17話ライバルのその先へ
アンコールを終え、すっかり夜の帳が降りた校舎の裏。
イベント会場の喧騒も少しずつ遠のいて、風と虫の声だけが耳に残る。
葵は屋上への階段をゆっくりと登っていた。
胸の奥は、まだステージの余韻で熱い。
でもその熱の中に、今までにないざわめきが混ざっていた。
「……おつかれ」
階段を登りきった先――屋上に立っていたのは、蓮だった。
制服の上着を肩にかけ、風に髪を揺らしながら、まるで夜空と溶け込むように立っている。
「……先、来てたんだ」
「お前ならここ来ると思って」
少しだけ、蓮の声が照れているように聞こえた。
屋上のフェンス越しに夜空を見上げる。
満天の星。
ライブのライトとは違う、静かな輝き。
「今日のステージ……本気でぶつかれた。
正直、怖かったんだ。お前が相手だから」
蓮のその言葉に、葵の胸がどくんと鳴った。
「怖かったのは、私もだよ」
「え?」
「蓮はずっと“推し”だったから。
ライバルになった今でも、どこかで……追いつけないって思ってた」
蓮が目を見開く。
葵は笑いながら、少しだけ視線を落とした。
「でもね、今日、わかったの。
一緒に立って、戦って、初めて……ちゃんと“並べた”気がした」
蓮の口元に、ゆるい笑みが浮かぶ。
「……やっと俺の隣、来たな」
その言葉に、胸がきゅっと熱くなった。
「ねぇ、葵」
蓮がふいに真剣な顔をする。
風がふたりの髪を揺らす。
「俺、ライバルって言葉、嫌いじゃない。でも……それだけじゃ、嫌だって思ってる」
「……え?」
蓮の視線が、まっすぐに葵を射抜いた。
夜空の下で、その瞳だけがはっきりと光っている。
「お前ともっと……一緒にいたい。
ライバルじゃなくて――相棒として」
胸の奥がドクンと跳ねた。
風の音が遠のいて、自分の心臓の音だけが響いているようだった。
葵は小さく笑って、蓮の方を見た。
「……勝手に抜け駆けしないでよ。私も、そのつもりだった」
蓮の目が驚いて、次の瞬間、やわらかく細められる。
「やっぱ、そう来ると思った」
二人の間に流れる空気は、以前の“バチバチ”じゃなかった。
少し温かくて、心地いい。
夜空の星が、まるでふたりを祝福するように瞬いていた。




