食事2
「美味しいですね、この肉! 初めて食べました!」
唐揚げにステーキと舌鼓を打った後、目を見開きマリーさんは言った。テーブルの大皿に置いたものを小皿で取り分けられるようにしているのだが、まだ皿に肉が載っているにも関わらず唐揚げとステーキをフォークで皿に移している。行儀は悪いが、それだけ美味いということだろう。それにマナーについては何も言えない。
俺はチラリと女性陣を見る。サクラはナイフでステーキを切り取り、フォークで刺して食べている。口元が汚れているのは、ご愛嬌という奴だろう。次にパピさん、フォークでステーキを刺しかじりつくようにして貪っている。うん、ワイルドだ。……残念な位に。そして最後にビーさんだが、こちらはナイフにステーキを指し、串焼きのようにして食べている。……ここまでくると、野生児だな。間違っていないけど。
ビーさんとパピさんがこんなんなのには、一応理由がある。彼女達は蜂と蝶の亜人のため、食肉の習慣がなかった。もっといえば、食器を使うという文化がなかったようだ。食肉自体はあくまでも亜人ではあるから、無理ということはなかったようだが。なんにせよ、このままではまずいので時期を見て教えるとしよう。忙しかったのが半分、来客なんてものがあると思っていなかったからマナーなんてどうでもいいと思っていたのが半分だ。
「しかも、いくら食べても飽きない! もしかして、魔物の肉だったりしますか?」
血を失っているせいもあるのか、言葉通り信じられない勢いでマリーさんは頬張り飲み込むと、気づいたようにそう口にした。
魔物、ね。ゲームや小説じゃ良く聞くが、こちらの世界では初めて聞いたな。大方、魔力を持った獣か、一般人では手に負えない獣かなんかだろう。わざわざ質問して不信感を煽るほどのことでもないな。鑑定で肉の元を調べて、告げるとするか。
「ヘルイーグルにデスベアーの肉ですよ」
鑑定を使いわかった名前を言うと、喜色一面だったマリーさんの顔にダラダラと勢いよく汗のようなものが流れ出した。
「も、もう一度言ってもらえますか?」
落ち着かない様子で早口気味でそう口にしたマリーさんは、落ち着くためかスープに手を付けゆっくりと飲み始めた。なんだか、嫌な予感しかしない。ここは飲み終えるまで待つのが、常套かもしれない。でもな、フラグは建てるもんだよな。
「ヘルイーグルにデスベアーです」
「ブフォオォォオ!」
俺が躊躇なく言うと、狙い通りというか、なんというか、マリーさんは飲み途中であったスープを、テーブル一面に吹き出した。心の奥でエロゲーに出てきそうな吹き方だなと、思ったのは内緒だ。それも陵辱系だなんて口を避けても言えないな。
やっぱりか、やると思ったんだよな。そんな思考が顔に出ていたのか、睨むような視線が三者から放たれていた。サクラにビーさんにパピさんである。三人の目の前には、盛大にスープがかかった夕食がある。そういえば、食物の恨みって恐ろしいんだよな。