習ったことが全てじゃない
昨日、黒炎火に言われた通りに荷物を急いでまとめて迎えが来るのを待っていた。
待っている最中、何故か先生は嬉しいのか悲しいのかどっちか分からないような涙を流して励ましてくる。
そして軽い話し相手の友達もなんやかんやうるさく「頑張れよ」などと喚いている。
そんな一同に苦笑いしながらも、その時がやってきた。
ピンポーン!
不意に施設のインターフォンが鳴り、纓は立ち上がる。
「…行くか。」
「纓〜!元気でな〜!たまには連絡よこせよ〜!」
「纓くん、これから大変だと思うけど頑張って〜!(泣)」
「あぁあぁ、分かったから、行ってくる。」
施設の玄関から外に出ると、黒炎火がいた。
「おはよう、纓君。気分はどうだい?」
「いつも通りだな。特に何も思わない。」
「そうか。挨拶は済ませたか?」
「まぁいいだろうさ。」
もう会えないわけでもないし、特別仲良かったわけでもない。
それに、連絡を取ろうと思えばいつでも取れる。
「そうかそうか。では先生、纓君を貰っていくよ。」
「はい。纓君元気でね?」
「はい、先生。」
もうここには戻ってこないだろう。
学校感覚でいたこの5年間、まぁ悪くは無かったのかもしれない。
でも、もう戻る気はない。
「さようなら、俺の5年間。」
荷物を後部座席に乗せる。
黒炎火が運転する車の助手席に乗せてもらい、施設から発進する。
久々の車の揺れはなんとなく心地良かった。
「寂しいと思うか?」
「いいや?特に思い出深いところでもねぇし。」
「君は何かの感情が抜けているように見受けられる。」
「んなもん知るか。」
嬉しいとか悲しいとか、施設では全くなかったため、そういうところは忘れかけてる気もするが。
「……。
ところで、君の過去を調べさせてもらったが、君の実の親はどちらとも一般人のようだけれど、母方の遠い先祖に黒星花がいることに驚いたよ。」
「……確か隕石を押し返したやつ、だったか…?」
「そうだね。」
黒星花とは、今から約5000年前に地球に堕ちてきそうになった巨大な隕石を押し返したとされる1人のクラッシャー。
どういう原理かは分からないが、星を操って花火を上げるのが好きだったとかでその名になったらしい。
「そして遠い血縁者がクラッシャーズにいることも分かった。その一族に訓練を任せようと話はまとまっているんだが、いいか?」
「俺にはよく分からないから任せる。」
「ではそうしよう。そして君の能力がよく分かっていないんだが…。」
俺の特殊能力。
親に見捨てられた元凶でもあるそれ。
9歳の頃、突然に溢れ出る力をうまく抑えられず、親に気味悪がられて、それで……。
思い出したくもない。
そして、その力を言葉に例えるなら…。
「威圧、か…?」
「威圧…それは操れるか?」
「解放と抑えることはできるが、調整は全く。」
あれから1人隠れて練習してきたものの、制御出来たことは一度もなかった。
強力かつ、制御のできない、威圧を発するだけの役のたたないもの。
「大体分かった。目的地に着いたら訓練場で一度使ってみてくれないか?」
「威圧を?」
「そうだ。それに、その力は初めてのものだからな。」
「初めて?」
「動物に意思がある、と昨日言ったのは覚えているかな?」
「あぁ。」
「その動物の意思はどうやって創り出されたと思う?」
「どう、やって…?」
意思は、創り出せるものなのか…?
もし誰かが創り出しているとするのなら、神とやらしか思い浮かばない。
「俺は存在をあまり信じないが…神のようなものか…?」
「半分正解としておこう。
クラッシャーの中にいる動物とは、世界の守護者である。
それと世界の守護者は人間が言う神でもある。
だが本当の神とは世界なのだ。
そして、世界が生命を創った時…人間が生まれてくる前に動物が入る者を選定し、宿る。
それがクラッシャーという存在だ。」
つまり、『人が神と呼ぶのは世界の守護者』であり、『本当の神は世界』。
そして『守護者』は人間に宿ることで実体を持てる。クラッシャーとは『守護者』の化身のようなものなのか…。
” まぁおおむねそういうことだ。 “
心を読んだ黒威が当たり前のように自分の中で喋るようになった。
昨夜も寝るまで黒威がずっと絡んできて、殴りたいとも思ったほどに。
「習った内容がもうどういうことか分からなくなってきた。」
「習った内容は頭の隅に置いておくだけでいい。
あれは基礎のようなもので矛盾していることが多い。クラッシャーは実践などで分かってくるからそこで学ぶんだ。」
「…成程な。」
つまり一般的な学校と同じだろう。
普段使わないような知識を無駄に教えてくるような感じで。
思えば施設も学校だったな、と今更ながら思った。
唯一、入学から卒業までいた小学校の知識は一部ほどしか役に立ってない。
「そういえば、遠い血縁者?親戚はどんな人達なんだ?」
「クラッシャーズ一と言っても良い程、刀の扱いなどが上手い一族だ。」
「刀…?ってあの刀?時代遅れじゃね?」
どれだけ刀の扱いが上手くとも、銃を連発されれば全て薙ぐことや避けることは難しく、一方的にやられるだろう。
普通に考えればそうなる。
「クラッシャーはそういう弱点を補う為に動物の力を借りるのだ。そして刀などは近代化が進んでいる。
例えば能力供給式のブースターが付いたものとか、銃と一体化した銃刀というものなどがある。
力と併用を好むものはシンプルな刀を使うがね。」
「ほーん、成程ね。銃刀ってやつ、面白そうだな。」
「銃剣も一応あるのだが、使ってみて使いやすい武器を選べばいい。
その前に、纓君は使い方を学ばなければね。」
クラッシャーズとは、意外と古風なのかもしれないと纓は思う。
銃とかは使ってみたいと思う。銃剣とか銃刀とかも楽しいんだろうな。
纓はまだ、戦うという恐怖と残酷さ、悲惨な現実を知る由もなかった。




