14話本番前夜
夕焼けに染まる校舎の影が、グラウンドの端まで長く伸びていた。
ステージ設営の音と、スタッフの声が交錯する中、空気には独特の緊張感が漂っている。明日は――ついに、本番。
「ねぇ、葵……ちょっと、顔、こわばってるよ?」
笑顔で話しかけてきたのは、幼なじみであり、そして今ではライバルにもなってしまった蓮。
その何気ない一言に、葵の胸の奥がきゅっと締めつけられた。
「べ、別に……緊張なんかしてないし!」
強がって笑ってみせるが、手のひらの汗はごまかせない。
ステージの本番は何度も経験してきたのに、今回は――違う。
相手は、自分の“推し”だった人。
同じ夢を追う、もう一人の主役。
「ふふ、葵がそんな顔するの、珍しいね」
蓮の優しい声が、夜の冷えた風と混じって心にしみる。
その声が好きだった。ずっと、応援していた。
でも今は――ライバルとして、越えなきゃいけない相手。
「……あんたにだけは、負けないから」
葵の視線が蓮の瞳と交わる。
夜空に浮かぶ星たちが、まるで二人の行方を見守っているようだった。
蓮もまた、静かに頷く。
「わかってる。でも、俺だって、絶対に勝つ」
ふたりの距離は近い。
でもその間にあるのは、甘い空気じゃなく――確かな“火花”。
そのとき、グラウンドの反対側から仲間たちの声が響いた。
「おーい、リハ始めるぞー!!」
一瞬だけ、蓮が笑う。
「行こっか、本番前の、最後の夜に」
葵も、息を整えて頷いた。
ここから先は、もう迷わない。
負けたくない――彼に。
そして、自分自身にも。
夜風が二人の背中を押すように吹き抜けていった。




