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回復

 結局のところというか、やはりというか、俺は戦いに向いていない。わかっていたが、今回の件で心の底から理解した。生産系に特化したのは、間違いじゃなかった。となれば、だ。得意分野には本気で挑まなければ、男が廃るというものだ。……ぶっちゃけ、俺の特性医療系ってわけでもないんだけどね。まあそこは、気合を入れる方便ということで、ひとつ許して欲しい。

「さて、それじゃあ、治療を始めるとしますか」

 簡素なベッドしかない客室とは呼ぶには少々窮屈な部屋、そこに俺たちはいる。達とは言っても、俺とビーさん、それに患者である褐色の少女の三人だ。少女をベッドに寝せ、囲むように俺とビーさんが向かい合って立っている。手伝いたそうにしていたが人も多ければいいというものでもないので、パピさんとサクラには遠慮してもらった。

「とりあえず、何をすればいいんですか?」

「まずは、そこの手ぬぐいで汚れや傷を拭いてくれ。さすがに、衛生面が心配だからな」

「はい、わかりました!」

 衛生面という言葉の意味等わからぬだろうにビーさんは元気よく了承すると、水の満ちたタライに入っていた手ぬぐいをしぼると丁寧に少女の体を拭い始めた。ちなみに手ぬぐいは煮沸消毒し、その上で綺麗な水に浸している。アルコールや石鹸なんかも、時期を見て作らないとな。

「終わりました!」

 女性のため俺は手を出さず全てビーさんに行なってもらっていたが、さしたる時間は掛からずに作業は終わりビーさんは手を挙げて終了を告げた。

「ありがとう。では、傷を治すとしますか。ルクア・リオン」

 上級回復魔法を唱えると、暖かかな白い輝きが少女を覆う。そのまま傷を治すのだろうと思っていたが、少女の額にある宝石が光ったかと思うと白い輝きを吸収し、傷も回復しておらずまるで魔法の効果が打ち消されているようだった。

「――魔法を打ち消した。やっぱり、魔光族なんですね」

「彼女について何か知っているのか?」

 問うと、ビーさんは真剣な表情で頷いた。

「はい。数多くの亜人種がいるとはいえ、額に宝石を持つ種族は魔光族しかいません。魔光族は魔力も高く、魔法にも長け、そして、高い魔法耐性があります。力が強い者の中には、完全無効化する者もいると聞きます」

 魔法が効きずらい種族か。今の現象を見る限りだとベッドに横たわる少女はその中でも力の強い、魔法無効化を持つのだろう。なるほどね、魔力中毒にもならないのはそれが理由か。そうであれば説明がつく。しかし、魔法耐性が強いくらいで、どうしてビーさんは驚いていたんだ。すべての攻撃だったらわかるが、そうではないのに。

「なるほどね。今の件はそれで理由が片付くな。で、だ、魔光族というのはそれだけじゃないんだろう? ビーさんが驚く理由というのがあるんだろう?」

「……はい。これは彼らの特性にも関係あることなんですが、魔光族は絶滅した種族と伝えられています」

「おおかた、魔法耐性を恐れた他の種族が、攻め込んで滅ぼしたとかだろう」

 魔法は便利だ。便利すぎるくらいに。これだけの技術だ。生活にも戦争にも、結びついているだろう。そうなると、魔法が使えるのに魔法の効果が薄い種族なんていうのは目の上のたんこぶだ。殺られる前に殺る。そういう発想になっても可笑しくはない。

「……その通りです。加えて魔光族の亡骸から取れる額の宝石を使用することで、非常に魔法耐性の強い武具が作れることも理由の一つでした」

「――おまけに、魔法耐性のせいで回復魔法や補助魔法は効果が薄いか。まあ、暗い話はここまでにして、さっさと彼女を癒すとしますか」

「でも、回復魔法は意味がないんですよね? 死にそうなほど重傷というわけではなさそうですから、薬草などを塗って安静にしていれば何日からすれば治るとはおもいますけど。さすがにすぐは無理だと」

 ビーさんは心配した様子でそう口にした。

 そういえば、ポーションできたこと知らないんだったっけ。あの時はサクラしかいなかったし、使う機会今まで無かったもんな。

 俺はベッドの脇に置いてある木箱に手を伸ばす。そしてそこには、先ほど工房から持ってきたポーションいくつか入れてあるので一本抜き取る。

 容器はガラスできていて、その中に粘度の高い緑色の液体が入っている。うん、素敵に気持ち悪い。見た目は悪いがその分効果はご覧あれだ。

「な、なんですか、そ、それ?」

「回復を促進する薬さ。飲めば回復魔法の効果が得られる」

「えっ、の、飲むんですか、それを!?」

 自分が飲むわけでもないのに涙目で、ビーさんは驚いている。色もそうだが、粘度が高いせいでかなりドロドロしているから、正直飲み物という感じはない。俺も飲めって言われれば戸惑うだろう。いや、効果を確かめるために飲んだんだけどね。とっても安全でしたよ。……ええ、安全でしたとも。

「害はないから、大丈夫、大丈夫」

 俺はそう言ってポーションの蓋を外し、彼女の口元にもっていくと傾け少女の口にゆっくりと流し込む。意識のない彼女は反射的にか、喉に流れてきた液体をゆっくりと嚥下していく。それと同時に体中に無数に存在していた傷がまたたくまに癒えていく。

「――ウソ! 本当に傷が治っている!」

 俺の言葉を信じきれていなかったのか、ビーさんは目を見開き信じられないった調子で傷が塞がっていく少女を見つめていた。ややあって、ポーションを飲み干すと少女は目を開き言った。

「マズゥウ!」

 青い顔で舌を出し、今にも全てを吐き出しそうと言った表情だ。

 うん、気持ちはわかる。要は青汁で、それも薬草なんかの野草だからエグミやアクも強く、味は最悪なんだよな。たぶん、今も回復したから目が覚めたんじゃなく、あまりにも不味くてその刺激で目が覚めたんだと思う。

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