2.博士の頼み
幾千もの時空の狭間にこの世界は存在する。
はたしてそれぞれの世界に対して、すべての疑問を払拭するときは来るのだろうか?
私は、そのことに関して疑問を抱かざるを得ないのです。
20☓☓年 岸渡博士の発言より
どの程度についての議論を終ららせる事の出来た美空は、胸をホッとなでおろしていた。
「結局、君は何をしに来たのだね? まさか、どの程度だのその程度だの言いに来たわけではないだろう? まったく…私とて忙しいんだから、さっさと本題に入ってほしいものだ…。」
誰のせいでこんな事態になっていると思っているんですか! とでも言いたいのを抑えつつ、美空は本題に入ることとした。
「私が、ここに来た理由は、あなたに呼ばれたからなのですが…。」
「私がか? そう言えば、君の家に電話を入れたような気がするな…。」
どうやら磯貝博士は、自分で美空を呼び出しておきながら、今の今まで用件を忘れていたのか、頭に電球でも浮かんでそうなポーズを取っている。
「はぁ…博士は、メモの一つや二つ取ったらどうなんですか?」
「一つや二つ?」
「えっ…まさか…。」
この瞬間、美空は何か、感づいてしまった…
このパターンはやばいと…
「一つや二つではわからん…もう少し具体的な数値データを出してくれ…そうだな、例えば…」
「また、始まっちゃった…どうしよう…。」
メモの議論が終わるまで、あと1時間はかかりそうである…
「美空君! ぼさっとしていないで、意見を述べないか!」
「えっあっはい…。」
「えっなのか、あっなのか、はいなのかはっきりしたまえ!」
ダメだこりゃ…
この瞬間、美空は磯村博士から用件を聞くのをあきらめていた。
「さて、ずいぶんと脱線したが、本題に入ろう…。」
メモの話を終えた磯貝博士は、机の上に置いてあるポテチを食べながらそう言った。
「食べながら話すのは、やめていただけますか?」
「まぁ気にするな! ポテトチップス…だったかを食べながら、人に話をしてはいけないという法律は、私の知る限り存在しないぞ。」
「わかりました…それに関しては、一千万歩譲るとしましょう…」
彼女にしては珍しく、食事のマナーに対して気にしないとした。
なぜなら、それ以上に気になることがあったからとしか言いようがないであろう…
「何で、ポテチの上に豆板醤乗っけてるんですか? 辛いのがほしかったら、別のがあると思うのですが…。」
そう…磯貝博士は、ぽてった(砂糖味)に豆板醤を載せて食べているのである。
なお、ぽてったというのは、あるお菓子メーカーが出しているポテチで一般的なうすしお味を始めとして、砂糖味やトウガラシ味、韓国キムチ味、闇鍋味等を展開している商品である。
そんなぽてったの中で、なぜか砂糖味に豆板醤を乗っけているのである。
「なぜかと言うのは愚問だな…うまいからに決まっているだろう…そんなことよりも本題に入らせてもらうが、端的に言えば、君に助手になってもらいたい…。」
その瞬間、美空はすべての時が止まったように感じた。
美空は、世界的権威といわれている博士の助手に選ばれたのだ…
「でも、そのお話は、なしにできませんか?」
助手ということは、常に磯貝博士のそばにいることになる。美空は、それだけは死んでも嫌だと考えていた。
おそらく、この人のそばに四六時中いたら、ストレスでおかしくなるとまで考えていたのだ。
「そうか…残念だが、君の噂のある事ないことすべて言いふらすか…ネットで。」
「ある事ないことってどういうことですか?」
「そうだな…たとえば、2日前の午後5時ごろ、君は、母君が作っている夕食をつまみ食いしていただろう?」
美空は、衝撃を受けた。
いくら近くに住んでいるからといって、なぜそこまで知っているのだろうか?
「ふっふっふ…君の家の各所や学校、町中に至るまで徹底的に仕掛けた隠しカメラの映像で君の行動は手に取るようにわかるのだよ! たとえ、トイレの中でも安心せぬことだな!」
「隠しカメラ…いつの間に…。」
「宙太君に協力してもらった。」
また、宙太か! 確かに宙太は、家の隅々まで入ったことあるけど、まさか、そこまでやっていたとは…侮れないわ…
美空は、なぜか博士に対する怒りよりも磯村宙太について考えていた。
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