くのかと言う疑問を抱えつつ、美空はその背中を追いかけた。
磯貝博士について、実験室へ入ると何やら巨大な機械が設置してあった。
シルバーカプセルの中に座席のようなものが置いてあり、たくさんのボタンがついていた。
「磯貝博士…これは?」
「ふむ…これは、異世界へ行くための機械だ…名前はない。乗るぞ。」
磯貝博士は、美空の質問にまともに答えることもなくそれに乗り込んだ。
「えっ磯貝博士…その…これは?」
「つべこべ言わずに乗りたまえ。出発するぞ。」
「はっはい…乗らせていただきます…。」
美空は、恐る恐る乗り込んだ。
中に入ると、天井が閉じて七色に光り始める。その瞬間、視界いっぱいに幻想的な光が浮かび始めた。
「きれい…。」
「ほう…驚いてくれたか…この演出に一番金をつぎ込んだから当然だろうな! おかげで安全面が不安だが、大丈夫だろう!」
「どこからその自信は来るんですか!」
そんな風に叫んでみても時すでに遅し、実際にマシンは、どこかの世界に向かっているのだ。
「まぁ気にするな! たとえ、帰れないことはあっても死にはしない!」
「もう勘弁して!」
もっと早くいろいろと確認すべきだったという後悔は、すでに遅いのだ…
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