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食事3

「ヘ、ヘルイーグルにデスベアーって、ランクAの魔物じゃないですか!」

「すごいんですか、それ?」

 ランクAということと驚いているからには上位という気はするのだが、その上にはAAやらSやらあるのか、そもそもランク自体がよくわからない。

「すごいに決まっているじゃないですか! ランクAAやAAAにSなんかとは比べ物にはなりませんけど、それでもAですよ! 準英雄級です!」

「準英雄級ですか? すいません、俺こんな場所に引きこもっているから世俗に疎くて、よかったらそこら辺説明してもらえませんか?」 

 口から泡を飛ばし興奮気味な調子のマリーさんに、俺は苦笑を交え応える。

 マリーさんは首が疲れるんじゃないかという位の勢いで頷いているが、少しばかりテンションが上がりすぎだ。そういえば、仕方ない部分があるとはいえ皆食べ終わったし、そろそろデザートを出してもいい頃合だ。クールダウンにもなるだろうし。

 俺は失礼と一言告げて立ち上がり、台所から魔法で冷やして置いたフルーツの盛り合わせを小皿にとりわけ、それぞれの前へと置いた。置くやいなや、砂糖に群がる蟻のようにビーさんとパピさんが嬉々としてかじりつき、サクラも少しだけ口をほころばせていた。マリーさんだけが遠慮して口をつけていなかったが、俺が手で食べるように進めると微笑みながら一口柿を含んだ。気に入ったのだろうか、弓なりに目を細めていた。

「大分落ち着いたようですし、準英雄級やら、ランクについてもうかがってよろしいですか?」

「あっ、はい、大丈夫です。ランクというのは簡単にいえば魔物の危険度です。Eから始まりD、C、B、A、AA、AAA、S、SSという風に上がっていきます。A級の魔物になれば小さな村なら、軽く滅ぼせますね。AAなら街、AAAなら都市、Sなら大都市、SSなら国レベルですね。まあ、AAレベルからはそう何度も現れるレベルではありませんね。天災と呼んでも差し支えないです」

「なるほど、では、準英雄級というのはなんなんですか?」

「簡単に言えば、称号ですかね。魔物の強さを基準として、それを一人で倒せる強さにそれぞれ名前が付いているんですよ。Dランクなら準騎士、Cランクなら騎士、Bなら騎士長、そしてSSなら勇者と。国に使えていたりすれば、結構優遇されたりしますよ。魔物被害ってバカにならないから、強い人は常に募集中ですからね」

「ああ、そうだったんですか。参考になりました。ありがとうございます。こうも人里から離れていると、そういう情報には縁が無くて」

「まあ確かに、近くに人里なんてないですからね。一番近くても徒歩なら三日はかかる距離ですし、それにここ始まりの森でしたっけ? ランクの高い魔物が出ることで有名ですものね。そんな場所にあまり人も来ませんよね」

 ここに来るまで歩んだ旅路を思い出しているのか、どこか遠い目をしながらマリーさんは言った。しかし、人里まで歩いて三日か。これはいいことを聞いたな。少しばかり知ったか振りをしながら会話をしたら、こうまで上手くいくとは。まあ普通に考えて、この森から出たことがないとは思わないよな。

 けれど、こうなると疑問ばかりがいくつも浮かぶ。そんな人里離れた危険な場所に、どうしてマリーさんはいるのかと。一体ここにはなにがあるのかと。そして、なぜ追われていたのかと。だが、まあそれを問うのは明日以降でいいだろう。ケガが治ったばかりで長話というのはあまりよくないし、なにより俺が一番知りたいことは分かったのだから問題ない。

「お互い、まだまだ積もる話はあるでしょうが、とりあえず今日はここまでにしましょう。マリーさんのお体にも障るでしょうし」

「ありがとうございます。そうしていただけると、助かります」

 申し訳なさそうにマリーさんは頭を下げ、俺は気にしていないというように微笑み、今日のところは解散となった。


 あれからテーブルを拭き、食器の後片付けを行い終わると、すっかり夜も更けていた。娯楽もなにもないこの家だ。自然と皆寝る時間は早い。家の中は静けさで満ちている。

「要件を済ますには絶好だな」

 俺は誰も起こさぬよう足音を殺すと、客間へと向かった。

「どうぞ」

 ドアをノックすると、すぐに返事が返ってきたので俺はドアを開けマリーさんの部屋に入室した。

「どうしました、こんな夜更けに、なにかありましたか?」

「いえね、ちょっと、二人っきりで話がしたいなと思いまして」

「もしかして、ボク、口説かれたりしますか?」

 笑みを浮かべ冗談のように口にしているが目には剣呑な空気が宿り、俺を刺すように見つめている。それに俺は手を振り、否定で答える。

「そんなつもりはありませんよ。怪我をしている女性を口説くほど、空気が読めないわけじゃありませんから。なに、ただ、確認したいことがあっただけです」

「確認ですか、一体なにをですか?」

「簡単なことですよ。――あなた、異世界から来ましたよね?」

 最初、あの不思議な空間で執事の人は言っていた。俺のような人間は年に百人ほどいると。その全てが俺と同じ世界にいるとは考えにくいが、逆に全くいないと考えるのも早計だろう。むしろ、幾人かはいる。そう考えたほうがしっくりくる。

 俺の爆弾のような発言に、空気が凍るようなことはなかった。ただ、なにも変わらず、唯一マリーさんが首を傾げていた。

 予想の範囲内だ。異世界から来たなんてことは、バレないならバレない方がいい。知られていいことはないし、下手にいろんな奴らに知られれば迫害の対象になる可能性もある。立証だって難しい。簡単に正体を明かすメリットはない。――もっとも、そんなことは承知済みだ。

「イセカイ、すいません、それはどこの国ですか? 聞いたことがないですね」

「確信したのはついさっきです。三つほど、気になることがあったんです」

 白を切るマリーさんに構わず、俺は人差し指を一本立て告げる。

「食事のとき、魔物の肉には驚いていましたが、それ以外には特に反応を示していませんでしたよね」

 唐揚や米はまだいい、この世界にないとは言い切れないからだ。

「初めて食べる魔物に国はあんなに反応して、どうして初めて食べる果物にはああも反応が薄かったんですか。まるで、昔、食べたことがあるからみたいでしたよ」

 けれど、フルーツは違う。ビーさんとパピさん――この世界に住んでいた人が夢中になる食べ物だ、魔物肉で驚くならばこちらだって十分驚く価値はある。そうでなければ、倒れるほど具合が悪くなってまで、取りにこようとは思わないだろう。

 もっとも、この森以外を知らない俺ではそこを強く言及することはできないし、これだけでは弱いことも分かっている。

 だからこそ、三つの確証がある。

 俺は人差し指と中指の二本を立てると、次の確証を述べた。

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