表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/26

第20話 影の囁き──王城の夜に潜むもの

ロイド襲撃事件のあと、

王城はいつも以上に騒がしくなっていた。


騎士たちが廊下を走り回り、

情報局の職員たちは慌ただしく書類を運んでいる。


エレナが小声で言う。


「……完全に“非常事態”ね」


ガルド教官も険しい顔で頷いた。


「ロイドが襲われたって話が広まったんだろう。

 王城の中で襲撃なんて、前代未聞だからな」


ユウマは歩きながら、

周囲の視線を感じていた。


(……見られている)


騎士たちの視線が、

明らかにユウマへ向けられている。


「(あれが……)」


「(ロイドを巻き込んだって噂の……)」


「(情報局が保護してるらしいぞ)」


ひそひそ声が耳に入る。


エレナが怒りを抑えきれずに言う。


「ユウマを疑うなんて……!」


ガルドが肩をすくめる。


「まぁ、騎士たちも混乱してるんだ。

 気にすんな」


ユウマは微笑んだ。


「大丈夫です。

 慣れてますから」


(探偵をしていた頃も、

 こういう視線はよくあった)


だが――

今の視線は、あの頃とは違う。


もっと重く、

もっと冷たい。


(これは……“恐れ”だ)


ユウマは胸の奥がざわつくのを感じた。


その時――

王城全体に、甲高い鐘の音が響いた。


「カンッ……カンッ……カンッ……!」


エレナが驚く。


「警鐘……!?

 何かあったの?」


ガルドが叫ぶ。


「この音は……“緊急事態”だ!」


騎士たちが一斉に走り出す。


「東棟だ! 東棟で事件発生!」


「負傷者多数! 医療班を呼べ!」


「犯人はまだ城内にいるぞ!」


ユウマの心臓が跳ねた。


(また……事件?)


ガルドがユウマの肩を掴む。


「ユウマ、来い!

 お前の“目”が必要だ!」


エレナも剣を抜く。


「急ぎましょう!」


三人は東棟へ向かって走った。


東棟の廊下は騒然としていた。


床には倒れた騎士が数名。

壁には焦げ跡。

空気には、微かに鉄の匂いが漂っている。


エレナが息を呑む。


「……ひどい」


ガルドが倒れた騎士に駆け寄る。


「おい! しっかりしろ!」


騎士は苦しそうに言った。


「……黒い影が……

 突然現れて……」


ユウマが膝をつく。


「黒い影……?」


騎士は頷いた。


「ええ……

 人の形をしていましたが……

 動きが……人間じゃない……」


ガルドが叫ぶ。


「犯人はどっちへ行った!?」


騎士は震える指で廊下の奥を指した。


「……あっち……

 “赤い目”が……光って……」


ユウマの胸がざわついた。


(赤い目……

 ロイドを襲った犯人と同じ……)


エレナが言う。


「ユウマ……

 あなたを狙っている“影”が動いてる」


ユウマは立ち上がった。


「行きましょう。

 犯人はまだ近くにいます」


ガルドが頷く。


「気をつけろよ。

 相手はただ者じゃねぇ」


三人は廊下の奥へ進んだ。


廊下の突き当たりに、

大きな窓がある。


その前に――

黒い影が立っていた。


フードを深く被り、

顔は見えない。


だが――

その瞳だけが、

赤く光っていた。


エレナが剣を構える。


「……あれが……!」


ガルドが叫ぶ。


「おい! 動くな!」


だが影は動かない。


ただ、

ユウマだけを見つめていた。


ユウマは一歩前に出た。


(……俺を見ている)


影はゆっくりと手を上げた。


その手には――

黒い短剣が握られている。


ガルドが叫ぶ。


「ユウマ、下がれ!!」


だがユウマは動かなかった。


影は口を開いた。


その声は、

低く、歪んでいた。


「……ユウマ……」


ユウマの心臓が跳ねた。


(俺の名前を……)


影は続けた。


「……お前は……

 “ここにいてはいけない”」


エレナが叫ぶ。


「どういう意味よ!」


影は答えない。


ただ、

ユウマに向かって短剣を構えた。


「……消えろ……ユウマ……」


ガルドが剣を抜く。


「来るぞ!!」


影が動いた。


その動きは――

人間のものではなかった。


一瞬で距離を詰め、

ユウマの喉元へ短剣を突き出す。


エレナが叫ぶ。


「ユウマ!!」


ガルドも叫ぶ。


「避けろ!!」


だが――

ユウマは動けなかった。


(速い……!

 避けられない……!)


その瞬間――


赤い光が弾けた。


「……っ!」


影の短剣が弾き飛ばされる。


ユウマの目の前に、

赤い光が立ちはだかった。


エレナが叫ぶ。


「この光……!」


ガルドも息を呑む。


「まさか……!」


ユウマは震える声で言った。


「……あなた……」


赤い光の中から、

ゆっくりと“女性の姿”が現れた。


森でユウマを守った、

あの女性だ。


女性はユウマの前に立ち、

影を見据えた。


「……ユウマには……

 指一本触れさせません」


影が低く唸る。


「……邪魔を……するな……!」


女性は静かに言った。


「あなたには……

 ユウマを傷つける資格はありません」


赤い光が強く輝く。


影が後退する。


ユウマは息を呑んだ。


(この人は……

 やっぱり俺を守っている)


女性はユウマを振り返り、

優しく微笑んだ。


「大丈夫です。

 私が……あなたを守ります」


ユウマは言葉を失った。


影は怒り狂い、

再び突進してくる。


女性は赤い光を纏い、

影へ向き直った。


「――あなたの相手は、私です」


王城の夜に、

光と影が激突しようとしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ