公爵と令嬢
ーーー大きなパイプオルガンから華やかな結婚行進曲が流れている。
司祭の前、褐色の肌の筋肉質な男。
右に白い肌の華奢な女。
どちらの顔にも笑顔がない。
「ここに、スヴァローグ帝国・テルミア公爵家レオルクスと、ヴェレス王国・ヴェロボーグ公爵家コトルナ嬢との婚姻を宣布します」
誰も笑わない、喜びの言葉も拍手もない、しかし大切な婚姻式。
ーーー政略結婚。
それ以上でも以下ない。
式を終え、馬車で公爵邸に向かう。
金色の門柱の側に、白髪の老人が一人立っている。
「聞きたいことはあれに聞け」
ーーーわざわざ俺に聞く必要はない。
なんの感情もない、ぶっきらぼうな一言。
言い放って返事を待つこともせず、そのまま馬車を降りてふり返ることなく敷地内に消えて行った。
開け放たれた馬車の扉の下で老人が、一礼をして挨拶を始めた。
「奥方様、長旅お疲れ様でございました。お初にお目に掛かります。テルミア家執事のセドリックでございます」
「……」
「お部屋とメイドのご用意をさせていただきました。ご案内致します。」
必要事項を告げ、コトルナが馬車から降りたのを確認してから踵を返して歩きだした。
ひんやりとした石畳の廊下に足音が2つ響く。
時折すれ違うメイド達は、肌が白く華奢なコトルナにお辞儀はすれど、どこか遠巻きだった。
「ーーーこちらで御座います。」
金色のノブを回しながら、真っ白な扉が押し開かれる。
肌寒く薄暗い廊下から、太陽の光が暖かく射し込む部屋。
室内は白を基調としてあり、所々に使われている金細工やヘリオドールが引き立っている。
「お夕食まで、少々お時間が御座います。
お部屋にお持ち致しますので、どうぞお寛ぎください。」
用意していた案内を全て言い尽くしたセドリックは、再び恭しく一礼をしてコトルナから離れた。




