食事1
「――んっ、こんなもんかな」
おたまでスープをすくい、味見をする。十分な塩気と鶏ガラのダシがいい味を出している。まあ鶏と言っても、探索中に頭上から襲ってきた二メートルはある馬鹿でかいワシに似たなにかだが。巨体なだけに大味かなと思っていたのだが、食べてみたらそんなことはなく、鶏を濃厚にしたような味がして美味しかったのでダシもとってみることにしたというわけだ。そしてそれは成功だった。
「怪我人だし、血を流したから、肉はそれなりに有ったほうがいいよな。おっ、米もそろそろ炊けたかな」
釜からはさっきまで聞こえていた、煮だつような音が消えている。水分が蒸発したのだろう。後は蒸らせば、でき上がりだ。台所に置いてある作業机には、できあがったものから並べてある。。
野菜たっぷりのチキンスープ、唐揚げ、熊肉のステーキ(味付けは塩胡椒)、白米、そしてデザートに苺や桃に柿といったフルーツの盛り合わせ。それが今夜の献立だ。和洋折衷というか、家庭料理とでも呼ぶのが適切なのかわからないメニューだが、正直今はこれが精一杯だ。
「少し落ち着いたら、調味料を作らないとな」
醤油、味噌、酢、マヨネーズ、ここらへんは鉄板だな。今は塩や胡椒それと砂糖くらいしか、簡単に手に入る調味料はない。おっと、考え込んでいる場合じゃないな。そんなことをしては食事が冷める。サクラはまだしも、ビーさんとパピさんは食事に対する情熱が強いから、そうなるとチクチクと責められることになる。さすがにゴメンだ。
「それでは食事を運びますか」
俺はいくつかの皿を持つと、リビングへと向かった。
食事の支度を終えリビングに料理を運び終えると、ちょうどタイミングよく褐色の少女がやってきた。
先ほどまでの服はボロボロで着せるわけにはいかないので、俺が用意していたビーさん、パピさん用の服を渡していたのでそれを着ていた。
脛位までを被う茶色のブーツに黒色のレギンス、その上に赤を基調としたチェックのスカート、藍色のチュニックに白色のストールを垂らすようにして首に巻いていた。
「か、完璧なコーディネートだ」
新宿や池袋にいそうな格好に、俺は驚きを隠せなかった。見ると集まっていた女性人も俺と同じ表情を浮かべていた。それも仕方ないだろう。パピさんはレギンスだけをはき、ビーさんはスカートだけしかはかず、サクラはレギンスの上にスカートをはいていた。けれど、三人ともなぜか自信満々で、ストールを腰に巻いていた。まあ、女性のしかも、現代風のファッションとなれば難しいところもあるだろうから、一度も見たことがないのに再現しろというのが無茶ぶりなのかもしれないな。
そんな俺達の驚愕など知らぬ少女は近づいてくるなり、勢い良く頭を下げた。
「助けていただき、ありがとうございました。おまけに衣服まで用意していただき、なんとお礼を言っていいいか」
「いえいえ、助けていただいたのはこちらも同じです」
「いえ、元はといえば原因はボクにありますから」
「そんなことないわ。原因がなんであれ、あなたが恩人という事実は変わらない。大事なのはそこよ。でもそうね、あなたが気にするようなら、救って救われた、そういうことにしてこの話は終わりにしましょう」
「――はい」
納得したのか少女は微笑み、ビーさんとパピさんも笑顔を浮かべた。……うん、どうして、二人が会話しているんだろう。当事者、俺だよね。二人のセリフは俺が言うべきことだよね。いや、もういいけどね。いいけどさ。後、サクラ、慰めるように背中撫でるのは止めてくれ。余計、悲しくなるから。
「あの、恩人の名前を知らないのではおさまりが悪いので、よろしければお名前をうかがってもよろしいでしょうか。ボクの名はマリー・レグナと申します」
不安そうな顔で名乗りを始めたマリーさんに、俺は微笑んでみせた。さすがにここは俺が紹介をする。ここまで奪われてたまるか、先手必勝だ。
「これはご丁寧にどうも。蜂の亜人がビー、蝶の亜人がパピ、子供がサクラ・タカトウ、そして俺が、スバル・タカトウと申します。どうぞ、気軽に、サクラ、スバルとお呼びください」
「ありがとうございます。こちらも、マリーとお呼びください」
「わかりました、マリーさん。色々と弾む話もあるとは思いますが、それは食事をしながらということにしましょう」