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第34話 沈黙の理由──光が語らない真実

影が消えたあと、

光の聖域には重い静寂が落ちた。


ユウマは深く息を吸い、

胸のざわつきを押さえ込んだ。


(影の言葉は断片的だった。

 でも、断片だからこそ“嘘”が混ざる余地がある)


エレナが不安そうに言う。


「ユウマ……大丈夫?」


ユウマは頷いた。


「大丈夫です。

 ただ……考えることが増えました」


ガルド教官が腕を組む。


「影の言葉を真に受ける必要はねぇぞ。

 あいつらはユウマを混乱させるために来てる」


ユウマは首を振った。


「混乱させるためなら、もっと“感情的な嘘”をつくはずです。

 でも影は、嘘を混ぜながらも“事実の断片”を投げてきた」


カリナが静かにユウマを見る。


「……ユウマ。

 あなたは影の言葉を信じるのですか?」


ユウマは即答しなかった。


少し考えてから言う。


「信じるかどうかじゃなくて、

 “検証する価値があるかどうか”です」


エレナが小さく息を呑む。


(ユウマ……やっぱり冷静)


ユウマは続けた。


「影はこう言いました。


“光は鍵を愛し、そして壊す”

 “前世で光は鍵を殺した”

 “理由は知らない。結果だけが残った”


この三つは、矛盾しています」


ガルドが眉をひそめる。


「矛盾……?」


ユウマは指を三本立てた。


「まず一つ目。

 “愛して壊す”というのは、影の価値観です。

 感情を危険視する影の論理であって、事実ではない」


エレナが頷く。


「たしかに……影は“愛”を理解してない感じだった」


「二つ目。

 “光が鍵を殺した”というのは“記録”であって、

 影自身が見たわけではない」


ガルドが言う。


「つまり伝聞ってことか」


「そうです。

 伝聞は必ず“解釈”が混ざる。

 特に影のような存在なら、なおさら」


ユウマは三本目の指を立てた。


「三つ目。

 “理由は知らない”と言った。

 つまり影は“結果だけ”を見て、

 そこに“悪意”を勝手に貼り付けている」


カリナの瞳が揺れた。


(ユウマ……あなたは……)


ユウマはカリナに向き直る。


「カリナ。

 影の言葉は“あなたが俺を殺した”という結果だけを語っています。

 でも、あなたはその理由を語っていない」


エレナが息を呑む。


「……たしかに……」


ガルドも腕を組む。


「影は“理由を知らない”と言った。

 なら、理由を知ってるのはカリナだけだな」


カリナは静かに目を伏せた。


「……ユウマ。

 あなたは……知りたいのですか?」


ユウマは迷わず答えた。


「知りたいです。

 影の言葉が真実かどうかじゃなく、

 “あなたが沈黙している理由”を知りたい」


カリナの肩がわずかに震えた。


(沈黙の理由……

 ユウマはそこに気づいたのですね)


ユウマは続けた。


「影の言葉は断片的でした。

 でも、あなたの沈黙は“意図的”です。

 影よりも、あなたの沈黙の方が“重い”」


エレナが小さく呟く。


「ユウマ……

 本当に探偵みたい……」


カリナはゆっくりと顔を上げた。


その瞳は、

深い悲しみと決意を宿していた。


「……ユウマ。

 あなたは前世で……

 “影に囚われかけていました”」


ユウマの心臓が跳ねた。


「影に……?」


カリナは頷いた。


「影の王ノクスは、

 あなたを“鍵”として利用しようとした。

 あなたは強い心を持っていたけれど……

 影の力は、あなたを少しずつ侵食していった」


ガルドが息を呑む。


「影に……取り込まれかけたってことか」


エレナが震える声で言う。


「ユウマが……?」


カリナは続けた。


「あなたは最後の瞬間、

 “自分が影に堕ちる前に止めてほしい”と私に頼みました」


ユウマは言葉を失った。


(俺が……頼んだ……?)


カリナは静かに言った。


「私は……

 あなたの願いを叶えたのです」


エレナは涙を浮かべた。


「そんな……

 そんなの……悲しすぎる……!」


ガルドも拳を握る。


「前世のユウマは……

 自分で選んだってことか……」


ユウマはカリナを見つめた。


「どうして……

 そのことを黙っていたんですか?」


カリナは目を閉じた。


「あなたが“前世の自分”に縛られるのが怖かった。

 あなたは今世のユウマであって、

 前世のユウマではない。

 私は……

 あなたに“前世の罪”を背負わせたくなかった」


ユウマは胸が締めつけられた。


(カリナ……

 俺を守るために……沈黙していたのか)


カリナは続けた。


「でも……

 あなたは影の言葉に惑わされず、

 冷静に矛盾を見抜いた。

 だから……

 もう隠す必要はありません」


エレナが涙を拭いながら言う。


「ユウマ……

 あなたは……本当に強い……」


ガルドも頷く。


「力じゃなくて、頭で戦ってるからな」


ユウマは深く息を吸った。


「カリナ。

 あなたが俺を殺したことを……

 俺は責めません」


カリナの瞳が揺れた。


「ユウマ……」


「でも――

 “前世の俺が何を考えていたのか”

 “影がなぜ俺を狙うのか”

 “王国が何を隠しているのか”

 全部、調べます」


カリナは静かに頷いた。


「ええ。

 あなたなら……真実に辿り着けます」


その時――

神殿の奥から、

低い声が響いた。


「……真実に……辿り着く……?

 鍵が……それを望むのか……」


エレナが剣を構える。


「この声……!」


ガルドも叫ぶ。


「影の王……ノクスか!」


黒い霧が神殿を満たし、

巨大な影が姿を現した。


ノクスはユウマを見つめ、

低く呟いた。


「鍵よ……

 前世と同じように……

 また“光”を信じるのか……?」


ユウマは一歩も引かずに言った。


「信じるかどうかは、俺が決める。

 前世の俺じゃなく、今の俺が」


ノクスの赤い瞳が揺れた。


「……ならば……

 試してやろう……鍵……」


光と影が再びぶつかる中、

ユウマは“推理”で真実に迫ろうとしていた。

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