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推しがライバルなんだが!!?  作者: 櫻木サヱ


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8話 ステージは戦場

重たい幕の向こうから、ざわめきが聞こえる。

歓声、ざらりとした緊張、ライトの光が差し込む隙間。

そのすべてが、今まで積み重ねてきた時間を一気に現実へと引き戻していく。


瑞希はステージ袖で、深く息を吸い込んだ。

喉の奥が少しだけ震えている。

緊張なんかしてない――そう思い込みたいのに、心臓が勝手に跳ねてしまう。


「大丈夫、大丈夫。あたしは……やれる」


その声は震えていたけれど、目だけはまっすぐ前を見ていた。

視線の先には、まもなく踏み出す“戦場”がある。



律は背中で瑞希の気配を感じながら、マイクを握りしめた。

彼の指先は汗ばみ、でも、目は揺れていなかった。

「……来いよ、瑞希」

小さく呟く。

この瞬間を、何度も夢見てきた。

同じ舞台に立って、互いのすべてをぶつける瞬間を。


スタッフの合図と同時に、照明が強く灯る。

観客の波が歓声に変わる。

幕が上がった瞬間、空気が一変した。


瑞希と律の視線が、ステージ中央で交わる。

笑った。

まるで、「負けないからな」と言い合うみたいに。



音楽が始まる。

最初の一音が鳴った瞬間、瑞希の身体が自然と動いた。

緊張も、迷いも、すべて置いてきた。

歌に、踊りに、ただひたすら集中する。

観客の視線が一斉に集まり、心地よい熱が身体の奥から溢れた。


律も負けてはいない。

彼の歌声は空を突き抜けるように力強く、でもどこか優しくて。

瑞希の声と混ざり合い、ひとつの世界を作り出していく。


まるで、ライバルなのに――

ふたりでしか完成しない“ステージ”みたいだった。



会場中が沸き上がる。

拍手と叫び声と、光の海。

それでも、瑞希と律は互いしか見ていなかった。

視線がぶつかるたび、胸の奥が熱くなる。


――この勝負、絶対に譲らない。


最後のサビを歌い上げた瞬間、ステージの空気が爆ぜた。

歓声が轟き、幕がゆっくりと閉じていく。

ふたりの息は荒く、汗が頬を伝って落ちる。


誰が勝つかなんて、まだわからない。

でも――この瞬間だけは、互いが“最高のライバル”だった。



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