第15話 赤い瞳の女性──静かな対話
森の奥の円形の空間。
赤い光が収束し、
そこに立つ女性の姿がはっきりとした。
白い肌。
長い髪。
そして――
深い赤色の瞳。
ユウマは息を呑んだ。
(……この人が……ロイドを助けた女性)
女性は静かにユウマを見つめていた。
その視線は鋭くも優しく、
どこか懐かしさすら感じさせる。
ガルド教官が剣を構えたまま叫ぶ。
「お前は何者だ!
ロイドを連れ去ったのはお前か!」
女性は首を横に振った。
「連れ去ってはいません。
彼は……傷ついていました。
だから、助けただけです」
その声は、
ロイドが言っていた通り、
優しく、どこか悲しげだった。
エレナが一歩前に出る。
「あなたがロイドを治したの?」
女性は頷いた。
「ええ。
彼は……とても苦しそうでしたから」
ガルドは剣を下ろさない。
「だとしても……
お前が何者か分からねぇ限り、信用はできん!」
女性はガルドを見ず、
ユウマだけを見つめていた。
「……あなたが、ユウマですね」
ユウマの心臓が跳ねた。
「どうして……俺の名前を?」
女性はゆっくりと歩み寄る。
その動きは静かで、
森の空気すら揺らさない。
「あなたのことは……知っています。
ずっと前から」
ユウマは思わず後ずさった。
(ずっと前から……?
俺はこの世界に来たばかりなのに)
エレナがユウマの前に立つ。
「ユウマに近づかないで!」
女性は立ち止まり、
エレナを見つめた。
「心配しなくても大丈夫。
私は……彼を傷つけません」
ガルドが叫ぶ。
「なら名乗れ!
お前は何者だ!」
女性は少しだけ目を伏せた。
「……名乗ることはできません。
まだ……その時ではないから」
ガルドが苛立つ。
「ふざけるな!」
だがユウマは手を上げて制した。
「教官、待ってください」
ユウマは女性を見つめた。
「あなたは……敵じゃないんですね?」
女性は静かに頷いた。
「ええ。
私はあなたたちの敵ではありません。
特に……ユウマ、あなたの」
ユウマは胸の奥がざわつくのを感じた。
(どうして……俺の名前を?
どうして……俺を知っている?)
女性は続けた。
「ロイドを助けたのは……
あなたを守るためです」
エレナが驚く。
「ユウマを……守る?」
女性はユウマに視線を戻した。
「あなたは……この世界で“特別”です。
だから……あなたを狙う者がいる」
ユウマは息を呑んだ。
「狙う者……?」
女性は頷いた。
「ええ。
あなたがここに来た瞬間から……
あなたの存在は、ある者たちにとって“脅威”になった」
ガルドが叫ぶ。
「誰だ!
誰がユウマを狙っている!」
女性は答えなかった。
ただ、悲しそうに目を伏せた。
「……まだ言えません。
でも……
あなたたちは、すでに巻き込まれている」
ユウマは一歩前に出た。
「あなたは……俺を守っていると言いました。
どうして……?」
女性はユウマを見つめた。
その瞳は、どこか切なげだった。
「……あなたは“鍵”だからです」
ユウマは眉をひそめた。
「鍵……?」
「ええ。
あなたは……この世界の“扉”を開く存在。
だから……あなたを守らなければならない」
エレナが叫ぶ。
「意味が分からないわ!」
女性はエレナを見つめ、
優しく微笑んだ。
「いずれ分かります。
でも今は……ユウマを守ることが最優先」
ガルドが剣を構え直す。
「お前が敵じゃねぇって証拠はあるのか?」
女性は静かに言った。
「証拠なら……すぐに分かります」
その瞬間――
森の奥から、
獣のような咆哮が響いた。
「グォォォォォォッ!!」
エレナが剣を構える。
「なに……!?」
ガルドが叫ぶ。
「魔物だ!
しかも……でけぇ!」
ユウマは森の奥を見つめた。
(……強い魔物の気配)
女性はユウマの前に立った。
「来ます。
あなたたちは下がって」
ガルドが叫ぶ。
「おい!
お前一人で何が――」
女性は振り返らずに言った。
「大丈夫。
私は……あなたたちを守るために来たのですから」
その言葉と同時に、
森の奥から巨大な影が飛び出した。
エレナが叫ぶ。
「ユウマ、下がって!」
ガルドも叫ぶ。
「避けろ!」
だが――
ユウマは動けなかった。
(この女性は……
本当に俺たちを守るつもりなのか?)
巨大な魔物が迫る。
その瞬間――
女性の体から赤い光が溢れた。
「……下がってください」
光が爆発するように広がり、
魔物を弾き飛ばした。
ガルドが目を見開く。
「な……なんだ、この力……!」
エレナも震える声で言う。
「人間じゃ……ない……」
女性はユウマを振り返り、
静かに微笑んだ。
「……大丈夫です。
あなたは、私が守ります」
ユウマは息を呑んだ。
(この人は……一体……)
女性は赤い光を纏い、
魔物へと向き直った。
「――あなたたちに、指一本触れさせません」
森が震えた。
そして、
ユウマは確信した。
(この女性は……ただ者じゃない)
だがまだ、
彼女の正体は明かされない。
ただ一つだけ分かるのは――
彼女はユウマを守るために現れた。
それだけだった。




