1話 推しと敵とわたし
「今日から正式に、この舞台オーディションに参加してもらうわ」
ディレクターの冷たい声が稽古場に響いた。
私は深呼吸をして、自分の名前が呼ばれるのを待った。
芸能養成所に入ってから一年。ようやく巡ってきた大舞台。心臓が喉から飛び出しそうだ。
「次、桜庭ゆい」
はい、と声を張り上げて前へ出る。
足が震えているのを悟られないように、必死に笑顔を作った。
──だけど。
「そして、特別参加枠。天城蓮」
その名前が呼ばれた瞬間、空気が揺れた。
稽古場の女子たちがざわめき、男子たちでさえ息を呑む。
だって。
それ、私の推しじゃん!!??
黒髪を後ろで束ねた彼は、すらりと長身で、鋭い目元が舞台映えする。
高校生のころから追ってきた舞台俳優で、ファンミにも通い、ペンラも振った。
Twitterで名前を検索しては、ファンの熱い感想を読みあさった。
推し活の全てが彼だった。
──その彼が、今ここに。
しかも。
ライバルとして立っている。
「オーディションの合格枠は男女一名ずつ。競争は熾烈よ」
ディレクターの言葉に、背筋が凍った。
夢に見た同じ舞台。
一緒に立ちたい、隣で輝きたい。
……でも今は、彼を蹴落とさなければならない。
「よろしく」
そう言って笑みを浮かべる推し。
ファンとしてなら、その笑顔だけで一週間は生きていける。
でも。
ライバルとして見たその笑顔は、あまりに残酷で。
胸が苦しくなるのに、なぜか心臓は跳ねるように嬉しい。
私は震える唇で、なんとか返した。
「……よろしくお願いします」




