23話 光の先へ
春の風が、街のビルの谷間を通り抜けていく。
まだ少し冷たいけど、どこか柔らかくて、心を撫でてくれる風。
ライブが終わってから、もう三週間。
あの夜の光と歓声が、今も里奈の心の奥で響いている。
何度思い出しても、胸の奥が温かくなる。
あの瞬間、自分が生きている意味を確かに掴めた気がした。
スタジオの扉を開けると、懐かしい音が聞こえた。
「ワン、ツー、スリー……」
舞がマイクを握り、真剣な眼差しで音を確かめていた。
光に照らされた横顔が、かつてよりもずっと穏やかで、強くて。
その姿を見ただけで、里奈の胸がじんと熱くなった。
「相変わらず早いね、舞」
「ふふ。今でも負けたくないの」
「そういうとこ、変わんないな」
笑い合う声が、スタジオに響く。
だけどその笑顔には、もう昔のような張りつめた競争心はない。
そこにあるのは、互いを支え合い、高め合う信頼だけ。
壁に貼られた新しいポスターが、風に揺れた。
そこには大きく書かれた文字——
「Re:Light —ふたりの始まり—」
見た瞬間、胸の奥がくすぐったくなる。
あの日のスポットライト。
観客の笑顔。
交わした約束。
全部が、この一枚のポスターに繋がっていた。
「ねえ、舞」
「うん?」
「また一緒に夢、追いかけよう」
「……もちろん」
その返事は、あの日よりもずっと力強く響いた。
窓の外では、桜がゆっくりと散っていた。
舞い落ちる花びらが光を受けて、まるでステージのスポットライトのよう。
春の陽射しがふたりの肩を包み、未来へ続く道を優しく照らす。
ふと、舞がつぶやいた。
「ねぇ、あの夜さ……私、ほんとは怖かったんだ」
「え?」
「ライバルとしても、仲間としても、
もう一度ちゃんとあなたと向き合えるか、不安でたまらなかった」
その言葉に、里奈は静かに微笑んだ。
「……私もだよ。でもね、怖いって気持ちがあるから、
“本気”って言えるんだと思う」
二人は目を合わせ、ゆっくりと頷き合った。
その瞬間、時間が止まったように感じた。
かつて“ライバル”と呼んだ相手が、
今は“相棒”と呼べることの奇跡を、心から噛みしめながら。
「ねぇ、舞。次の曲、どんなタイトルにしようか」
「決まってるよ」
「え?」
「“光の先で”」
少し照れながら笑う舞の顔が、朝の光に滲んだ。
その笑顔を見て、里奈の目頭がじんわりと熱くなる。
夢はまだ終わらない。
新しいページが、いま静かに開こうとしている。
――ライバルから始まった二人の物語は、
友情を越えて、絆という名の光へと変わっていった。
その光はきっと、
これからも、どんな夜の中でも消えない。
ふたりのステージは、今、再び幕を開ける。




