第7話 宮廷魔術師ラザルド──召喚儀式の矛盾
宝物庫盗難事件の現場を後にしたユウマは、
ガルド教官とともに王城の奥へ向かっていた。
「ラザルドは宮廷魔術師の中でも別格だ。
召喚儀式を担当したのもあいつだ」
ガルドの声は重い。
「でも、教官はラザルドを疑ってるんですよね?」
「……ああ。
だが証拠がない。
お前の推理が突破口になるかもしれん」
ユウマは頷いた。
(宝物庫の転移魔法陣……
鍵の無効化……
そしてレイハルトの態度)
全てが“内部犯行”を示していた。
(ラザルド……
あなたは何を隠している?)
宮廷魔術師塔。
王城の中でも最も魔力濃度が高い場所。
扉を開けると、
紫色のローブをまとった男が背を向けて立っていた。
「……来たか」
低く、乾いた声。
男はゆっくり振り返った。
白髪混じりの長髪。
鋭い目。
痩せた頬。
そして、何より――
人間味のない表情。
「私は宮廷魔術師長、ラザルド・フェンリスだ」
ガルドが前に出る。
「ラザルド、宝物庫の件で話がある」
ラザルドは微動だにしない。
「宝物庫?
ああ、盗難事件のことか。
私は知らん」
ユウマはその言葉に違和感を覚えた。
(……“知らん”と言った時、
目が一瞬だけ泳いだ)
ラザルドは続けた。
「私は召喚儀式の研究で忙しい。
宝物庫の管理など興味はない」
ユウマは静かに言った。
「でも、宝物庫の鍵を無効化できるのは……
あなたしかいませんよね?」
ラザルドの目が細くなる。
「……ほう。
スキルなしの小僧が、随分と口を出す」
ガルドがユウマを庇うように前に出た。
「ユウマは事件の調査をしている。
お前の協力が必要だ」
ラザルドは鼻で笑った。
「協力?
私は王国のために働いている。
小僧の遊びに付き合う暇はない」
(……この人、完全に俺を見下してるな)
ユウマは一歩前に出た。
「じゃあ、質問を変えます。
召喚儀式の記録を見せてください」
ラザルドの表情が一瞬だけ固まった。
「……なぜだ?」
「召喚儀式に“矛盾”があるからです」
ガルドが驚く。
「ユウマ、お前……」
ユウマは続けた。
「俺たちが召喚された時……
魔法陣の光が“赤く揺れた”瞬間がありました」
ラザルドの目が鋭くなる。
「赤い光……?
そんな記録はない」
「記録には、ですね。
でも俺は見ました。
そして――
スキル鑑定の時も、俺の時だけ赤い光が混ざった。」
ガルドが息を呑む。
「赤い光……
それは“召喚の失敗”を示す色だぞ……」
ラザルドは冷たく言った。
「失敗などしていない。
召喚は成功した。
勇者スキルを持つ者も現れた」
ユウマは首を振った。
「成功……ですか?
でも、俺たちのクラスは“全員”召喚されましたよね?」
ラザルドは黙る。
ユウマは続けた。
「普通、召喚儀式って……
“必要な人数だけ”呼ぶものじゃないんですか?」
ガルドが驚愕する。
「……確かに……
勇者召喚は通常、一人か二人だ……」
ユウマはラザルドを見据えた。
「なのに、なぜ“クラス全員”が召喚されたんです?」
ラザルドの表情がわずかに揺れた。
(……やっぱり、何か隠してる)
ユウマはさらに踏み込む。
「そして……
俺だけ“スキルなし”。
でも魔法陣の反応は他と違った。
これは――
本来召喚されるはずだった人物が別にいる
ということじゃないですか?」
ガルドが息を呑む。
「ユウマ……お前……」
ラザルドは沈黙したまま、
ユウマをじっと見つめている。
その目は、
怒りでも嘲笑でもない。
ただ――
興味。
「……面白い推理だ」
ラザルドが口を開いた。
「だが、証拠はあるのか?」
ユウマは言った。
「ありますよ。
召喚陣の“焦げ跡”です」
ラザルドの目が見開かれる。
「焦げ跡……?」
「召喚陣の一部が、
“外側から干渉された跡”がありました。
あれは……
召喚対象が途中で“すり替わった”証拠です。」
ガルドが震える声で言う。
「すり替わった……?
じゃあ、本来召喚されるはずだったのは……」
ユウマは静かに言った。
「――俺たちじゃない」
ラザルドはゆっくりと笑った。
「……なるほど。
やはり、お前は“鍵”だ」
ユウマは眉をひそめた。
「鍵……?」
ラザルドはローブを翻し、背を向けた。
「今日はここまでだ。
これ以上は話せん」
「待ってください!」
ユウマが追おうとした瞬間――
「ユウマ!」
エレナが駆け込んできた。
「王城の外で……魔物が暴走している!
勇者パーティが向かったけど……
様子がおかしい!」
ガルドが叫ぶ。
「何だと!?」
エレナはユウマの手を掴んだ。
「あなたの“目”が必要よ!」
ユウマは息を呑んだ。
(……また事件か)
ラザルドは振り返らずに言った。
「行け。
お前の推理が……世界を動かす」
ユウマは走り出した。
(召喚儀式の矛盾……
宝物庫の盗難……
王国の嘘……
そして魔物の暴走)
全てが繋がっている。
ユウマは静かに決意した。
(俺が暴く。
この世界の“真相”を)
こうして――
ユウマは次の事件へと向かう。




