ふたりっきりの秘密基地って青春だね
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──ふたりっきりの秘密基地って青春だね
その日の昼休みの時間がやってきた。
「きさちゃん。いつも通りに行こーぜ!」
「お、おう」
また今日も俺と神宮寺はいつものように屋上に繋がる踊り場で昼食を取る。
屋上の踊り場は今日も暗いが、椅子と机で秘密基地みたいだった。よく見れば前に使ったときよりも並びが変えてあって、コの字のように配置されている。それは俺たちが隠れる場所ができていた。
前は気になった埃も掃除されており、居心地の良さそうな空間になっている。
「何だか本当に秘密基地みたいだ」
「だろー? あたしがちょっと変えて見たんだ」
「へえ。いいな、こういうの」
俺は素直に嬉しく思った。学校でこういう場所が、そう自分たちだけの場所が作れるのは何だか特別になったようで嬉しいのだ。
だってそうだろう? 学校で自分の場所って言えるのは自分の席ぐらいだ。それが先生にも他の生徒にも内緒で自分たちだけの空間を勝手に学校に作ってしまうのは、不法占拠というか、アウトローになった気分である。
男の子でこういうのが嫌いなやつはいないと思う。
「ほらほら。きさちゃん、ここに座り?」
神宮寺はこっそり隠れられる位置に俺を案内した。
俺は神宮寺のすぐ隣に座った。隣に座ると神宮寺の方から女の子の香りが漂ってきた。制汗剤とシャンプーの甘い香りだ。そのせいでいよいよ俺はドキドキし始めた。
昔からこんなだったっけ????
「ひ、昼飯さっさと食おうぜ」
俺は神宮寺にそう言ってあんパンと焼きそばパンを取り出す。
「ほら、焼きそばパン。交換しようぜ」
「オーケー。今日もいろいろ作ってきたからね~」
俺は焼きそばパンをそのまま神宮寺に渡す。
対する神宮寺は弁当箱を開く。しかし、何故か女の子のお弁当らしいサイズの弁当箱はふたつあり、神宮寺は同じくらいのサイズの片方を開けた。
そこには一口サイズのおにぎりと豚の生姜焼き、卵焼き、ミニトマト付きのポテサラなど美味しそうなものがぎっしり詰まっていた。
「お前、こんなに食べるのか?」
「まさかー。これはきさちゃんの分だよ。焼きそばパンを貰うなら、これぐらいはあげないとね。遠慮なく食べておくれ~」
「本当にいいの? 俺の焼きそばパンとこれを交換で……」
「いいぜ~。その代わりちゃんと感想聞かせてね~」
「おう。それぐらいなら任せろ」
毎日毎日菓子パンで正直なところ少し飽きてたから、小さいながらこういう普通の弁当が食べられるのは嬉しい限りだ。
俺はおにぎりを口に運び、がぶっと食らいつく。
「中身は明太子か。いいな」
「あたしも好きだからね、明太子」
おにぎりの中身はピリリと辛い明太子の具材で、俺は美味しくてすぐに食べてしまった。すぐに次は生姜焼きを口に運ぶ。食べやすいようにカットされており、生姜の風味がよく効いている。美味い!
「朝からこれ作ってきたのか?」
「全部じゃないよ。昨日の夜に作っておいて、朝から詰めたのもあるから」
「へえ……。けど、神宮寺が自分で作ったのか?」
「そうだぜ~。どうよ、神宮寺さんの手作り弁当は?」
「美味いぞ。正直、毎日食べたいぐらいだ」
「そ、そっか~。う、嬉しいぞ~」
俺は率直にそう感想を告げると、神宮寺は顔をやや赤くしていた。
「本当にこういう手作りの料理食べるのは久しぶりだな。いや、一応スーパーの弁当も外食も手作りと言えば手作りなんだろうけど」
「へへっ。たまにはいいだろー?」
「たまにというか本当に毎日食べたい。俺も叔父さんも料理作れないしさ。スーパーの弁当ってそんなにラインナップないだろ? だから、こういう料理が家でも食べられればなって思うよ」
俺は正直なところを話した。
何度も言ったが俺と叔父さんは料理はできないので、食事はスーパーの弁当や外食、あるいは宅配の品を食べている。だが、やはりバリエーションに限界があるので、飽きてくるところはある。
「なら、明日の夕食、作ってきてあげようか?」
「いやいや。そこまでは頼めないだろ。別にいいよ。神宮寺だって暇じゃないだろ?」
「う~ん。なら、きさちゃんがうちに食べに来るとか」
「夕食を?」
「そう。どうせ4人分作るのも5人分作るのも一緒だろうしさ」
本当に一緒なんだろうかとかちょっと図々しいないだろうかなどと思いながらも、美味しい家庭料理を食べる機会を逃したくないという気持ちもあった。
「本当に邪魔してもいいのか?」
「もちろん。近所なんだし、もっと遊びにおいでよ、きさちゃん」
神宮寺はそう言ってくれる。
「じゃあ、一度だけお邪魔しようかな」
「オーケー。楽しみにしてるぜ~」
一応菓子折りでも持って行こうと考えながら、俺は神宮寺の家にいくことになった。
それから俺は神宮寺の弁当とあんパンを食べ終わり、一息つく。
「やっぱり焼きそばパンひとつでこれは釣り合いが取れないから、ジュースでも奢るぞ。中庭に行こうぜ」
「おお。ありがと、きさちゃん。奢ってもらおう」
神宮寺に俺はそう言って中庭に向かう。
「おーい、如月!」
「早乙女」
中庭では早乙女と柊さんが一緒に食事をしていた。
「最近、お前たちどこで昼食食べてるんだ? 前は一緒に食べてたのに」
「あー。いろいろあってな。それにお前も柊さんとふたりっきりがいいだろ?」
そう指摘されると答えに困る。どうも神宮寺はあの場所のことを隠しておきたいみたいだったし、俺も弁当を分けてもらっているから隠しておきたい。
「神宮寺ちゃん。お昼どうしてるの? もしかして如月君と一緒?」
「へへっ。内緒だよ~」
「教えてよ~! それにまた一緒にお昼食べようよ~!」
柊さんは神宮寺に不満げな様子。
しかし、早乙女の方は俺と神宮寺に方を見てにやにやしている。
「百花。如月と神宮寺さんはそっとしておいてやろう」
「ええー? なんでー?」
「俺たちも一時期そっとしておいてもらっただろ?」
「あ!」
早乙女が言うのに柊さんは何かを思いついたような顔をして、それから早乙女同様ににやりと笑った。おいおい。そこのにやにやカップルは何を思いついたし?
「そうだったね。おふたりともお幸せに~!」
柊さんはそう言って神宮寺を追及することをやめた。
「別に俺たちは何かあったわけじゃ……」
「いいじゃん。それよりジュースを奢っておくれ」
「あ、ああ」
俺が否定しようとするのを神宮寺が遮り、俺たちは自販機に向かった。
しかし、否定しておかなくてよかったんだろか? あの態度は絶対に早乙女と柊さんは俺と神宮寺が付き合ってると思ってたぞ?
「どれがいい?」
「あたしはスポドリで」
自販機のボタンをぽちぽちと押して俺はコーラを神宮寺はスポドリを買った。
「今日、いつ頃そっちに行けばいい?」
「18時くらい? それぐらいに来てくれればいいよ。それとも迎えに行こうか?」
「いいよ。それぐらいの時間帯にお邪魔するから」
「待ってるぜー」
俺と神宮寺はそう言って中庭にいる早乙女たちに合流することに。
「なあ、早乙女。次の数学の授業のノート見せてくれないか? どうも自信なくてな」
「いいぞ。お前、数学苦手だもんな」
「ああ。マジで数学だけは大の大の苦手。ときどき先生が言っていることが完全に意味不明になる」
「今日は物理もダメそうだったけどな」
「あれはたまたまだよ、たまたま」
まさか神宮寺のことを考えていたせいで集中できなかったとも言えず、俺はそう返すのみである。ここで素直にそう言ったら、早乙女と柊さんが俺たちに抱いている疑惑の火に油を注ぐようなものだ。
「学生の本分は勉強することとは言えど、勉強ばっかりだよ嫌になるよな」
俺はそう話題をそらした。実際に高校に入ってから中学の時以上に勉強しなくちゃいけなくて大変になった。
「おいおい。そろそろ期末テストがあるのに大丈夫か?」
「死なない程度に頑張るよ」
早乙女は何だかんだで成績はいい方だからな。羨ましいぜ。
「そうだ。みんなで勉強会、しない?」
そう提案するのは柊さん。
「おお。いいね、それ。やろう、やろう」
「じゃあ、今日の放課後に図書館で!」
「了解!」
柊さんと神宮寺が盛り上がり、流れでそう決まってしまった。
みんなで勉強会、か。まあ、それもひとつの青春なのかな?
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