21話 それぞれの朝
夜が明けた。
カーテンの隙間から差し込む光が、まだ眠たい瞼をやさしく照らす。
昨日のステージの熱が、まだ体の奥に残っていた。
夢のような一夜——だけど、あれは確かに現実だった。
スマホの通知が鳴りやまない。
SNSにはファンの歓声と、ライブの写真、動画の数々。
「最高だった!」「二人の絆が眩しすぎる!」
そんなコメントが並んでいて、胸の奥がじんわり熱くなった。
(……本当に、終わっちゃったんだ)
そう思った瞬間、少しだけ寂しさが込み上げる。
あの光の中で、湊と並んでいた時間が、永遠のように感じた。
でも、現実はいつだって前に進む。
次のステージ、次の挑戦、次の夢——それぞれがまた動き出す。
コンコン、とドアを叩く音。
扉を開けると、そこにいたのは湊だった。
昨日と同じ笑顔、でもどこか柔らかい雰囲気が漂っている。
「おはよ。寝れた?」
「……全然。興奮して眠れなかった」
「だよな。オレも」
ふたりで笑う。
その笑顔には、これまでみたいな張り合いや意地はなかった。
ただ、同じ時間を越えてきた人だけが見せる、静かな安堵があった。
「なぁ、葵」
「ん?」
「次も……一緒に、出ようぜ」
湊の言葉に、胸がまた高鳴った。
その一言で、昨日の光景が蘇る。
スポットライトの下、交わした視線、重なった声。
あの瞬間に生まれた“絆”が、まだちゃんとここにある。
「もちろん。まだ終わってないもん」
「だよな」
窓の外では、朝の光が少しずつ強くなっていく。
昨日の夜とは違う色。
けれど、その光も確かに“希望”の色をしていた。
ふたりはしばらく無言で並んで立っていた。
静かな空気の中で、葵はそっと思う。
――この道を選んでよかった。
ライバルでも、推しでも、きっとどんな形でも。
“彼と出会えたこと”が、すべての始まりだったのだと。
「行こうか。次のリハ、遅れるよ」
「おう。今日も全力でいくぞ」
ドアを開けて外に出た瞬間、朝の風が頬を撫でた。
少し冷たいその風が、これからの未来をやさしく押してくれる気がした。
――物語は、まだ終わらない。
ふたりの夢は、これから何度でも形を変えながら、続いていく。




