第10話 王国の密命──忍び寄る監視の影
魔物暴走事件から一夜明けた朝。
ユウマは王城の一室で目を覚ました。
(……昨日の戦場、忘れられないな)
魔物の赤い目。
胸に刻まれた支配魔法陣。
そして、倒れた魔物から空へ昇っていった赤い光。
(あれは……誰かが“回収”していた)
考えれば考えるほど、
王国の闇は深くなる。
そんな時――
扉がノックされた。
「ユウマ、起きているか?」
ガルド教官の声だ。
「どうぞ」
扉が開き、ガルドが入ってきた。
その後ろには、見慣れない女性が立っている。
「初めまして、霧島ユウマ殿」
女性は丁寧に頭を下げた。
「私は王国情報局長、ミレイユ・サーシャと申します」
ユウマは息を呑んだ。
(情報局長……
つまり、王国の“諜報機関”のトップ)
ミレイユは微笑んだ。
「昨日の戦場でのあなたの働き、
情報局でも確認しております」
「……働き、ですか?」
「ええ。
魔物の弱点を見抜き、
勇者パーティを救った。
あなたの“観察力”は……
王国にとって非常に価値があります」
ユウマは警戒した。
(褒めてるようで……
これは“監視対象にする”って意味だ)
ミレイユは続けた。
「そこで、王国としてあなたに“密命”を与えたい」
ガルドが眉をひそめる。
「密命だと?」
ミレイユは静かに言った。
「――王城内で起きている“内部事件”の調査です」
ユウマは驚いた。
「内部事件……?」
「ええ。
宝物庫の盗難、魔物暴走、
そして召喚儀式の不具合。
これらは全て“内部の誰か”が関わっている可能性が高い」
ユウマは思わず言った。
「……ラザルドですか?」
ミレイユは微笑んだ。
「それを決めるのは、あなたです」
(……やっぱり、俺を利用する気だ)
ミレイユは続けた。
「あなたには“戦闘力”がない。
だからこそ、誰もあなたを脅威とは思わない。
その目で……
王城の闇を暴いてほしい」
ユウマは黙った。
(……これは危険だ。
でも、断れば“消される”可能性もある)
ガルドが口を開いた。
「ミレイユ、ユウマはまだ子どもだ。
危険な任務を押しつけるな」
ミレイユは首を振った。
「危険なのは、彼が“真実に近づきすぎている”ことです」
ユウマは息を呑んだ。
(……つまり、俺はもう“狙われている”)
ミレイユはユウマに近づき、
小さな紙片を渡した。
「これは……?」
「王城内で最近起きた“不可解な事件”の一覧です。
あなたなら、何か気づくはず」
ユウマは紙を開いた。
そこには――
・魔道具の暴走
・魔力の異常消費
・騎士の失踪
・魔物の異常行動
・宝物庫の鍵の不具合
・召喚陣の魔力乱れ
・王女の護衛の交代
・宰相の執務室の魔力反応
(……全部、繋がってる)
ユウマは紙を握りしめた。
「……分かりました。
調べます」
ミレイユは満足そうに頷いた。
「期待していますよ、“探偵殿”」
そう言って去っていった。
ミレイユが去った後、
ガルドが深いため息をついた。
「ユウマ……
本当に引き受けてよかったのか?」
ユウマは頷いた。
「どうせ……
俺はもう“巻き込まれてる”んですよ」
ガルドは苦笑した。
「お前は強いな」
「強くないですよ。
ただ……
見たものを無視できないだけです」
ガルドはユウマの肩を叩いた。
「困ったら、俺かエレナを頼れ。
お前は一人じゃない」
ユウマは微笑んだ。
「ありがとうございます」
その日の午後。
ユウマは王城の廊下を歩いていた。
(まずは……
この“事件一覧”を整理しよう)
紙を見ながら歩いていると――
「ユウマくん!」
アリサが駆け寄ってきた。
「探したよ……!
大丈夫? 何かあったの?」
ユウマは苦笑した。
「ちょっとね。
王国から“仕事”を頼まれた」
アリサは不安そうに眉を寄せた。
「仕事……?」
「王城内の事件を調べるんだって」
アリサは青ざめた。
「そんなの……危険だよ!」
「分かってる。
でも……
俺がやらなきゃいけない気がするんだ」
アリサはユウマの手を握った。
「……お願い。
無茶だけはしないで」
ユウマは頷いた。
「約束するよ」
アリサは少し安心したように微笑んだ。
「よかった……」
だが――
その瞬間。
廊下の奥で、
誰かがこちらを見ていた。
黒いローブ。
顔を隠すフード。
そして――
赤く光る瞳。
ユウマは息を呑んだ。
(……誰だ?
魔物じゃない……
でも、人間でもない……)
その影は、
ユウマとアリサを見つめたまま、
静かに消えた。
アリサが震える声で言う。
「ユウマくん……今の……」
「分からない。
でも……
“事件”が動き始めた」
ユウマは紙を握りしめた。
(王城の闇……
俺を見ている)
こうして――
ユウマは王国の“密命”を背負い、
新たな事件へと踏み込んでいく。




