『覚悟』& その後、溺死
「纓君、君は中級一級を一年後の試験で受けてもらう。それまでは、ひたすら鍛錬だ。
クラッシャーズの一員として過ごしていくのならばこれは必修科目。
君にその木があるのならば、逃げても連れ戻す気で私は君を鍛錬しよう。」
どのみちここで引いたら孤児院送りだ。
それだけは絶対に嫌だ。
「よろしくお願いします!」
纓は深くお辞儀をした。
クラッシャーズの階級は基本的に最初は初級特級、高くても初中級からだ。
なのに目指すのは中級一級。
早くて3年、遅くても5年後に受けるのが一般的だ。
俺に宿っているのは黒を冠する者だから力が強く、普通より高階級を目指しやすいのかもしれない。
それでも初中級特級当たりなのではないだろうか?
「考えている事は何となく予想はつく。
中級一級はまだ早い、と思っているのだろう。
でもこのくらいの速度で上がらなければ死ぬまでに超特級零特級には到達出来ないだろう。
まぁ、そちらの問題はどうでも良いのだが。」
恐らく今の俺では力不足、1年で制御できるような問題じゃない。
なんせ、抑えるのに長い時間かかったし。
さっきだって威圧簡単に斬られたし。
「力をある程度抑えられているだけで上出来、それで初級は合格に等しい。先程威圧を刃のように飛ばせていたので初中級もほぼ合格。
黒を冠する力を自力で少しでも扱えているのは、纓君が思っている以上に素晴らしいものだ。
そして中級に必要なのは、宿る力以外の己の武器を使いこなす事。
そして、戦う…人を殺傷する決意だ。」
人を殺す、それを担うクラッシャーズにとって躊躇を超える決意が必要なる。
クラッシャーズの任務のほとんどは、躊躇の一つや二つで直ぐに命が狩られるようなものばかりだ。
死なないため、任務を“確実に完了させる”ために必要なのだ。
「纓君、君は人を殺せるか?」
1番、投げられたくない質問が来た。
正直、答えたくない。
「わか、らない……。」
「そう考えている間に、そう躊躇している間に無関係な人々が命を落とす。
軽く金稼ぎをするような甘い気持ちでは、クラッシャーズとしてはやって行けないのだ。
それでもクラッシャーズになりたいのであれば、覚悟を固めろ。
期限は、一年後の中級一級試験までだ。」
一年後の試験まで…後一年、いや。
「“まだ一年あるじゃねぇか。”」
黒威と声が重なった。
顔にこそ出しはしなかったが、廉栄が心の中で微笑んだ気がした。
「では、鍛錬を始めよう。ついて来い。」
案内されるがままにやってきたのは、ハスの花が咲く透き通った水が溜まる小さな池。
「ではまず、纓君には2分耐えてもらうとしよう。」
「はい?」
頭を掴まれた、と思ったら池に勢いよく突っ込まれた。
「っごぶぅ!?」
息を吸う間もなく一瞬の出来事だった。
咄嗟に足掻いて顔を上げようとしたが、廉栄がそれを許さず手の力を緩めない。
「ぅぅううう!」
「まだ10秒しか経っていないよ。」
全く聞く耳を持たない。
このままでは1分も持たない。
まさか…ここで俺は溺死するのか…!?
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!絶対に嫌だ!
“ 阿呆、ちっとは考えろ。クラッシャーなら一日水の中にいる事だって可能だぞ! ”
焦っている纓を他所に黒威は呆れたように声を上げる。
一日いるなんて、酸素ボンベでもつけてんじゃねぇのか!というか酸素ボンベでも一日は厳しいし、体がふやける!
それにそろそろやべぇ…もう限界が近い…近すぎる…。
“ 言ったはずだ、“クラッシャー”ならと。 ”
限界が来て思わず口を開けてしまう。
意識が途切れるまで、黒威の言った意味をただひたすらに考え続けた。
“ 馬鹿め、これは基本の訓練だ。ここでくたばっちまうのは駄目だな、それも2分も経たずに。 ”




