18話 はじまりの夜
夜の校舎は昼間とはまるで別の顔をしていた。
ざわめきの消えたグラウンド、風に揺れる木々の音。
その静けさの中に、ふたりの足音だけが響いていた。
「なぁ……ちょっと寄り道しない?」
蓮の提案に、葵は首をかしげた。
「寄り道って……どこに?」
「ステージ。さっきの場所」
イベントが終わった今、ステージには誰もいない。
照明も落とされ、スポットライトの余韻だけがぼんやりと残っていた。
蓮はステージの真ん中に立ち、空を見上げた。
「なあ、ここ……すごいよな」
葵も隣に並んで見上げると、夜空の星がまるで天井みたいに広がっていた。
「ライブのときは、正直、全然見えてなかった」
「そりゃそうでしょ。必死だったもん」
ふたりの笑い声が夜空に溶けていく。
さっきまで“ライバル”だった空気が、嘘みたいに柔らかい。
蓮が静かに息を吐く。
「俺、今日でちょっと変わったんだ」
「変わった?」
「葵をライバルだって思う気持ちは、ずっと本物だった。
でも今日、同じステージに立って……やっと“並んでる”って感じたんだ」
蓮の横顔は、ライトがなくても不思議とよく見えた。
その瞳には、まっすぐな光が宿っている。
「だから――これからは、ライバルとしてだけじゃなくて……
一緒に前に進みたい。相棒として」
その言葉が、夜空に吸い込まれるように響いた。
葵は胸の奥が熱くなるのを感じた。
ここまでずっと、追いかけてきた。
勝ちたいと思ってた。
でも本当は――その隣に立ちたかった。
「……うん。私も、そのつもりだった」
葵が言葉を返すと、蓮の表情がぱっと明るくなった。
どこか少年みたいな笑顔に、心臓が少し跳ねる。
「じゃあ……約束な」
蓮が右手を差し出す。
葵は少し照れながらも、その手をぎゅっと握った。
温かさが伝わってくる。
この手を、これから何度も――一緒に。
夜空の星が、ふたりを包むようにきらめいていた。




