本屋さんを女の子とめぐるのも青春です
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──本屋さんを女の子とめぐるのも青春です
それから俺たちは服を見て回ったりして、ショッピングを楽しんだ。
まあ、金のない高校生なのでほぼウィンドウショッピングですがね。
「なあ、本屋に寄って行ってもいい?」
俺はそこでそう提案。実はラノベの新刊が出ていて、それが買いたかったのだ。
「いいぜ~。寄って行こー!」
「サンキュー」
俺たちはそう言葉を交わして本屋に向かう。
本屋は結構大きなもので、近所の店より品ぞろえもよかった。今は電子書籍が市場を席巻して紙媒体の本があまり売れないと聞くが、それでもある程度需要はあるのだろう。本屋はそこそこの賑わいだ。
本屋特有の匂いがして、何かのアニメの主題歌がBGMとして流れ、最近テレビでも取り上げられた本が平積みされている。
「これ、お父さんが読んでたよ」
柊さんがそう言って指さすのは難しそうな一般文芸の本。
「如月はラノベしか読まないから知らないだろう」
「そんなことねーし。普通の小説も読んでるし」
「そうなのか? 本当に?」
「推理小説とか、SFとか読むぞ」
叔父さんがSF小説が好きで集めているので、読ませてもらったりしている。これは本当のことだ。ただそれだけで普通の直木賞受賞作とか、教養になるような有名な古典作品とか、そういう有名どころの本はあんまり読んでないけど……。
「へえ。そうなんだ。ラノベ以外も読むんだね、きさちゃん」
「そうですよ。如月さんはラノベしか読まないわけじゃないですよ」
茶化す神宮寺に俺はそういい返しながらも、ラノベコーナーに向かう。
「でも、今日買うのはラノベなんだ?」
「そうですよ。如月さんはラノベを買いに来たのですよ」
「どんなラノベなん?」
「コミュ障な女の子といちゃいちゃする話。この『コミュ障でぼっちで陰キャな私でも恋ができますか?』ってやつな」
俺はその通称『コミ恋』の4巻を手に取った。メカクレな女の子が目印の表紙だ。
「面白い?」
「面白くなきゃ買わない」
何かに神宮寺が言ってくるのに俺はそう返す。
「きさちゃんはさ。いろいろ面白い小説知ってるみたいだから、あたしにも教えてくれないかい?」
「お前、漫画以外にも興味が出たのか?」
神宮寺はこれまで漫画ぐらいしか本に興味を示さなかったようなやつだ。それが急に漫画以外に興味が出るなんて変な話である。
「そうだぜ。人生を豊かにするには本を読まなきゃなって思ってさ」
「もう既にそういう自己啓発本読んでそうな意見だな」
によによと笑いながらそう言い、俺はそうからかい返した。
「まあ、お勧めするならいろいろとあるけど」
「教えておくれー?」
「ラノベがいい? 普通の本がいい?」
「難しすぎなければどっちでもいいよ!」
「なら、SF読者を増やしたいから、これをお勧めしよう」
SF初心者には定番と言える海外小説を俺は一般文芸コーナーで探すと、ちゃんとSFの棚に存在していた。
「これこれ。ちょっとネタバレするとタイムトラベルの話だ。猫が好きな人にもお勧め。コミカルな感じで悪いやつはちゃんとやっつけられ、苦労した主人公は報われて、未来に希望が持てる話だぜ」
「いいじゃん。これ、読んでみるね-」
「別にこれを買わなくても、うちにあるのを貸してもいいぞ」
「そう? でも、せっかくだから買うよ」
俺のその提案には乗らず、神宮寺は小説を手に取った。
「これを見れば今日という日が思い出せるからね~」
「そんなに記念するような日か~?」
俺は神宮寺の言葉にそう突っ込んだが……。
「……そうだよ。あたしにとってはずっと思い出にしたい日……」
至って真面目な表情で神宮寺が言うのに、俺はちょっとどきりとした。その表情の神宮寺は可愛いというより美人で、どきっとさせられたのだ。
け、け、けど、ずっと思い出にしたいってどういう……?
「……なーんてね! たまたま今日は楽しかったからだけだぜ?」
「そ、そうか。そうだよな。別に記念するようなことなかったもんな」
神宮寺がにやりと笑って言うのに俺はからかわれていたことを知って、少しだけ腹が立った。だけど、どちらかと言えば安堵の方が大きかったのが事実だ。
それから俺と神宮寺は本屋をぐるりと見て回った。
「この絵本のシリーズ、まだ続いていたんだ」
「みたいだな。俺も昔読んだ記憶がある」
「そうそう幼稚園とかでね」
子供のころに読んだ懐かしい絵本や最近出た雑誌などを眺めてから俺たちは会計を済ませて本屋を出た。
「戻ってきたね」
本屋の外では柊さんと早乙女が待っており、俺たちに向けて手を振る。
「買うもの買ったか、如月?」
「おうよ。目的のラノベをゲットしたぞ」
早乙女が尋ねるのに俺はそう答え、買ってきたラノベの入った袋を見せる。
「じゃあ、次はどうする?」
「特に予定はないけど、まだ遊んでいくなら付き合うぞー」
「そうだな。もうちょっと遊んで帰るか」
神宮寺はそう言い、早乙女たちもそう乗った。
俺たちはそれからアニメやゲームのキャラグッズを売っている店を巡ったり、ガチャガチャを引いたりして遊び、そして解散することなった。
「きさちゃんのそれ、可愛いじゃん」
「そうか? 何だか変なポーズだけど」
ガチャガチャでは俺は謎のポーズをした猫の玩具を当て、神宮寺は作業着姿の犬の玩具を当てた。
「気に入らないなら交換するかい?」
「別にいいけど。大事にしろよー?」
俺はそう言って神宮寺の玩具と自分の玩具を交換した。
「当然大事にするよっ! ありがとね、きさちゃん!」
神宮寺は思ったより大喜びしていた。そんなに欲しかったのか、変なポーズの猫。
「それじゃあ、またな、如月、神宮寺!」
「おう。またな!」
俺たちは駅の改札口で早乙女と柊さんに別れを告げ、それから俺たちも家に帰るために電車乗り込んだ。行きは別々だったが、帰りは別々に帰る理由もなく、俺と神宮寺は一緒の電車に乗る。
「今日は楽しかったな、神宮寺」
「ああ。楽しかったぜ」
帰りの電車で何故か言葉数少なくなる俺たち。
早乙女と柊さんが帰ったせいで、俺たちの間に微妙な空気が流れていたのだ。いつも俺と神宮寺ならばおかしな空気など流れないはずなのに、今日はどういうわけかお互いに意識しすぎているように思えた……。
「な、なあ、神宮寺。このあと本当にお前の家に行っていいの?」
「いいぞー。それとも何か用事あった?」
「い、いや、ないけど……」
神宮寺が言うのに俺は少し口ごもってそう返す。
「それなら遠慮なく来なよ。あたしときさちゃんの仲じゃん」
「そ、そうだよな。俺とお前の仲だもんな」
何を気にしすぎているんだ。俺と神宮寺の仲じゃないか。こいつは男友達みたいなもので、決して彼女とか異性とかなんかではなく……。
「どした?」
隣に座っている神宮寺がぐいっと俺に方に顔を寄せてくる。滅茶苦茶距離が近い。心臓がどきどきする。
これまでは異性として意識するようなことはなかった昔の神宮寺と違って、今の神宮寺からは女の子の雰囲気がするのだ。中身はそのままの神宮寺のはずなのだが、見た目が全く違うだけでそう感じる。
「何でもない。一応聞くけど家には家族がいるよな……?」
「いるけど。いない方がよかった?」
「そんなわけないだろう」
また神宮寺にからかわれているらしく、俺は首を横に振る。
「きさちゃんなら家族がいないときに来てもいいんだぜ?」
「遠慮する」
全く、俺のことを無限にからかいやがって。俺は音の鳴る玩具じゃないんだぞ。
「けど、今日は楽しかったよ、きさちゃん。またみんなでこうして遊びに行こう」
「ああ。それについては異論はない。今度は街の方に行ってみるか」
「そだね。向こうにはゲーセンとかカラオケもあるし」
「お前、音痴じゃなかった?」
「音痴がカラオケ嫌いと誰が決めたんだい?」
こうして話していると本当に神宮寺の中身は昔の神宮寺のままだった。
脳みそがバグりそうになりながらも、俺は今の神宮寺も嫌ではないと思ったりした。だって、中身まで変になったわけではないのだから。
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