第11話 西塔の失踪事件
王城の朝は、いつもよりざわついていた。
騎士たちが慌ただしく走り回り、
空気には緊張が漂っている。
ユウマはガルド教官に呼ばれ、
王城の西側へ向かっていた。
「教官、何があったんですか?」
「騎士が一人、失踪した。
昨夜の巡回中に突然姿を消したらしい」
ユウマは眉をひそめた。
「失踪……?」
「ただの行方不明じゃねぇ。
“現場に異常がある”って報告があった」
二人は西塔の入口に到着した。
すでに数名の騎士が警戒している。
「霧島ユウマ殿ですね?」
騎士の一人が頭を下げた。
「情報局長ミレイユ様の命令で、
あなたの調査を許可されています」
ユウマは頷き、塔の中へ入った。
塔の内部は薄暗く、
石造りの壁が冷たく光っている。
ガルドが言う。
「失踪したのは“ロイド・ハンセン”。
真面目で腕の立つ騎士だ」
ユウマは階段を上りながら、
壁に触れた。
(……冷たい。
でも、どこか違和感がある)
三階に到着すると、
騎士たちが集まっていた。
「ここが現場です」
ユウマは廊下を見渡した。
(……静かすぎる)
床にはロイドの足跡が残っている。
だが――
「……ここで途切れている」
ガルドが覗き込む。
「本当だ。
ここから先、足跡がねぇ」
ユウマは床に手を触れた。
(足跡が消えたんじゃない。
“ここで動きが止まった”)
ユウマは窓の外を見た。
「ここから飛び降りた可能性は?」
騎士が首を振る。
「高さは十メートル以上。
落ちれば即死です。
それに、下に痕跡はありません」
ユウマは廊下の壁を見つめた。
(……壁に微かな傷がある)
「教官、ここ……何かが擦れた跡があります」
ガルドが目を細める。
「ロイドが抵抗したのか?」
「いえ……
これは“引きずられた”跡です」
騎士たちがざわつく。
「引きずられた……?」
「でも、足跡は途切れているぞ?」
ユウマは頷いた。
「足跡が途切れたのは……
“足が地面から離れた”からです」
ガルドが息を呑む。
「つまり……
ロイドは“宙に浮いた”ってのか?」
ユウマは壁の傷を指差した。
「この高さ……
ロイドの肩の位置です。
誰かに肩を掴まれ、
そのまま持ち上げられた」
騎士たちが青ざめる。
「そんな怪力……
人間じゃない……」
ユウマは静かに言った。
「魔物か……
あるいは“魔法”です」
ガルドが腕を組む。
「だが、魔物が城内に入れるわけがねぇ。
結界があるんだぞ?」
ユウマは窓の外を見た。
(……森の方から、何かが呼んでいる気がする)
「教官、ロイドは……
“外へ連れ去られた”可能性があります」
「外だと?」
「はい。
この窓の外に、微かな痕跡があります」
ユウマは窓枠を指差した。
「ここ……
魔力の残り香があります」
騎士が驚く。
「魔力……?
誰の魔力だ?」
ユウマは目を細めた。
(この魔力……
昨日の魔道具暴走の時と同じ)
「まだ断定はできませんが……
“同じ犯人”の可能性が高いです」
ガルドが言う。
「魔道具暴走事件と……
この失踪事件が繋がっているってのか?」
ユウマは頷いた。
「はい。
そして……
犯人は“森の方へ逃げた”」
騎士たちがざわつく。
「森……?」
「まさか、魔物の巣か?」
ユウマは静かに言った。
「行ってみないと分かりません。
でも……
ロイドはまだ生きています」
ガルドが驚く。
「どうして分かる?」
ユウマは窓の外を見つめた。
「この魔力……
“殺意”がありません。
むしろ……
ロイドを“連れて行っただけ”です」
エレナが息を呑む。
「じゃあ……
ロイドはどこかに囚われているの?」
ユウマは頷いた。
「はい。
そして……
俺たちを“誘っている”」
ガルドが剣を握る。
「ユウマ、行くぞ。
森へ向かう」
ユウマは深く息を吸った。
(森の奥に……
何が待っている?)
「はい。
ロイドを助けに行きましょう」
こうして――
ユウマたちは森へ向かうことを決めた。
王城の事件は、
まだ始まったばかりだった。




