第4話 映り込む影
稽古場の休憩時間。
私は壁にもたれて水を飲んでいた。
汗が乾かないのに、胸の奥だけはまだ熱いまま。
──推しに褒められた。
あの言葉が頭から離れない。
嬉しい。けど、負けたくない。
心臓が忙しなく跳ねて、落ち着かない。
「……調子よさそうじゃん」
不意に声をかけられた。
見れば、美奈が腕を組んで立っている。
長い髪を後ろで束ね、目元は挑発的に光っていた。
「……別に」
私は視線をそらす。
「ふーん? でも、天城くんとやる時だけ、やけに気合入ってたよね」
「っ……!」
図星を突かれて、思わず息を呑む。
美奈は唇の端を上げた。
「ま、わかるけど。推しと同じ舞台に立てるなんて、普通なら夢だもんねぇ」
(……この人、気づいてる……!?)
胸の奥を覗かれるような感覚に、背筋が冷える。
「でも勘違いしないで。舞台に立てるのは、私よ」
美奈の声は低く、鋭かった。
「天城くんの横に立つのは、あんたじゃない。私」
その瞳には、揺るぎない自信があった。
彼女はただのライバルじゃない。
実力も、執念も、本物だ。
「……言っておくけど」
私も負けじと声を絞り出す。
「私だって、簡単に譲るつもりはないから」
一瞬、沈黙。
そして美奈は、挑発的に笑った。
「いいじゃん。その方が燃えるし」
去っていく背中を見送りながら、私は強く握ったペットボトルを震える手で握り直した。
(……怖い。けど、負けられない)
それでも心の奥で、さっきの美奈の言葉が妙に引っかかっていた。
──“天城くんの横に立つのは、私”。
その瞬間、稽古場のドアが開いた。
現れたのは、汗を拭きながら歩いてくる蓮。
視線が合った。
一瞬、微笑まれた気がして。
ドクン。
胸の奥で、また心臓が暴れ出した。
(……違う。ライバルなのに。敵なのに……)
でも、どうしても目を逸らせなかった。




