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拠点整備二日目 鍛冶

「――ファァァア、眠いな」

 右手で口をさえながらあくびをすると、ほぐすように体を伸ばす。

 照らす太陽は元気に輝き、空には雲一つない。快晴といって間違いない天気である。

「太陽がまぶしいぜ」

 俺は日よけのように左手のひらで目元に影を作り、つぶやく。いや、徹夜するといつも以上に、陽光が目にしみるよね。単に乾いているだけかもしれないけど。

 まだ手つかずの技術書を読んだり、魔法の実験をしたりしていたら、いつの間にか朝になっていた。時魔法使って、時間遅らせたりしていたんだけどね。

 魔法の実験一つとっても手探りだから、時間がかかってしょうがない。そして、やればやるほど新しい発見が出てきて、気づいたら朝になっていた。

 まあ、実験に犠牲はつき物だって言うし、しょうがないことだろう。

「さて、そんじゃまあ、実験の成果でも試して見ますかね。リリク」

 両手を大地に着け魔法を唱える。すると、いつものように魔法の範囲内の場所が輝きだし、すぐに形を変える。光が治まる頃には、耕され、畝もできた立派な畑ができていた。広さもかなりある。学校のグラウンド一つ分といったところだろうか

「よしよし、次は種まきだな」

 改心のできに俺は何度もうなずきながら、笑みを浮かべる。簡単にできたとはいえ、良いものができるとやっぱりうれしいものだ。

「……これが一番の問題なんだよな」

 思わず顔に苦いものが走るが、それもしょうがない。

 植物生成魔法ロジンは魔力を膨大に使うのだ。

 といっても、薪を作ったりやログハウスを作る程度は大したことじゃない。生きた植物を創造するのがきついのだ。

 サクラの両親の墓標に桜の木を生んだが、魔法を使って初めて疲れを覚えた。チートの俺がである。

 本来ロジンの魔法というのは、薪やログハウスなどの加工消耗用木材や短い期間で消える自分の意のままに動く植物などの、おおよそ命とはいえないような植物を生み出したりする魔法なのだ。そのため普通の植物のように成長したり、時間がたてば消えることの無いものは使用する魔力の量が桁違いらしい。 とはいえ、向こうの世界の植物を作成するには魔法を使うしかない。

 ちなみに、いくら魔法とはいえ俺が名前しか知らない植物は、作ることができない。果物や野菜なら少なくとも、目で見て食べたりしていなければだめだ。

「まあ、一応解決策もあるしな」

 解決策というよりは、魔力消費がいくらか少ない程度だが。

「気合入れてやりますか、ロジン」

 根や葉がお互いに邪魔しない距離を意識しながら植物生成魔法を唱える。すると畝に淡い光とともに種が生まれる。

 苗のようなある程度育った状態だと、魔力の消費は馬鹿でかく、種の状態だとまだマシであることがわかった。そのため、全て種の状態から作ることにした。そして、量も少ない。まあそのわけは後でわかる。

「続いて、リアラ、オウリ」

 リアラが大地に栄養を与え、オウリが植物に活力を与え成長を促進させる。二つ唱えることで植物の成長速度に質はかなり上がる。

「おっと、これだけじゃ、ここじゃ育たないんだよな、ロウリ」

 唱えた途端畑を黒い霧のようなものが覆った、闇属性の魔力吸収呪文だ、これで普通に育つだろう。

「後は水か。カスラ。そして、最後にヴァイクァ!」

 水生成呪文で生まれた水が畑にまかれ、最後に時呪文が発動する。

 ――効果は早送りだ。

 テレビなどで植物の成長を加速してみるような光景が眼前で広がり、数分も経つと畑は実りを迎えていた。

 大豆にトマトにとうもろこしに桃や柿にりんご、たくさんの野菜や果物が実り、成長していた。

 その光景の奇天烈さに、生み出した本人ではあるけれど声を失ってしまった。

「――すごいを通り越して、呆れるなこりゃ。それじゃあ、収穫して、植え直しますかね」

 そう、これらは全て種である。魔法で少量の種を作り、それを育てそこから種を取った方がはるかに魔力消費が少なくなるのだ。時魔法があるからこそできる、荒業である。

「しかし、剣を作る前に野菜作りか。魔剣を作れるのは、いつになることやら」


「……何これ」

 目が覚め、小屋から出てきたサクラが開口一番に驚きの混じった声を上げた。

 そりゃあまあ、昨日寝る前まで更地だったのに起きたら畑になれば、驚くよな。

 調子に乗って水田も作ったし、田畑も広げてグラウンド一つ分から、二つ分に広げたしな。魔法で簡単にできるから、ついやりすぎてしまった。

 でも、これは必要なことだ。故郷の食べ物を味わうためには、零から作成するしかなかったのだから。……うん、そういうことにしとこう。

 俺は目の前にそびえる、リンゴの木から真っ赤に熟した果実を取るとサクラに向けて投げた。

「驚くのは無理ないが、まずは食べてみろよ。そしたら、驚きなんてどっかいっちまうぞ」

 両手で受け取ったサクラは、恐る恐るといった調子でりんごを口にした。きっと初めて見た果物だったんだろう。

「……甘い」

 一口味わうと、サクラは目を見開いてそう口にすると、二口、三口と勢いよく食べだした。野生の果物は甘さも少なめだし、酸味が強いのも多いからな。品種改良を重ねて食べやすくなったリンゴじゃ、同じ果物といえど野生のものとは別物だよな。

「――しかし、魔法っていうのは、ここまですごいものなんだな」

 田畑に視線を向けて、思わずつぶやく。

 グラウンド二つ分もの広さを開墾し、わずかな時間で収穫できるようにしたのもすごいが、季節も全く関係ない。

 なんたって、目の前ではスイカとメロンが実っている横で、梨と柿が熟しているのだ。

「まあ、困るわけでもないし、気にしてもしょうがないか。けどまあ、ここで小学校や中学校で植物園やら課外授業なんかで、勉強したことが役に立つとはね」

 アブラナに綿花に麻、サトウキビにカカオやコーヒー、茶葉の類に南国の果物なんかもあるのは、ひとえに学生の頃授業のいっかんで見たり触れたりしたおかげだろう。

「……これ全部収穫するの?」

 リンゴを食べ終わったサクラが、案にできるのかと問いたげに聞いてきた。

 まあ、人力で二人だけなら、とてもじゃないが終わる量じゃないよな。それに保存する場所も見当たらないときている。不安になって当然だ。だけど、考えてみて欲しい。開墾だって魔法で出来た。それなら、収穫も同じくできたとしてもおかしくはないだろう。

「ルクア・セルビィア」

 無属性の魔法を唱えると、実りを迎えた野菜や果物が浮き上がり、勢い良く俺の前へと集まり始めた。念動系呪文、いわゆる、サイコキネシスという奴である。そして、上位になると術者の思考を読み、半ばオートメーション化した作業が可能になる。

「セルフォーク」

 黒い穴が収穫物の前に広がると、その中に吸い込まれるようにして野菜や果物が消えていく。時属性に連なる空間魔法、いわゆるおなじみのなんでも入り時間の経たない亜空間だ。

 すべての収穫物が亜空間に収納されるのに、五分も経たなかった。残ったのは熟しきっていない果物や野菜が、いくつか取り残されているくらいだ。

「……何これ」

 どうやらあまりの出来事だったらしく、サクラの口からもれたのは最初と全く同じセリフだった。


 欲しいものはたくさんあるし、やらなければいけないこともいくらでもある。

 しかし、物事には優先順位というものがある。

 本当は醤油やら、味噌やら、パンなんかも作りたいのだが、腹を満たすだけの食料を手に入れた以上、それらの優先順位は下がる。外敵の存在がある以上、まずは身を守るための手段を手に入れるべきだ。ここに生物が来る可能性は少ないといっても、何にだって例外はあるしな。現に俺たちがそうだし。

「さて、そんじゃまあ、武器でも作るかね」

「……スバル、木の枝は武器にならないからね」

「知っているよ! つーか、サクラ、お前は俺が魔法で色々出来るところを昨日から見ているだろうが、なぜそんな発想になる?」

「……魔法と武器は別物。むしろ、普通魔法使いは魔法しかできない」

 冷静なサクラのツッコミに俺は何も言えなくなる。

 ……うん、まあ、そう言われれば、そうかもしれない。普通、才能なんてそういくつもあるもんじゃないよな。

「実を言うと俺本業は鍛冶師なんだよ」

 まだ一回も鍛冶作業したことないけど。

「……あんなにすごい、魔法を使えるのに?」

 疑問をこめた視線は如実に語っている。鍛冶師なのになぜ、魔法を使えるのかと。そりゃあ、魔法を使えれば魔法使いを目指すよな。

「俺は鍛冶師は鍛冶師でも、魔剣を打つ鍛冶師なんだよ。だから、魔法が使えるのさ」

「……わかった。そういうことにしておく」

 サクラの目にはわだかまりが残っており、納得していないことは明らかだった。

 いや、本当なんだけどな。ただ、ちょっと、チートなだけで。多分、魔法が規格外なんだろうな。この世界の標準は知らないが、さすがに俺の所業が一般レベルということはないだろう。俺自身が引くくらいだし、こんな能力者が何人もいたらここみたいな未開の場所なんてないだろうし。

「……どこで、鍛冶をするの?」

「んっ、ここ、ロジン、ルルス」

 魔法を唱えると毎度おなじみの発光現象が起き、治まるとログハウスが出来上がっていた。中には火床といった炉の類に金槌、砥石、金所、火鋏など必要な物が作成され置かれているだろう。もちろん、金属のインゴットもだ。

「……わからない、私にはスバルの言っている意味がわからない」

 サクラは頭を抱え悩んでいるように見えるが、放って置こう。俺がどうこうできることじゃない。慣れてもらうしかない。どうせ、ここには俺しかいないんだすぐに判断基準は俺になる。


 実験の結果わかったことだが、魔法で生み出せるのは純金属のみで合金の類は無理のようだった。元の世界のチタンやガラスにコンクリートなんかも作成は無理だった。要は自然界にて生成できるものが、魔法で作ることができるものってことだ。そうそう、ミスリルやオリハルコンにヒヒイロカネなんかのファンタジー金属はルルスに他の属性を付与することで可能だった。たとえば、銀と光属性でミスリル、金と時属性でオリハルコンなどがある。ファンタジー金属は他にも色々あって、さまざまな武器が作れそうだ。ちなみに鍛冶道具は全部オリハルコンでできている。一番火に強く丈夫だからだ。

 で、だ。魔法で生み出す金属というのは、純度100%のものである。

 日本刀を作る際に砂鉄から鉄を作るのは有名だと思うが、これは鉄鉱石を使うよりも純度の高い鉄が作れるからである。当たり前の話だが、自然界に存在する鉱石は色んなものと混じり合っている。そのため本来なら必要な鉱石を取り出す必要がある。しかし、魔法で作った場合はその作業がいらず、時間の短縮及び質がいいものが作成できる。

 金属が奏でる甲高いソプラノが、小屋の中に響く。それはどこか風鈴の音に似ていて、火床の熱で上がった蒸し暑い部屋の中で一つの清涼にもなっていた。

 ミスリルを金槌で打つ。何度も何度もだ。そうやって、剣の形にへと変えていく。

 今俺が作っているのは、サクラのための双剣だ。

 俺の分も修行がてら作成するつもりだが、まずはサクラの方が先だ。

 俺は魔法も使えるし、素手の戦闘だっていける。サクラのことは守るつもりでいるが、自衛の手段があるにこしたことはない。

 赤く熱せられたミスリルが少しずつ、刃へと姿を変えていく。

 作業が短縮できているおかげで、完成はそう遠くない。


「で、これがミスリルで作った、サクラ用の双剣だ」

 白銀色に輝く二つの刃。大きさは六十センチメートル前後といったところだろうか。

 派手な装飾はないが柄の部分に、魔法で生み出したルビーを飾り程度につけている。女の子だし多少の色気は必要だろう。

「……私用の剣」

 自分の物を作ってもらえると思っていなかったのか、サクラは突然渡された双剣に戸惑うようなそぶりを見せていた。

「ああ、そうだぞ。魔法に素手もいけるから、俺はそこまで武器要らないしな」

 才能があるのはわかっているので双剣を渡したが、修行も何もしていない状態では最低限の自衛でしかない。そのため、付与魔法を使ってみた。

 付与魔法は普通の魔法とは、ちょっとばかり勝手が違う。

 まず一つ目だが、生物にはかけることができない。無機物限定だ。ただし、生命活動をしていない木材や肉などになら使用は可能だ。

 二つ目は普通の魔法よりも自由度が高い。たとえば、鎧なんかの防具だったらより頑丈にもできるし、気温調整やサイズ調整に自動修復なんて、地味だが非常に便利な効果も付けることができる。他にも、実際の魔法を込めるなんてことも可能だ。例で言うと、ロジンの魔法を付与すると、念じればロジンが使えるようになるといった感じだ。ただ、魔法であるため使いすぎると魔力が空になり効果はなくなるが、大気中の魔力を自動で吸収するので放っておけばまた使用できるようになる。もしくは、魔力を注げばすぐに回復する。

 自由度が効き利便性は高いが、その分一般的な魔法よりは難易度と魔力消費が段違いらしい。技術書に書かれていただけなので、具体的なことはよくわからないがそういうことらしい。最低でも高い魔法の才と幅広い属性の親和性に多量の魔力が必要らしい。それらが少なければ少ないほど、出来ることというのも少なくなっていくらしい。

 まあ、俺は問題なく使えるので、いくつかの付与魔法をつけてみた。そうそう、一つの物に付与できる数というのは決まっていて、最大で五回らしい。付与魔法を使う物質の、魔法に対する調和性と術者の力量で数は変わるらしい。俺が作った剣の材料は魔法で生み出したおかげなのか、調和性は高く五回かけることができた。

 ちなみに鑑定したら、こんな風になっていた。



【光牙+10】

属性:光

加護:光精霊

付与能力:ルクア・オルス(殲滅系光魔法)、自動修復、ルクア・リオン(上級回復系光魔法)、ルクア・シーキ(上級結界系光魔法)、重量軽減

≪説明≫

ミスリルにより作成され、光の精霊を宿した双剣。

それは闇を払い、魔を挫く。不死族や悪魔族にとって天敵ともいえる武器。

巧みの技が光り、本来のミスリルの強度よりも丈夫になっている。

精霊の加護により装備者の魔力を増加し、光属性の適合率を挙げる。

道具として使用するとルクア・オルス、ルクア・リオン、ルクア・シーキが発動する。

付与魔法効果により驚くべき軽さと、刃こぼれなどが修復し整備が不要になっている。



 ――どこの伝説の勇者の武器だ、これは。しかも、光の精霊なんてものも宿っているよ。それに、光牙なんて名前も付けた覚えはないんだけどな。

 もしもの時を考え一人でも大丈夫なように、攻撃と回復と防御の魔法を付与しておいたが、なんか凄いことが書いているし。……もしかしなくても、やりすぎたかな。まあ、いいか。もう作ってしまったからやり直しはきかないしな。

 こうして、俺の初めての魔剣作りは終わったわけだ。

 よく小説や漫画なんかで鍛冶師が悩むように、俺もいつか剣を打つことに迷いが来る日を迎えるのかね。

 どう取り繕ったところで、剣が誰かを傷つけることを目的にしていることは変えることができない。

 弱者を助け、強気をくじくための守りの剣など、建前はいくらでもあるが、それは建前でしかない。結局のところ、人を救おうが襲おうが、やっていることは同じなのだ。

 だからこそ、現実の重さに悩む鍛冶師達がいるのだろう。

 それに俺の武器はチートっぽい気がするし、下手をすれば大量虐殺も可能かもしれない。

 ぶっちゃけ、そこまで考えなくても良い気はする。結局のところ、俺は作成するだけで力を振るう側じゃない。俺が言っていることは、子供を産んだら大量虐殺者になるかもしれない、どうしようというのと何ら変わらない。要は考えすぎである。

 けれど、起こりうる未来でもあるのだ。

ノーベル賞で有名なノーベルは、ダイナマイトを作った贖罪にノーベル賞を作ったらしい。使用用途は戦争ではなく土木作業用のためだったというのに。結果というものは、それだけ重いものなのもかもしれない。

「……悩むなら、作るなって話だよな。それにまだ先の話だ」

 平和な世界で生まれ平和な世界で生きてきた俺に、チートなんてものはふさわしくないのかもしれないな。俺は空っぽだ。たまたま才能があるだけで、そこに中身はない。だからこそ、答えが見つからない。苦悩も努力ないそこには、ただただ空白だけが広がっている。

 何もない才能だけで出来たがらんどうの器には、俺に答えてくれる何かはどこにもなかった。


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