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俺は死んだようです

「――――ということで、あなた様は死亡なされました」

「――ハァー」

 なんとも気の抜けた返事が口からもれたが、目の前に立つ人は気にも止めていないようで直立不動を保っている。

 見事な白髪をオールバックにし、乱れのないカイゼル髭を口元に生やし、整った顔立ちではありながらも、年輪のようにその人生の長さをうかがわせる皺などが凛々しく、テレビにも出てきそうな男くさい俳優のような相貌だった。来ているものは黒の執事服で、オートクチュールとでもいうのだろうかその人のためだけに作られたという感じがして凄く良く似合っている。

 で、その執事さんが言うには、俺はどうやら死んでしまったらしい。

 酔っぱらいが運転していた車に轢かれ、即死だったらしい。そして、それを見かねた執事さんの主さんが別の世界に転生させてくれることになったらしい。

 らしい、らしいの連続だが、突然のことみたいだったようなので、死んだこと自体記憶にない。横断歩道を渡ってコンビニに行こうと思ったら、いつのまにかここにいたっていうのが正直な感想だ。

 上下左右が全て白で覆われ、見渡す限り果ても見えない。床が有る様には見えないけれど、なぜか、きちんと立つことができる。

 こんな不可思議な場所にいるんだ。死んだと言われれば、納得するしか他はない。仮に手品やなんかで仕掛けがあったとしても、これだけのことができるならなんだってできるだろう。それこそ、異世界に転生だって。

 異世界転生なんて、どこの漫画の話しだよと思わない部分も無いではないが、色々なことが重なりすぎてイマイチ現実感がわかず人事みたいな気分だ。それにこういう異世界転生も俺だけではなく、年に百人程は体験していると聞かされたのも原因の一つかもしれない。

「いわゆる、剣と魔法の世界に転生されるのですが、何かありますか?」

「元の世界には、当然戻れないんですよね?」

「はい、もうしわけありませんがそれは不可能です。あなた様の死亡は哀しい事故であり、あくまでもそれを哀れと思った主様の救済処置なので、異世界に転生させることがそもそも破格なのです」

「ということは、特殊な能力とかも付かないんでしょうか? 言語やら魔法やら、色々不安なんですが」

 俺の疑問は想定済みなのだろう。執事さんは待ってましたと言わんばかりに、笑みを浮かべた。

「そうですね。言葉が通じなくては不便ですし、魔法がある世界で魔法が使えないのでは話になりませんね。主様の方もそれを考えており、ポイント制度というのを実施しております」

「ポイント、ですか?」

「はい、テレビゲームなどを思い浮かべていただけると、なじみやすいと思います。技術や才能をポイントで取得するということです」

 テレビゲームね。要は、魔法が使いたかったら魔法の才能を、向こうの世界で言葉が通じたいのなら言語関係のを取れということか。

「ポイント制度というのは、わかりました。それで、そのポイントというのは、いくらもらえるんですか?」

「ポイントは交換制に成っております。一ポイント、千円からになっております。尚、現金のみでの取り扱いになっておりますのでご容赦のほどをお願いいたします」

 執事さんはそう言うと、恭しく頭を下げた。

 現金のみね。なんというか、中途半端に嫌らしいな。これが口座引き落としや物々交換なら、たくさんのポイントと変換できるも人もいるのだろうが、現金オンリーだとそうはいかないだろう。クレジットカードやら、口座引き落としやらが発達した時代で、そんなたくさんの金を生身で持ち歩く奴は少ないだろう。落としたら大変だし、かさばるし、スリや強盗なんてのもある。なによりも、大金を持ち歩いていれば慎重になるんだから、死ぬような目にだってあうことは少ないだろう。

 まあ、考察はこんな所で止めにして、ポイントを交換してもらうとするか。

 俺はスーツの内ポケットに手を入れると封筒を、尻ポケットから財布を取り出した。

「六十七万七千円あるので、全てポイントに交換して下さい」

「えっ」

 執事さんにとって予想外の数字だったのか、先ほどまでのポーカーフェイスじみた態度ではなく素の表情で驚きを顔に出していた。

 わからないでもない、精々持っていて五万くらいだと思っていたのだろう。あいにくと今日は給料日でなおかつボーナスがあり、さらに定期代もあったのだ。まあ、普通は口座に直接入れるもんだと思うけど、ウチの会社はコンピュータ関係のクセに古くて、給料支給は現金派だ。今時、アルバイトだって、口座振込みも多いっていうのに。

 そんなわけで、大量の現金があるためさっさと口座に入れるべく、コンビニを目指していたら運悪く酔っ払いの車に轢かれたらしいんだよね。ポイントの交換はたくさんできるが、銀行振り込みだったら死ぬことは無かったんだろうなと思うと、なんともいえない気持ちになる。

「――確かに、六十七万七千円、受け取りました。それでは、六百七十七ポイントとこちらの端末をお受け取り下さい」

 ショックから抜け出し無事金額の精査を終えると執事さんは、手のひらサイズのタブレット端末端末を差し出してきた。

 受け取り画面に触れてみると、そこには【火属性適正Lv.1 3ポイント】などの項目があった。項目に振れると、【取得しますか?】と聞かれYES、NOの文字が下に表示された。

 とりあえずNOをクリックし、色々といじってみることにした。

 そして、時間をかけて調査してみた所、Lvは最高で3、Lvが一つ上がることに取得ポイントは倍になる。取得できるものは才能、能力、能力値の三つである。才能は先ほどの【火属性適正Lv.1】なら、簡単な火属性を扱うための才能ということになる。能力は【記憶力増強】等、身体能力の増強に繋がる。最後の能力値は、力、魔力、頑強、器用、体力、運、敏捷の六つのパラメーターを上げることができる。このパラメーターはまんまRPGの攻撃力や防御力などパラメーターと同じであると執事さんが言っていた。そしてある才能を取得すると、別の才能が画面に出てきたりと初期で表示されるものが全てとは限らない等だ。

 さて、それをふまえた上で俺はどう取得するべきだろう。指針にもなるので執事さんに俺が向かう異世界のことは聞いてある。それによると、人間の他に亜人――エルフやドワーフに獣人が住み、文化レベルなどは中世ヨーロッパ並だが、代わりに魔法がありそちらが科学の代わりに進歩している。そして、定番というべきか魔獣と呼ばれる存在がいて、それを退治する冒険者ギルドがある。魔王などはいないし、小競り合い程度はあっても大規模な戦争はない。いわゆる小説や漫画の異世界トリップものの定番な世界観らしい。

 しかし、いくら冒険者ギルドが存在するといっても、冒険者になるのは御免だ。死ぬ危険があるし、別に戦いで生計を立てたいわけではない。となると、生産職――鍛冶師や服飾師に大工等になる。

 俺も男なので剣や槍などの武器には憧れるものがある。なので、鍛冶師がいいとは思うのだが、なんというか普通すぎる。異世界に行くのだから異世界らしいのがいい。魔法があるなら、魔法に関係するのがベストだ。けれど、魔法と鍛冶、接点は――あるか。そうだ! ただの武器を作るんじゃなくて、魔法の武器を作れば良いんだ。魔剣に魔槍、それなら異世界にしかないだろう! よし決めた! 俺は魔剣鍛冶師になる!

 

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