第2話 稽古場に火花散る
稽古初日。
広いスタジオに響くのは、床を踏み鳴らすリズムと、息の音。
「桜庭、もっと感情を前に出せ!」
神谷ディレクターの声が飛んだ。
「は、はいっ!」
私は必死に台本を握りしめ、セリフを叫ぶ。
でも頭のどこかで、視線が気になって仕方ない。
──天城蓮。
彼は少し離れた位置で、台本を片手に淡々と稽古をこなしている。
その姿は舞台そのもの。存在するだけで空気が変わる。
誰もが彼を見てしまう。
私も、もちろん。
(ダメだ、集中しなきゃ……!)
必死に前を向こうとするのに、耳は彼の声を拾ってしまう。
「……裏切ったのはお前の方だろう」
低く響くそのセリフ。たった一言で、空気が震えた。
稽古場の全員が、彼に引き込まれる。
「さすが……」
誰かが小声でつぶやいた。
胸が痛い。
憧れの推しが、目の前で圧倒的な才能を見せつけている。
それは誇らしいはずなのに、同時に残酷だ。
だって私は、この人と戦わなくちゃいけないのだから。
「……桜庭。お前のセリフは嘘臭い」
突然、神谷が冷たく言い放った。
「っ……」
頭が真っ白になる。
「もっと相手にぶつけろ!言葉じゃなく、魂を投げろ!」
わかってる。わかってるけど……。
どうしても、推しの前だと自分が小さく感じてしまう。
そのとき。
「……ディレクター、少し僕とやらせてもいいですか」
蓮が声を上げた。
「天城?」
「桜庭さん、相手が必要でしょう。僕が受けます」
その目はまっすぐに私を射抜いていた。
(え、えええ!?!?推しと、直接!?!?)
頭の中で悲鳴がこだまする。
夢にまで見た推しとの共演。
だけどこれは夢じゃない。試練だ。
蓮が一歩、私の方へ歩み寄る。
距離が近づくたびに、鼓動がうるさくなった。
「……来いよ。手加減はしないから」
その挑むような笑みに、胸が震えた。
私は台本を握り直し、声を振り絞る。
「……裏切ったのは、お前の方だろう!」
次の瞬間、二人の声が稽古場にぶつかり合った。
稽古場の空気が一変する。
誰も息を呑んで、私と推しの一騎打ちを見つめていた。




