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拠点整備一日目

「大丈夫か、サクラ?」

「……うん、平気」

 全然平気そうには見えない青白い顔で、サクラはそう口にした。やせ我慢なのがバレバレだ。

 拠点にしようと思っている更地へ向かい、その目的地が近くなってきたらこの始末だ。

 やはりあの場所には何かがあったんだろう。俺には影響ないが、サクラの今の姿が証拠だろう。

 このままサクラを放って置くわけにもいかないし、何がおきているか調べるためにも、俺はサクラに鑑定を使った。



【ステータス】

種族:エンシャントゴブリン

性別:女

名前:タカトウ サクラ

年齢:9

職業:無職

体調:魔力中毒

属性:水、木、闇、無(適合率高)

才能:魔法LvMAX、双剣LvMAX、弓Lv1、

能力:両利き、半精霊、先祖返り

熟練度:



 魔力中毒ね。なんとなく想像はつくが、見慣れない言葉だ。詳しい説明を見ようと、魔力中毒という単語に意識を集中してみる。


【魔力中毒】

膨大な魔力にあてられることで起きる症状。

吐き気、眩暈、体調不良、長期にわたりかかると衰弱し死亡する場合もある。動物だけではなく植物にも悪影響を与え、ひどいところでは何も生えることがない場合もある。ただし、魔力にあたらなければすぐに回復する。

尚、魔法の耐性次第で中毒を起こす魔力の量は変わる。魔力耐性が強ければ強いほど、中毒にはなりにくい。



 なるほどね。つまり、あの更地には膨大な魔力があり、加えてそれは慢性的で、そのせいで生き物がいないということだろう。

 デメリットといえば、デメリットだが対処法がないじゃないわけじゃない。とりあえずは、試してみるか。

「ロークシーズ」

 右手をサクラの頭に載せ、魔法耐性を上げる魔法をサクラに唱える。

 淡く白い輝きがサクラを包み、魔法は発動した。

 顔色こそはまだ青白いが、先ほどまで荒かった呼吸は治まり、ふらついていた足元もしっかりしている。どうやら、上手くいった様だ。

 魔法耐性魔法は三日程持つから、当分は切れそうになったらかけなおせばいいだろう。

 根本的な解決もできなくはないと思うが、今のところするつもりはない。現段階ではデメリットしかないからだ。

 正直、拠点としての施設や設備がない状態で、外敵に来られるのは非常にまずい。少なくとも、ある程度生活基盤が整うまではこのままでいくつもりだ。他にどんな悪影響があるかわからないから、将来的には根本的な解決をするつもりだが。

 そんなことを考えながら歩いていると、目的地である更地へと着いていた。


 アシッドレインなんて名前や類似の魔法が、ゲームにはそこそこ出てくる。要は強力な酸性雨を敵に当てるというものだ。まあ、毒の魔法もあったりするから、そこまで違和感はない。もっとも、所詮、ゲームだと言われれば何も言えない。だが、この世界には魔法があり、その魔法もゲームに匹敵、あるいは超えている場合がある以上可能性はある。

 結局、何が言いたいかというと、簡単なことだ。酸性雨を出せるんなら、海水も出せないかということである。

「カスラ」

 右手を突き出し海水を思い浮かべ、魔力の質と量を以前使ったときより幾分上昇させ魔法を唱える。

 右手に集中していた魔力が消え、同時に右手の先に大きな水球が浮かんでいる。別段、以前と変わったところは見られない。

「味で確かめるしかないよな」

 音を立てることもなく上下に揺れている水球に両手を突っ込み、すくうとそのまま口に運ぶ。

 うん、しょっぱい。おまけに、植物なんて見当たらないのに、生臭い。まちがいなく、海水の味だ。よし、これで塩が作れる! それにもう一つ考えていたことも、成功する確率が高い。これは早速やってみるべきだろう。

「ルルス」

 鉄をイメージしながら魔力を練り上げ、真言を唱える。右手が輝くと同時に、手のひらに灰色の物体が出現する。光が治まる頃には金属のインゴットが、鈍く輝いていた。――まごうことなき、鉄である。

 ちなみに、ルルスは土生成呪文でイメージした形で土を作成できる。対してリリクは土成形呪文である。既存の大地を利用して、土を変形させる魔法だ。落とし穴なんかはリリクでしかできないが、巨大な、たとえば城壁のようなものを作るとしたら、その分の大地をきっかり使うため高低差がいびつになるのでルルスの方がいい。

「こっちも、成功だな」

 魔法でできた鉄を、手でもてあそびながらつぶやく。狙い通りとはいえ、こうも上手くいくとは思わなかった。

 ロジン――植物生成呪文で向こうの世界の桜を作り出したときから思っていた。水生成呪文で海水や温泉、土生成呪文で鉱物等を魔力の質や量を変えれば生み出せるんじゃないかと。そして、その目論見は成功した。

 どんな鉱物でも生み出せるかどうかはわからないため、まだまだ試す必要はあるがそれでも鉄のみということはないだろう。それどころか、ファンタジーの世界だ。漫画や小説でおなじみのミスリルやオリハルコンなんかも生成できるかもしれない。鍛冶師を目指す身としては嬉しすぎるだろう。それにこれを使えば家も立派なものが作れる。どうやら、野宿はしなくてもよさそうだ。

 これから先の展開を考え色々計画していると、服のすそをサクラが引っ張るので視線をそちらに向けた。

「……スバル、お腹空いた」

 腹に手を当てかわいらしいしぐさで、サクラが俺を見上げている。心なし、顔が赤い気がするのは、催促が恥ずかしいと思ったからかもな。ずっと歩き詰めだったんだから、成長期の子供じゃ我慢は難しいだろうから仕方ないことだろう。

 実験もいいがまずは腹ごしらえとしよう、俺も腹減ったしな。血抜きもすんだだろうから、クマ肉も食べれるだろう。

 ついでだ、毛皮なんかもバラして解体しよう。今のところ無駄にできるものはないからな。解体方法とか、サバイバルの本に書いてあるだろうから、それを参考にしながらだな。

 俺は近くに置いてあった背嚢に手を伸ばすと中から本を取り出し、サバイバルの本を取り出すと血抜きしてあるクマのもとへ向かう。

「サクラ、手伝ってくれ。バラしてクマでメシにしよう」

「……うん」


 濃い夜の闇が辺りを覆い、電灯なんてない森の中はただただ暗い。明かりといえば空に浮かぶ黄色い満月と、肉を焼くための焚き火くらいである。

「美味いか、サクラ」

「……うん、おいしい」

 クマ肉をほおばりながら、サクラがうなずく。その言葉に嘘は無いようで、結構な量を口にしている。肉自体が美味いのもそうだが、塩の味も気に入ったのかもしれないな。話を聞く限りだと、塩のことを知らなかったみたいだし。まあ、岩塩なんかもあるが基本は海が近くにでもなければ、手に入らないものだし仕方ないよな。

 薪が甲高い音を立てて響く。俺は新しい薪を火に投げ入れ、木串に刺したクマ肉を焚き火のそばから取る。

 香ばしい香りと肉汁が滴り、口の中によだれが沸いてくる。放り込む様にして肉を口内に入れ、そのまま勢いよく噛み千切る。

 やわらかい感触と、肉汁が口の中で広がり、程よい塩加減と野性味あふれるが癖の少ない味が口内を満たす。

 うん、美味い。俺もかなりの量を食べているが、食欲が減ることは無い。なんだかんだで今日一日働きづめだったこともあるだろうが、それ以上に味が良いことが原因だろう。

 昔、ヒグマやエゾシカなんかの野生の獣を食べたことがあるが、正直まずかった。肉は硬いし、独特の癖があり塩を振っただけで食べるのはきつかった。だが、このクマは違う、食べ物やら運動やらそこまでヒグマと違うとも思えないが、味は段違いだ。何が違うのかね。考えてもわからないことだし、ファンタジー補正と考えておこう。

 しかし、今日は色々あったな。異世界生活一日目でまさか、家族が増えるとは思ってもいなかった。

 視線をサクラに向けると、満腹になったせいで眠くなったのか、目は開いているのかいないのかわからず、体は頼りなく揺れている。まだまだ、子供だ、疲れて腹がいっぱいになれば、眠くなるよな。

 知らず知らずの内に笑みが口元に浮かぶのを自覚し、思う。サクラに会えてよかったと。

 なんとなく、思うのだ。サクラに会えていなければ、こんな風に笑えてはいなかっただろうと。

 俺は積極的に、人にかかわる人間じゃない。きっとビジネスライクの付き合いばかりをして、そのうちに困っている人がいたところで見捨てるようになっただろう。――前いた世界と同じように。

 人はそう簡単に変われはしない。たとえ、チートを手に入れ可能なことが増えたとしても、それは選択肢が広がっただけで実際選ぶかどうかとは関係ない。

 きっと、最初の内だけなんだと思う。何かになれるきっかけ――自分のなりたい何かになれるのは、ここに来た最初の内だけなんじゃないだろうか。そこを過ぎてしまえば、変わることなんてできずに今までの自分がいる。

 根拠なんてものは無い。ただ、知っているだけだ。変わろうと思って変われなかった自分を。

 前に進もうと願って、足踏みしかできなかったあの頃を覚えているだけだ。そしてそれはきっと、皆同じだろう。

 大体の人間は自分を見限って、夢や希望をあきらめる。そうして、知っていく、そんなものが無くても生きていけると。

 見知らぬ誰かを救えた自分。それはまだ一歩で、これからも歩み続けなければいけない道の途中だ。けれどそれは遠いどこかで願った夢のひとかけらだった。

「このままにしてたら、風邪引くよな。寝床でも作るか。ロジン」

 俺は魔法を唱え、木造の小屋を作る。外見的には窓のないログハウスのようなものだ。もちろんベッドだってある。さすがに布団は作成不可なので、柔らかい草を作り敷き詰めてある。 サクラを抱きかかえると、ログハウスの中に入りベッドに寝かす。サクラより少し小ぶりの葉を載せ、掛け布団の代わりにする。

「おやすみ」

 声をかけ、小屋を出る。俺ももう少したら寝るが、クマの毛皮をなめす準備や、色々と魔法について試したいことがあるのでまずはそれをやってからだ。

 一人だったら明日でもいいが、今は二人だ。多少の無理はやるべきだろう。それが男の甲斐性ってもんだ。

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