20話 約束のステージ
夜の空は、まるでステージの幕が上がる瞬間を祝福するように、澄み渡っていた。
風は静かで、会場の外にはもう、観客の歓声が響いている。
その音が、鼓動と同じリズムで胸の奥を叩いていた。
――ここまで、長かった。
練習のたびにぶつかって、張り合って、競い合ってきた。
推しであり、同時にライバルだったその人と歩んだ道は、まっすぐなんかじゃない。
たくさんのすれ違いと、言えなかった言葉と、譲れない夢があった。
「……緊張してる?」
袖口からふと聞こえた声に、顔を上げる。
ステージ袖で、同じ衣装に身を包んだ**湊**が、少しだけ笑っていた。
あの挑むような目つきはもうない。かわりに、同じ夢を見る者の目だ。
「当たり前でしょ。ずっとこの日のために、全部賭けてきたんだから」
「ふふっ……だよな。オレも」
彼の手が、そっと差し出された。
その一瞬、過去の記憶がフラッシュバックする。
最初のオーディションの日。
舞台裏で見た彼の背中に「絶対、追いついてやる」って決意したあの日。
勝ちたい。認められたい。ただの“推し”で終わりたくなかった。
震える手で、その手を握り返す。
握った手の中に、すべての時間と想いが詰まっていた。
「負けないからね」
「いいじゃん。いつもみたいにさ、全力でぶつかろうぜ」
ドラムのリズムが、遠くから鳴り始めた。
ステージに呼び込まれる時間は、あとわずか。
照明スタッフの合図で、まばゆい光がステージ上を染めていく。
――いよいよだ。
スポットライトの向こうに広がる客席。
見慣れた光景のはずなのに、今夜はまるで違って見えた。
歓声が波のように押し寄せて、空気を震わせる。
胸の奥にたまっていた不安が、すべて音に溶けて消えていく。
「……行こう、湊」
「おう。最後まで、走りきろう」
二人並んで一歩踏み出す。
ステージに足を踏み入れた瞬間、まぶしい光に包まれた。
心臓の鼓動が、観客の歓声と溶け合う。
あの日、交わした約束。
――いつか同じステージに立とう。
その夢が、今、現実になった。
湊の横顔が、スポットライトに照らされる。
負けたくない。でも、隣に並べたことが何よりも嬉しかった。
ライバルで、憧れで、今は——
かけがえのない仲間だ。
マイクを握る手に、力を込めた。
声を出す瞬間、すべての過去と未来が交差する。
この夜が、終わりじゃない。ここが、ふたりの物語の“はじまり”だと分かっていた。
「——行こう、約束のステージへ!」
歓声が爆発した。
まばゆい光と、心を貫く音と、止まらない高鳴り。
ふたりの視線が交わった瞬間、世界はステージの上に凝縮された。
これまでの涙も笑顔も、全部、この瞬間のためにあった。
そして、まだ見ぬ未来へと続いていく。
ライバルだったふたりが、今、同じ夢を歌う。




