第16話 赤い光の守護──謎の女性の力
巨大な魔物が森の奥から姿を現した。
黒い毛並み。
岩のような皮膚。
赤く光る目。
体長は三メートルを超え、
その一歩ごとに地面が揺れる。
エレナが叫ぶ。
「……あれは“オーガ・ロード”!?
こんな森に出るなんて……!」
ガルド教官も剣を構えた。
「クソッ……普通のオーガじゃねぇぞ。
あれは上位種だ!」
ユウマは息を呑んだ。
(こんな魔物……
俺じゃどうにもできない)
だが――
謎の女性は一歩も引かなかった。
赤い光を纏い、
静かに魔物を見つめている。
魔物が咆哮した。
「グォォォォォォッ!!」
その声だけで木々が震え、
鳥たちが一斉に飛び立つ。
ガルドが叫ぶ。
「ユウマ、下がれ!!」
エレナもユウマの腕を掴む。
「危ない、逃げて!」
だがユウマは動けなかった。
(この女性……
本当に俺たちを守るつもりなのか?)
魔物が地面を蹴り、
女性へ向かって突進した。
その瞬間――
女性の体から赤い光が爆発するように広がった。
「……下がってください」
その声は静かだった。
だが次の瞬間、
魔物の巨体が弾き飛ばされた。
「なっ……!?」
ガルドが目を見開く。
「今の……何だ!?
魔法か!?
いや、魔法の詠唱がなかったぞ!」
エレナも震える声で言う。
「詠唱なしで……
あんな力を……?」
ユウマは女性を見つめた。
(この人……
ただ者じゃない)
魔物は怒り狂い、
再び突進してくる。
女性は動かない。
ただ静かに右手を上げた。
「……眠りなさい」
赤い光が女性の手から放たれ、
魔物の体を包み込む。
魔物は苦しそうに呻き、
そのまま地面に倒れた。
ドサッ。
ガルドが叫ぶ。
「倒した……!?
一撃で……?」
エレナも信じられないという顔をしている。
「こんなの……人間じゃ……」
ユウマは女性に近づいた。
「あなた……一体……」
女性はユウマを振り返り、
静かに微笑んだ。
「大丈夫です。
もう危険はありません」
ユウマは息を呑んだ。
(この笑顔……
どこか……悲しそうだ)
ガルドが警戒しながら言う。
「お前……何者なんだ?
どうしてユウマを守る?」
女性は少しだけ目を伏せた。
「……それは、まだ言えません。
でも……
あなたたちを傷つけるつもりはありません」
エレナが一歩前に出る。
「じゃあ……どうしてユウマの名前を知っているの?」
女性はユウマを見つめた。
「あなたのことは……知っています。
ずっと前から」
ユウマは胸がざわついた。
「ずっと前から……?」
女性は頷いた。
「ええ。
あなたがこの世界に来る前から……
あなたの存在は“感じていました”」
ガルドが叫ぶ。
「意味が分からねぇ!
どうやって異世界の人間を知るんだよ!」
女性は答えなかった。
ただ、ユウマを見つめ続けた。
「ユウマ……
あなたは“特別”です。
だから……守らなければならない」
ユウマは一歩近づいた。
「どうして……俺を守るんですか?」
女性は静かに言った。
「あなたは……
“この世界を変える人”だから」
ユウマは息を呑んだ。
(この世界を……変える?
俺が……?)
女性は続けた。
「あなたが生きている限り……
この世界は滅びません。
だから……あなたを守ることが、
私の“役目”なのです」
エレナが震える声で言う。
「役目……?」
女性は頷いた。
「ええ。
私は……あなたの“守護者”です」
ユウマは胸が熱くなるのを感じた。
(守護者……
俺の……?)
女性はユウマに手を伸ばした。
「ユウマ……
あなたは、まだ何も知らない。
でも……
いずれ全てを知る時が来ます」
ユウマはその手を見つめた。
(この人は……敵じゃない。
むしろ……俺を守ってくれている)
だが――
女性は手を引っ込めた。
「……今日はここまでです。
これ以上は、まだ早い」
ガルドが叫ぶ。
「待て!
まだ聞きたいことが――」
女性は首を振った。
「いずれまた会えます。
その時に……全てを話します」
赤い光が女性の体を包み始めた。
エレナが叫ぶ。
「消える……!?」
ユウマは思わず手を伸ばした。
「待ってください!
あなたは……一体……!」
女性は最後にユウマへ微笑んだ。
「――あなたを守る者です。
それだけは、忘れないで」
光が弾け、
女性の姿は消えた。
静寂が戻る。
ガルドが呆然と呟く。
「……なんだったんだ、あの女は」
エレナも震える声で言う。
「ユウマ……
あなた、本当に何者なの……?」
ユウマは答えられなかった。
ただ一つだけ確信していた。
(あの女性は……
俺を知っている。
そして……
俺を守ろうとしている)
森の奥で起きた出来事は、
ユウマの運命を大きく変え始めていた。




