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推しがライバルなんだが!!?  作者: 櫻木サヱ


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12/26

10話 幕が降りても

ステージから降りると、空気がまるで別世界みたいに静かだった。

熱狂の余韻だけが、身体の奥にじんじんと残っている。


瑞希は控室のソファに腰を下ろした瞬間、ふーっと長い息を吐いた。

「……終わった……」

張り詰めていた緊張が、一気にほどける。

心臓の高鳴りもまだ止まらない。

あんなに本気で、全力で歌って踊ったのは久しぶりだった。


そのとき、ドアが「コン」と軽くノックされた。

入ってきたのは――律だった。


「……よぉ」

少し髪が乱れていて、汗が額に残っている。

勝敗が決まっても、彼の目はまだまっすぐだった。


「律……」

瑞希が声をかけると、律は口の端をほんの少しだけ上げた。

「負けたけどさ……楽しかったわ。お前とだったから」


瑞希の胸の奥が、じんと熱くなる。

言葉が出ない。

代わりに小さく笑って、肩をすくめた。

「……あたしも。負けそうで怖かったけどね」

「いや、ギリギリだったぞ。あと一歩で逆転してたし」


ふたりは笑い合った。

でもその笑いの奥には、言葉にできない想いが滲んでいた。



「なぁ……」

律が少しだけ真面目な声を出す。

「次は、負けねぇからな」

その目は、まっすぐ瑞希だけを見ていた。


瑞希は少しだけ頬を染めて、視線を外した。

「……望むところ」


いつもならただの勝負の言葉。

でも、今はそれだけじゃなかった。

胸の奥に、小さな灯りがともるような――

そんな温かい感情が、静かに芽吹いていた。



廊下の向こうでは、ファンやスタッフたちの歓声がまだ続いている。

だけどこの控室の中だけは、ふたりだけの空気が流れていた。


――勝者と敗者じゃなくて、

――ライバルでもあり、きっと、それ以上の“何か”になる予感。


瑞希は立ち上がり、律の方に一歩だけ近づいた。

「……次も、本気でぶつかってよね」

「当たり前だ。手加減なんか、しねぇよ」


ふたりの間に、言葉にならない熱が静かに灯った。


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