6話 本番前夜
夜空は澄みきって、まるで冷たいガラスのようだった。
街の灯りが滲むように揺れて、明日の幕開けを予感させる。
明日は、彼らにとって運命の一日。
ただのステージではない。
“推し”と“ライバル”が同じ舞台に立ち、火花を散らす――そんな特別な夜の前夜だった。
◆
瑞希はベッドの上で、スマホの画面を見つめていた。
通知もない画面を、何度もスワイプする。
「……何やってんだろ、あたし」
笑ってみせた声は少し震えていた。
明日、負けるわけにはいかない。
でも――勝ちたい相手は、大好きな“彼”でもある。
その矛盾が胸をしめつけるようだった。
机の引き出しを開けると、小さなメモ帳がある。
そこには彼と初めて出会った日のこと、くだらない冗談、練習で笑い合ったことがびっしりと書かれていた。
「……勝って、ちゃんとぶつかるんだ」
瑞希は深呼吸して、目を閉じた。
◆
一方、律は街外れの公園に立っていた。
ステージ照明の代わりに、淡い月明かりが降り注ぐ。
風が髪を揺らし、耳元で「逃げるな」と囁いてくるようだった。
スマホには未送信のメッセージ。
『明日、絶対後悔させない。お前に勝つから』
送信ボタンを押そうとして、指が止まる。
「勝つ……なんて、言える立場かよ」
笑いながらも、心臓が痛いほど鳴っていた。
それでも律は、夜空を見上げる。
明日はきっと、今までで一番“本気”の自分になる。
誰のためでもなく――自分のために。
◆
そして、それぞれの夜が、静かに進んでいく。
誰も知らない場所で、誰も知らない涙と決意が生まれていた。
夜明けがくるまでの、ほんの短い時間。
それはまるで、嵐の前の静けさのようだった。
――運命のステージまで、あと数時間。




