第5話 3人の視線
翌日。
稽古場に入ると、空気がどこか張り詰めていた。
昨日の美奈とのやり取りが、まだ胸に残っている。
(……今日こそは、負けない)
気合を入れて準備していると、ディレクターの神谷が声を張った。
「今日はペア演技だ。感情をぶつけ合え!」
ざわめく稽古場。
ペアをどう組むかと視線が飛び交う。
そのとき──
「俺は、桜庭さんとやりたいです」
蓮がはっきりと口にした。
一瞬、空気が凍りついた。
周囲の視線が一斉に私に集まる。
「えっ……」
頭が真っ白になる。
「理由は?」
神谷が問う。
「昨日の稽古で感じました。彼女は、僕を本気にさせる」
(な……なんてこと言うの、この人っ!?!?)
胸が熱くなる。嬉しい。誇らしい。
でも、同時に背筋が震える。
だってそれは──美奈の目の前で。
「……へぇ」
美奈が笑った。
その笑みは氷みたいに冷たい。
「じゃあ、私が天城くんと組むのは“本番”ってことね。面白いじゃない」
挑発的な視線が、私を射抜く。
あの日の宣言──“天城くんの横に立つのは私”。
その言葉が頭をよぎり、心臓が跳ねる。
結局その日、私は蓮とペアになった。
セリフを交わすたびに、距離が縮まる。
視線を絡ませるたびに、舞台の上に二人しかいないような錯覚に陥る。
「……お前がいるから、俺は壊される」
蓮の声が低く震え、私の心臓に突き刺さった。
思わず返した。
「壊すんじゃない……救いたいの!」
稽古場が静まり返る。
誰も息をしていないようだった。
その沈黙を破ったのは、美奈の鋭い声。
「……ねぇ。観客は、ただ熱いだけじゃ満足しないよ」
立ち上がった美奈が、真っ直ぐこちらを見据える。
その瞳は燃えていた。
「本当の舞台は、観客を支配するもの。二人で熱くなるだけじゃ、足りないの」
挑発とも、忠告とも取れるその言葉に、胸がざわめいた。
──推しと一緒にいると舞台が楽しい。
でも、それだけじゃ勝てない。
「……どうする、桜庭?」
蓮が小声で問いかけてくる。
その声は優しくて、でも挑むようでもあって。
私は唇を噛んだ。
(認められたい。負けたくない。
……どっちも捨てられない!)
舞台の上で、三人の視線が交錯した。




