16話涙と笑顔のSTAGE裏
ステージの幕がゆっくりと降りていく。
その瞬間、張りつめていた空気が一気にほどけた。
拍手と歓声がまだ続いている。
でも、葵の心の中は静かだった。
――やりきった。
それだけが、胸の奥で確かに響いていた。
蓮も、ステージの反対側で大きく息を吐いている。
額の汗がライトにきらめいて、まるで星の光みたいだった。
スタッフが駆け寄ってくる。
「ふたりとも最高だったよ! SNSもうバズってる!!」
「“奇跡のデュオ”って言われてるよ!」
歓声の余韻の中、葵は笑った。
「……奇跡、か。うちら、ほんとにやっちゃったね」
「だな」
蓮も少し照れくさそうに笑う。
◆
控室に戻ると、緊張の糸がぷつんと切れた。
椅子に座り込んだ葵の目に、ふいに涙がにじむ。
「……あれ?なんで……」
止めようとしても、頬をつたってしまう。
蓮が、静かにタオルを差し出した。
「ほら、泣くなよ。泣いたらメイクぐちゃぐちゃになるぞ」
「わかってる……でも……」
葵は涙をぬぐいながら笑う。
「なんか……悔しいのか、嬉しいのか、もうわかんない」
「それでいいんじゃね?」
蓮の声は優しくて、でも芯があった。
「本気でぶつかった証拠だよ。俺も……正直、今までで一番楽しかった」
その言葉に、葵ははっとして顔を上げる。
蓮の瞳の奥が、まっすぐに自分を見ていた。
◆
外から、歓声がまた聞こえる。
アンコールの声だ。
スタッフが慌てて走ってくる。
「二人とも!呼ばれてるよ!」
葵と蓮は視線を交わした。
「……行く?」
「もちろん」
ふたりは同時に立ち上がる。
涙はもう乾いていた。
今度は、笑顔で。
ステージに戻ると、客席がまるで海みたいに揺れていた。
光の波の中へ――再び、ふたりは飛び込んでいった。
笑顔と涙が混ざった夜。
それが、二人の新しい始まりだった。




