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婚約破棄のせいで、国家転覆が起きそうです。

作者: 茶緒
掲載日:2026/04/25

ヒーロー登場はかなり後です。

甘さ控えめ片思い。


※4月26日 誤字脱字ニュアンス間違いなど修正しました。

「ソフィア・アイゼンガルド!私はこのリリアンを王妃にすることを決めた。君とは婚約破棄をする!」


我が国が誇る最高峰のアカデミーの卒業パーティーで、この国の第一王子カイル様が男爵令嬢を肩に抱き寄せながら、私に向かって嬉しそうに言ってきた。


「婚約は父と陛下のご意志です。貴方の一時の恋慕で破棄など出来るわけがありません」


貴族の令嬢は不愉快な顔をなるべく出さないようにと教育されているが、今回ばかりは耐えられなかった。

カイル殿下はもともと性格が難ありでバカはあるが、両陛下が政治を私に任せる気でいて、殿下をお飾りにする予定で結婚の話を聞いていたから我慢していた。

両陛下は高齢で、側室の間にも子供ができなかったため泣く泣くカイル殿下を次期国王にすることに決めたのだ。


「次期国王である私の正室に辺境伯の女と結婚するなどおかしい話だ!辺境の地で育った君は私が喜ぶように着飾ったりもせず、ずっと机に座って勉強ばかり!話しかける内容はいつも面白くない政治ばかりで飽き飽きしていた。リリアンは私にとって君なんかよりふさわしい女性だ!!」


確かに馬鹿同士お似合いだ。

しかし国の未来を担う人間がとんでもない発言をする。

王族は王族同士か、他国との政略結婚が普通だが、今回の婚約は、力がついてきた辺境伯の血を定期的に王家に入れることによって、反乱の意思を防ぐ意味がある大事なものだった。


「側室にすることは認められます。ですが…」


「うるさい!!この国の跡継ぎは私しかいない。国王になることが決まっているのだから、私の決めたことはすべて受け入れられるのだ!!」


パーティーの参加者たちがざわついている。

貴族社会は相手に舐められたら終わりだ。

どうしたものかも考えていると、ギャラリーの中から発言する者が現れた。


「カイル殿下、ソフィア様。お話に割り込んでしまい申し訳ございません。発言をお許し下さい。私、侯爵家のレインハルトでございます。殿下、考え直して頂けませんでしょうか。」


レインハルト侯爵、商業に特化してこの国を潤した貢献者の家である。目の前の彼もまた、他国の産業技術を我が国に取り入れようと頑張っているのを知っている。


「私に歯向かうのか!不敬だ!そいつをつまみ出せ!」


「私も発言いたしますわ!!ソフィア様はこの国のために寝るのも惜しんで勉学と地方視察を積極的に行っている素晴らしい方です。国を思う者なら自分の恋だの愛だのより、民を思いやる者を優先するべきですわ!」


割り込んできた方は公爵令嬢のアンヌ様だ。

私と切磋琢磨してきた良き理解者だ。

そうだそうだ!私も、私も!と殿下に非難の声を上げてくれるものがどんどん現れた。

何ということだ。この国には国の未来を考え、民を思いやれる貴族が何と多いことか。

この国が最悪の未来に進もうと絶望しかけたが、皆の言動により喜びに満ちた。


「だまれ!!お前らの言うことは聞かん!お前らすべて不敬罪として牢屋行きだ!!」


怒られて癇癪を起こす子供のように騒ぐ殿下に私も周りも呆れきっていた。

両陛下がここにいらっしゃったらすぐさま雷を落としてくださるのに、体調不良で欠席なのが悔やまれる。


「…私どもは国を大事に思わない貴方を支える気はなくなりました。これにて失礼」


最初に発言したレインハルト侯爵がそう言うと、貴族達は殿下に礼もせずぞろぞろと会場から出ていく。


「さ、ソフィア様。こんなところにいてはお心が休まりませんわ。ご実家に帰られる前に私の家で卒業のお祝いのお茶をしませんこと?」


アンヌ様に背中を押され私も出ていくことになった。

後ろを振り返れば殿下と男爵令嬢はポカンとした顔で停止していた。

その後、アンヌ様に慰められ、実家にすぐさま帰宅するように護衛と馬車を手配してくださった。



1週間かけて実家に私は帰ってきた。


「この度は申し訳ありません、お父様。」


「お前のせいではない。あの馬鹿については王族の責任だ。」


家に着くなり、両親は私を抱きしめてくれた。

私より先に出発した早馬が知らせてくれたのだろう。

父はすぐに執務室に私を連れて移動した。


「これを見ろ。」


大量の書簡が父のデスクに山積みになっている。


「これは地方の貴族達が今回のことで王家に愛想を尽かし、私が反旗を上げるなら協力するというものだ。東西と南の辺境伯達も王家に一泡吹かせれるチャンスだとうきうきの様子だぞ。それだけ政治に鬱憤が溜まっているのだろう。」


「戦を…されるのですか?」


とんでもない事態に発展していた。

こんなこと望んでいないのに。


「いや、大事な民や兵を失いたくはない。だから脅すのだ。戦をしようとしているアピールだけで向こうは味方が少ないことに慌てて身の振り方を改善してくれるといいのだが。それでも何もせず腐りきっているなら、戦を始めなければならない。」


貴族たちは私が王妃になれば王家の腐敗したところや各地の末端に対する対処を改善してもらえると思っていたが、それがなくなったことによって私に期待していた貴族たちは怒り心頭なのだ。

婚約破棄がきっかけなだけで、各地の貴族は王家に叱咤できる機会をずっと求めていたのは初めて知った。


「既に我が家が信頼をおける家にはすぐ動けるようにしろとだけ伝えた。」


「お許しにはならないのですか?」


「陛下自ら頭を下げに来たのであれば、すぐ撤廃するさ。」


その時ノックの音が響いた。

丁度その話についての手紙だろう。

執事から受け取ったものは王家の紋章の封がされていた。

しかし、父は眉を潜めて屑籠にそれを放り投げた。


「何と?」


「謝罪をするから王都に来い、だそうだ。舐めやがって。」


父の怒りのオーラに私も執事もすくんでしまった。


「一ヶ月以内に陛下がこの家に来なければ私は戦を起こす。隊長クラスの者達には伝えておけ。」


分かりましたと執事は出ていった。

婚約破棄でこんな大事になるとは思っていなかった。


「お父様。私は戦を起こしてほしくはありません。回避するために私にできることはありませんか?」


「これからお前には酷なことを命令することになる。」


「何でしょうか」


「国外追放だ」


国外追放?どういうことだ、この案件に関わらせないようにするのか。


「…戦争を引き起こした中心人物を民は許さないだろう。情報が錯綜し、中にはお前に問題があったと嘘を広め焚き付ける者も現れるかもしれない。だから、私としてはとても悔しいがお前を守るため追放しなければならない。」


愛するこの国のためにがんばってきたのに、こんな仕打ちになるのかと、カイル殿下に怒りがおさまらなくなった。


「愛しの娘ソフィアよ。守ってやれなくてすなかった。」


父はデスクから立ち上がり、近寄って、泣きそうな顔で私の頬を撫でた。

もう私は優しい家族とも会えなくなるのか。

そんなのあんまりだ。

私は悔しくて悲しくて大粒の涙が服や床を濡らしていった。


「…それで、私はどこに行けばいいのですか?」


話を遮るようにノックの音が響いた。執事が入ってきて父に耳打ちをした。


「いきなりだな。」


来客があったようだ。もしかして殿下か陛下が謝罪に来たのだろうか。


「…お前も同席しなさい。ソフィア」


神妙な面持ちで言った父の後に続き、応接間に移った。

そこにいたのはアカデミーで同じクラスの留学生。


「急な訪問を受け入れてくださり、感謝いたします。」


深々と私たちに礼をしてきた男性は、隣国のエセルガルド第4王位継承者のシルヴァン様だ。


「娘の同席を希望して、何用だろうか。」


「この度は貴方の娘を我が妻になって欲しいとお伺いました。」


私を妻に???

先日のあれこれと、父の戦の話でこれとはどうしても混乱してしまう。


「私は継承権を破棄し、貴方の国と直近辺境の地を守る役目につくことになったのです。学園でソフィア様の叡智に感銘し、今回の婚約破棄でぜひともと思った次第です。」


「それはできん。お前の国と私が共謀したものだと思われかねん。」


「…噂で婚約破棄になったソフィア殿は国外に行かれるのではないかと聞きました。優秀な人間を野に放つなど私は耐えられません。私は彼女が欲しい。辺境伯になる私にとって身分は些細です。彼女が身分を捨て名を変えたとしても問題ありません。」


「真実を知って王族は身分がない女を引き入れるのは許すのか。」


「確実に許されますよ。かつて我が国とこの国が争っていた時代、貴方方の祖先から何度も辛酸をなめされられた記録があります。現在の当主である貴方も優秀な方だ。その子孫を秘密裏に引き入れ友好関係を結べるならむしろ大喜びでしょう」


「………」


隣国の辺境伯となる方と結婚。

これは悪くない話かもしれない。

一人ぼっちで何も知らない土地に行かなければならないよりも、大事な家族と領地の民を見守りながら会える距離にいられるなら。


「お父様。私はお受けしようと思います。」


「何!?」


私は父に小さな声で話した。


「どちらにせよ私は身分を捨てなければならないのです。それでいいでしょう。もし、シルヴァン様が裏切り、故郷を攻め込むようならば、いち早く情報を流せます。私が一番守りたいのはここなのですから。」


「スパイになるつもりか…。私はそんなことをさせたくない。」


「婚約破棄がなかったとして、王妃になった未来はもっとつらく、馬鹿殿下の尻拭いに走り回っていつ争いが起きるか戦々恐々する日々を送ることよりましです。」


「………わかった、シルヴァン殿。その要望受け入れよう」


父は熟考し、ついに受け入れた。

シルヴァン様はたいそう喜んでいらっしゃる。


「しかし、結婚となると身分は確実に必要だ。どうするつもりだ」


「新しい身分を作るためにソフィア様を私の信頼する配下にお願いしよう。ソフィア殿であれば、その知能で身分が劣ると周りに思われたとしても、すぐにその評価は覆るでしょう」


父は細かい取り決めをシルヴァン様と話し合い始めた。

私は父の横で聞きながら、質問が浮かんだ時発言した。


話し合いの中で覚悟は決まっていった。

家族と領地のために私は他国で戦う。


話し合いが終わった後、私は荷物をまとめ、世話になった人たちすべてに手紙を書いた。書いた手紙は私が国外へ行った後に送ってほしいと手配した。

本当はあいさつ回りがしたかったけれど、余計な情報を外に出してはいけないと諦めた。


出発の日シルヴァン様が用意した馬車に乗った。

家族に見送られ、親しんだ領地の風景に涙が我慢できなかった。


「君は私の国に来るのは怖くはないのか?」


「怖いですよ。もし貴方が騙していて、これから私を娼館に売るのではないかって。」


「さすがにない。そんなことをすれば君の父上と戦争だ。」


一人は怖かったのだが、使用人が一人ついてきてくれることになった。

彼女もとても恐ろしいはずなのに、感謝しきれない。

向かう先でどんな目に会うのか恐ろしい予測が止まらない。


私は婚約破棄されただけなのに、地獄へ落とされたような気分だった。






ソフィアが家を出た半年後、辺境伯の家にカイル殿下がボロボロな姿で侵入してきた。


「ソフィアに会わせてくれ!」


「娘はもういない。国に不安の渦を起こしてしまった者に関わった者も大罪人だ。我が娘は被害者であることから、情状酌量の判断で国外追放とした。お前のせいでな!!」


「え…?」


「娘に助けを請うても娘はもう何もできんぞ。」


殿下は膝から崩れ落ちるように座り込んだ。

陛下を待ったが考えていた期限内に謝罪をしに訪れなかったので、計画を実行したのだ。

戦火は上がらなかったものの、各地の貴族が早急に戦の準備をし、王都に威嚇してくれたお陰でようやく陛下は気付いて謝罪に来た。

すべてが遅すぎたため、陛下の威光は衰え権力は衰退していく一方だ。

重く受け止めた陛下は我が子を処刑する判断をしたのだろう。

それを回避したくてこの馬鹿王子は今さら娘に会いに来たのだ。

最後まで謝罪もなく自分のことしか考えていなかった。


連れていけ。と警備に命令すると、殿下…いや大罪人はなにやら叫びながら退場していった。

残された辺境伯は娘の自画像を見上げ、隣国で幸せに生きていることを願った。





5年後。

新聞によると国を混乱させた罪として殿下と男爵令嬢は公開処刑されたこと。男爵家も国家転覆罪として処刑されたこと。

主導となっている貴族の発言では、国政は遅くとも50年以内には立憲君主制になり、次に王政は廃止され共和国の形になるかもしれないということが書かれていた。

政治が上手くいくかどうかは不透明だが、民を思うものが中心となり平和で幸せな国作りをしてほしいと思う。


それの手伝いをできないことに少し残念な気持ちになった。


ノックの音が聞こえ、シルヴァン様が入って来られた。


「隣国、大きな争いが起きなくてよかったな」


「はい、あの国には優秀な人がたくさんいて助かりました。」


「王政が危ぶまれても国が保たれるほどの人材は羨ましいと思うよ」


国とは人ありき。国の強さは人々がどれだけ多くの人が平和を愛し困難に立ち向かえるかどうかによるのがこの事件でよく分かった。


「あ、そうそう。その話の国との国境の整備がされて、商会などの行き来の制度が変わった。国境の町なら通行証無しで行き来できるようになったぞ。」


「本当ですか?!」


私は思わず立ち上がった。

この人は私を喜ばせるニュースをよく持ってきてくれる。


家族が偵察という名目で近くに来てくれれば、会うこともできるだろう。

すり合わせすれば友人たちとも。

手紙も送れるようにきっとなる。


「ありがとうございます」

「妻の笑顔が大好物だからな。がんばった。」


目の前の男性は私の夫となったシルヴァン様。

5年前、この国についてからというものシルヴァン様はあれこれ世話をしてくれて、新しいことをやろうとしたら仲介人として助けてくれるし、欲しいと思ったものは何でも買い与えてくれた。

懐柔して国を裏切ろうとさせているのかと怪しんでいたが、そういう素振りも気配もない。

ただ、領地の発展のためにいろんな所へ連れまわされて大変だったが、異文化を知れてそれはそれで楽しい日々だ。


それに妻となったが夜伽を求められることはまだなかった。

私が信じることができた時にと待ってくれている。

彼は私のこと利用したいだけと思っていたけれど一緒に暮らしている中でそうではないらしいと気付いた。


ある日ビックリして私から彼に抱きついた時、高熱を出したのかと思うくらい真っ赤になっていたし、素肌を見られてしまった時の慌て様は私以上だった。

ポーカーフェイスの打診的、合理的な人かと思っていたけれど、違うのかも。

後もう少しだけ様子を見て、彼の手を私から握ってみようかなと思った。

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