7話 夜明けと覚悟
朝が来るなんて、あんなに遠いと思ってたのに――
気づけば空が薄く染まり始めていた。
夜の静寂は、朝の気配に押されて少しずつほどけていく。
瑞希はカーテンを少しだけ開け、淡い光を見つめた。
「……来ちゃった、朝」
胸の奥で、小さな鐘が鳴る。
眠れたような、眠れなかったような――でも、不思議と目は冴えていた。
顔を洗い、鏡の前に立つ。
くしゃっと笑ってみせた。
震える心を、笑顔で上書きする。
「大丈夫、あたしは負けない」
声に出したその言葉は、昨夜の迷いを一つずつ断ち切るようだった。
◆
律は朝焼けの中を一人、会場へと向かっていた。
まだ人影もまばらな道。
耳に届くのは、自分の足音と心臓の音だけ。
ポケットの中のイヤホンを取り出し、あの日一緒に練習した曲を流す。
そのメロディーは、懐かしくて、胸の奥をぎゅっと締めつける。
「……勝つ。ちゃんと、ぶつかる」
今度こそ、言い訳はしない。
ふとスマホを見た。
昨日送れなかったメッセージが、まだそこに残っている。
『明日、絶対後悔させない。お前に勝つから』
ためらいながらも、今度は――送信ボタンを押した。
◆
控室には、それぞれの時間が流れていた。
瑞希はストレッチをしながら、緊張を紛らわせるように大きく息を吐く。
律は黙ったまま、ステージの音を耳に焼きつける。
お互い言葉は交わさない。
でも――感じていた。
同じ空気を吸い、同じ高鳴りを抱いていることを。
――ライバルとして。
――でも、それ以上の何かとして。
舞台の幕が開くまで、あとわずか。




