3.こうして美空は助手になった
すべての世界の謎を一人に解けるのか? などと批判されることが多くなっている。
確かに、世界の謎を解くということは、一中一夜でできるものではないし、一人で成し得るものではない。
だが、目標は高く持つべきというのが、私の考えだ。
20☓☓年 磯貝博士の公式会見より抜粋
研究所の中…最新鋭の機器と大量の資料、ぽてった(砂糖味)と豆板醤に囲まれて美空は答えを迫られていた。
「聞いているだろう? 早く答えを出してくれないか? 私の助手になるか、「イエス」または「はい」、二択にしてやっているんだ…。」
「磯貝博士、イエスは和訳すると、はいという意味になるので、その質問には意味がないと思います。」
「つまり、私の助手になるということだな?」
さっきから、このやり取りの繰り返しとなっていた。
なぜ、磯貝博士がここまで美空にこだわるのかわからないが、明確な理由がないともいえないはずだ。彼女の場合、仮にあったとしても話さないだろうが…
「とにかく! このお話はお受けできません!」
「そうか…仕方ないな、それでは、報酬としてこれはどうだ?」
磯貝博士の手にはある写真が握られていた。
その写真を見た美空は顔をだるまのように赤くした。
「だっ誰がそんなものでお話を受けるとも…。」
「ふむ…そう言っておる割には、手が着実にこちらへ伸びてきておるぞ。」
「いっいやこれは…その…。」
確かに、顔は博士の方を向いていなかったのだが、美空の手は確実にその写真へと伸びていてあと数センチと言ったところに来ていた。
「べっ別に写真がほしいから話を受けるっていうわけじゃなりませんからね!」
美空は、そう言って博士の手から写真を奪い取った。
その様子を見た磯貝博士は、満足そうにうなづく。
「交渉成立だな…まぁ今日はやることないから、明日から頼むよ。」
磯貝博士は、豆板醤の入っていた容器を持って立ち去って行った。
「どうしよう…。」
写真につられて勢いで話を受けてしまった美空の後悔が尽きることはおそらくないであろう。
「まぁいいか…変わってるけど悪い人じゃないし…。」
美空は、研究所から足取り軽く出て行った。
美空が去った研究所。
先ほど美空がいた部屋の奥にある実験室…磯貝博士はこの部屋にいた。
「美空も帰ったことですし、僕も帰らせてもらいますよ。」
「そうか…もう少し君と話をしたかったところだが、仕方なかろうな…。」
部屋にいた少年は、コートを着て帰りの準備を始める。
磯貝博士がふと窓の外を見ると、白い雪がちらほらと降ってきた。
「初雪か…今年はいつもより早いな…。」
「言われてみればそうですね…まぁこの程度なら問題ないでしょう。それでは失礼します。」
少年は、頭を下げて実験室から出て行き、部屋には磯貝博士だけが残っているといった状況になった。
「それにしても、雪が降るほど冷え込んでいたとは…美空君はよくあんな薄着で外に出られるな…。」
私も少しは丈夫にならねばな…などとつぶやきながら、磯貝博士はコーヒーに口を付けた。
研究所のすぐ近くにある雑木林の中…
美空は、緑松町の方に向けて歩いていた。
いくら近いといってもこの研究所から美空の家まで約10分かかる。そんな中、雪が降り出したものだから、美空はいつもよりも歩調を速めて歩いていた。
「何でこういうときに限って雪なのよ…まったく…。」
寒いながらもどこか憎めない雪に悪態をつきながら、美空は雑木林の中を進んで行った。
「美空!」
その時、後ろから声をかけられて美空は立ち止まった。
「宙太! どうしてここに?」
「いやーちょっと磯貝博士に用事があったんだけど、立て込んでたみたいだから…。」
宙太は、頭をかきながら歩み寄ってきた。宙太が磯貝博士を訪ねた理由が気になったが、美空は、そのことについて聞かずに彼の方を見つめて立ち止まっている。
「まったく…こんな日にこんな格好で外に出るなんて…風邪ひいたら大変だよ…。」
宙太は、美空に自分の着ていたコートを着せる。
「これって…。」
「いいのいいの! また今度返してね!」
そう言い残して宙太は去って行った。
「ありがとう…。」
美空のそんな声が聞こえていたのかいないのかわからないが、彼は片手をあげてから走って行った。
読んでいただきありがとうございます。
1話目から名前が出てきていた宙太君が登場しましたが、彼に関しては、しばらくの間名前のみの登場(名前すら出ないかもしれませんが)になるかと思います…決して、一発変換できないから登場回数が多いと面倒だと言うことではありません。
これからもよろしくお願いします。






