第2話 霧島ユウマの日常②
翌日。
ユウマは図書室の静けさの中で、ページをめくっていた。
読んでいるのは古い推理小説。
祖父の書棚から借りてきたものだ。
(やっぱり、昔の推理小説はいいな……
トリックもシンプルで、動機も分かりやすい)
そんなことを考えていると、
図書室の扉が勢いよく開いた。
「霧島くん! 大変、大変!」
慌てた声で駆け込んできたのは、
クラスメイトの 白川ナギサ。
「どうしたの?」
「図書室の“魔導書”が消えたの!」
ユウマは眉をひそめた。
「魔導書? そんなのあったっけ?」
「最近、学校に寄贈されたんだよ。
魔法の研究に使うとかで……」
(……魔導書なんて、普通の学校にあるわけないだろ)
内心ツッコミながらも、
ナギサに案内されて棚を見る。
確かに、
ガラスケースの鍵が開いている。
ナギサが言う。
「鍵は司書の先生しか持ってないのに……」
ユウマはケースを見て、すぐに言った。
「犯人は“先生じゃない”よ」
「え!? なんで!?」
「鍵穴の周りに“傷”がある。
これはピッキングの跡だよ。
先生が開けたなら、こんな傷はつかない」
ナギサは驚いた。
「じゃあ……誰が?」
ユウマは棚の下を覗き込む。
(……靴跡があるな)
「犯人は“生徒”だよ。
しかも、靴のサイズは27センチ。
男子だね」
ナギサは震えた声で言う。
「そんな……どうして……?」
ユウマは静かに答えた。
「魔導書のページに“魔力増幅”の章があった。
スキルに不満を持ってる生徒なら……欲しがるだろうね」
ナギサは息を呑む。
「……霧島くん、すごい……」
ユウマは首を振った。
「すごくないよ。
ただの観察と推理だよ」
その日の昼休み。
教室では、クラスメイトたちが騒いでいた。
「なぁ聞いたか? 魔導書が盗まれたってよ!」
「マジかよ、誰だよそんなことするの!」
「スキル強化できるって噂だぞ?」
「おいおい、ゲームじゃねぇんだぞ」
ユウマは弁当を食べながら、
その会話をぼんやり聞いていた。
(……噂が広がるの早いな)
そんな中、
アリサが席にやってきた。
「ユウマくん、また事件に巻き込まれたんだって?」
「巻き込まれたってほどじゃないよ。
ナギサに頼まれただけ」
アリサは少し心配そうに言う。
「ユウマくん、最近……事件に敏感じゃない?」
「敏感っていうか……
なんか、学校全体が落ち着かないんだよ」
アリサは小さく頷いた。
「……私も、そう思う」
ユウマはアリサの表情を見て、
胸の奥にひっかかりを覚えた。
(アリサ……何か隠してる?)
だが、問い詰めるほどの根拠はない。
放課後。
ユウマは校舎の裏で、
ひとりの男子生徒と向き合っていた。
「……なんでバレたんだよ」
うつむいているのは、
クラスメイトの 黒川トオル。
盗賊スキルを持つ、問題児だ。
「簡単だよ。
お前の靴跡が棚の前に残ってた」
「……靴跡なんて、誰でも残るだろ」
「いや、お前の靴だけ“かかとがすり減ってる”。
歩き方の癖だよ」
トオルは舌打ちした。
「……チッ。
なんでそんなとこまで見てんだよ」
「癖なんだよ。
人の行動を見るのが」
トオルはしばらく黙っていたが、
やがて観念したように言った。
「……悪かったよ。
でも俺だって、スキルが弱いってバカにされて……
強くなりたかったんだよ」
ユウマは静かに言った。
「魔導書は返した方がいい。
あれ、危険な内容も多いから」
トオルはうつむいたまま、小さく頷いた。
「……分かったよ」
帰り道。
ユウマは空を見上げた。
昨日よりも、
空の“揺れ”が大きい。
「……やっぱり変だな」
アリサが隣で言う。
「ユウマくん、今日も空を見てるね」
「なんか……嫌な予感がするんだよ」
アリサは微笑んだ。
「大丈夫だよ。ユウマくんは、いつも正しいから」
ユウマは苦笑した。
「俺は探偵じゃないよ。
ただの高校生だよ」
だがその瞬間、
空が――
低く、唸った。
「……え?」
アリサが息を呑む。
空の中心が、
まるで“引き裂かれるように”揺れている。
ユウマは思わず呟いた。
「……これは、ただの違和感じゃない」
風が逆流し、
空気が震え、
光がねじれる。
アリサがユウマの腕を掴んだ。
「ユウマくん……怖い……」
ユウマはアリサの手を握り返した。
「大丈夫。
……何が起きても、俺が見てる」
その言葉が終わるより早く――
空が裂けた。
光が降り注ぎ、
世界が白く染まる。
ユウマの平和な日常は、
ここで終わりを告げた。




