第4話 王国生活開始──最初の事件
異世界に召喚された翌日。
ユウマたちは王城の広間に集められていた。
「本日より、諸君には王国のために働いてもらう」
騎士団長レイハルトの声が響く。
「勇者パーティはガルド教官のもとで戦闘訓練を行う。
スキルなしの者は……後方支援に回れ」
その視線は、明らかにユウマを見下していた。
(……まぁ、予想通りだな)
ユウマは肩をすくめた。
アリサが心配そうに寄ってくる。
「ユウマくん、本当に大丈夫……?」
「大丈夫。俺は戦えないし、後方で十分だよ」
「でも……」
アリサの言葉を遮るように、
ガルド教官が豪快に笑った。
「おいユウマ! お前は訓練に参加しなくていい!
戦えない奴を無理に鍛えても意味がないからな!」
(……言い方よ)
だが、ガルドの目は意外にも優しかった。
「ただし、見学は自由だ。
何か気づいたことがあれば言え」
「……見学?」
「お前、昨日の鑑定の時……
妙に周りを観察してただろ?」
ユウマは驚いた。
(この人……気づいてたのか)
ガルドはニヤリと笑う。
「戦えなくても、役に立つ奴はいる。
そういう奴を俺は嫌いじゃない」
その言葉に、ユウマは少しだけ救われた気がした。
訓練場。
勇者パーティの訓練が始まる。
レンは剣を振り、
ユウトは木人形を真っ二つにし、
カナは水の槍を放ち、
ユイは矢を連射する。
「すげぇ……」
「これがスキルか……」
クラスメイトたちが歓声を上げる中、
ユウマは静かに観察していた。
(レンの剣筋は素直。
ユウトは力任せだが精度が高い。
カナは魔力の流れが綺麗。
ユイは……射撃の癖が少し強いな)
そんな時だった。
「きゃあああああ!!」
悲鳴が響いた。
振り返ると、
訓練場の端で一人の少女が倒れている。
クラスメイトの 早乙女ミキ だ。
「ミキ!? どうしたの!?」
「だ、誰か……助けて……!」
ミキの腕には、
黒い痣のような模様 が浮かび上がっていた。
アリサが駆け寄り、治癒魔法を使う。
「《ホーリーヒール》!」
光がミキを包むが――
「……治らない……?」
アリサが青ざめた。
ガルド教官が駆け寄る。
「これは……呪いだ!」
「呪い!?」
クラスメイトたちがざわつく。
レイハルトが険しい顔で言う。
「呪いは魔王軍の仕業か……?」
ユウマはミキの腕を見つめた。
(……違う)
痣の形。
色の濃さ。
広がり方。
どれも“自然な呪い”ではない。
(これは……人工的に作られた痣だ)
ユウマはミキの手首をそっと持ち上げた。
「ミキ、痛む?」
「う、うん……少し……」
(痛みがある……?)
呪いなら、痛みはもっと鋭いはずだ。
(これは……薬品による皮膚反応だ)
ユウマは周囲を見渡した。
(ミキが倒れた場所……地面に“粉”が落ちてる)
白い粉。
風で飛ばされていない。
つまり、最近撒かれたもの。
ユウマは粉を指で触り、匂いを嗅いだ。
(……これは“魔力反応剤”だ)
魔力に触れると黒く変色する薬品。
魔導書にも載っていた。
(つまり――)
ユウマは立ち上がり、声を上げた。
「ミキは呪われてない!」
全員がユウマを見る。
「これは“呪い”じゃなくて、
魔力反応剤による偽装だ!」
「偽装……?」
アリサが息を呑む。
ユウマは続けた。
「ミキが倒れた場所に粉が落ちてた。
それが皮膚に触れて黒く変色しただけだよ」
ガルド教官が粉を拾い、匂いを嗅いだ。
「……確かに、魔力反応剤だな」
レイハルトが険しい顔で言う。
「では、誰がこんなことを?」
ユウマは周囲を見渡した。
(粉の量……風向き……足跡……)
そして、ある一点に気づいた。
(……足跡が一つだけ“逆向き”だ)
ユウマは指をさした。
「犯人は――
黒川トオル だ」
「はぁ!? なんで俺だよ!」
トオルが叫ぶ。
ユウマは冷静に言った。
「粉の足跡が、お前の靴と一致してる。
かかとがすり減ってるから、すぐ分かった」
トオルは顔を青くした。
「ち、違う! 俺は……!」
「ミキのスキル《魅了》を嫌ってたよな。
“あいつのせいで男子が騒ぐ”って」
トオルは唇を噛んだ。
「……俺は……ただ……
ちょっと脅かしてやろうと思っただけで……
こんな大事になるとは……」
ミキが涙目で言う。
「トオル……ひどいよ……」
トオルはうつむいた。
「……悪かったよ……」
レイハルトがため息をついた。
「まったく……異界の者は問題ばかり起こす」
ガルド教官がユウマに向き直る。
「ユウマ、お前……すごいな」
「ただの観察ですよ」
エレナが近づき、静かに言った。
「……あなた、本当に“スキルなし”なの?」
ユウマは微笑んだ。
「スキルはないけど……
“見抜く力”なら、少しだけ自信があります」
エレナは満足そうに頷いた。
「あなたの力……この国に必要よ」
その言葉は、
ユウマの胸に深く響いた。
(……俺は戦えない。
でも――
事件なら、解ける)
ユウマは静かに決意した。
(この世界の“嘘”を暴く)
そして、
最初の事件は幕を閉じた。
だが――
これは始まりにすぎない。
王国には、
もっと大きな“闇”が潜んでいる。




