友達と遊びに出かけるのはまさに青春
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──友達と遊びに出かけるのはまさに青春
週末がやってきた。
今日は神宮寺たちと遊びに出かける日だ。
待ち合わせは駅前で、俺は時間よりちょっと早めに来た。
「お? 神宮寺?」
しかし、それよりも早く神宮寺は待ち合わせ場所についていたのだ。
「よーっす、きさちゃん。張り切ってきたねー?」
「お前もな」
神宮寺はTシャツにだぼっとしたデニム生地のオーバーオール姿だ。ここら辺は前と変わってなくてちょっとだけ安心した。滅茶苦茶お洒落されてこられたら、普段着で来た俺の方が浮いてしまう。
「楽しみにしてたかい?」
「ほどほどには」
「へへっ。素直じゃないなぁ」
それでも神宮寺は今日も可愛い。くやしいけど。
「おーい。神宮寺ちゃん、如月君!」
俺たちがそんなことを話していたら、柊さんと早乙女が揃ってやってきた。柊さんがぶんぶんと手を振る横に早乙女がいて、ふたりでこっちに向かってくる。
「イエーイ、柊ちゃん。今日は楽しもうぜー」
「イエーイ! 楽しもー!」
神宮寺と柊さんはそう言ってハイタッチ。仲がいいふたりだ。お互いに理想の女友達って感じなんだろうな。
「如月。ちょっといいか?」
そこで早乙女が俺を呼ぶのに、俺は一度神宮寺の傍を離れて早乙女の方に歩み寄る。
「俺たち、着いて来てもよかったのか?」
「どういう意味だよ?」
早乙女が声を落として尋ねるのに俺は首を傾げた。
「これってお前と神宮寺のデートじゃないのか?」
「ぶふっ!」
早乙女にそう言われて思わず俺は噴き出す。
「ど、ど、ど、どうしてそうなるんだよっ。普通にお前らも誘われただろ?」
「それはそうだけど。神宮寺は本当なお前だけ誘いたかった、とか、そういうことはないよな? 神宮寺のあの変わりようはさ。やはり誰かに恋をしているからかもしれなくて、その相手が……」
「ないないないない。それはない」
神宮寺が俺のことを異性として考えているなんてありえない。だって、俺と神宮寺は男友達みたいな関係で、お互いに異性として意識し合ったことなど、一度としてない!
「そ、そうなのか? なら、いいけれど……」
「全く、人騒がせなことをいうなよな!」
俺と神宮寺がデートなんてするはずない。そのはずだ。そのはずだろう……?
俺はちょっと心配になって神宮寺の方をちらりと見る。
「これこれ。今日の映画はホラーだぜ」
「うわっ。これネットでめっちゃ怖いて評判だったやつだ!」
神宮寺は俺の方など気にせず、柊さんと談笑していた。
やっぱりこれはデートなどではないのだとちょっと安心。早乙女のやつが妙なことを言うからちょっとドキドキしてしまった。
「じゃ、そろそろ行こうか?」
「おう」
神宮寺に促されて、俺たちは駅の隣にあるショッピングモールへ。
この地方都市で高校生が遊べる場所としては、駅に隣接しているこの商業施設は楽しい場所だ。映画館があり、ファストフード店も入っており、その他いろいろな店舗が入っているのである。
俺たちの目当てはまずは映画館。
映画館には上映中の映画のポスターが貼られていて、いろいろと面白そうな映画があった。今回俺たちが観るホラー映画も、いかにもなホラーというポスターが貼られており、映画を観終わった人が記念撮影などしている。
「ホラー映画見るんだよな?」
「そーだぞ。滅茶苦茶怖いやつだからら、覚悟しろー?」
「俺、ホラー得意だし」
グロいのは正直かなり苦手なのだが、純粋に幽霊や祟りがどうのこうのというのは完全なフィクションとしての楽しめる。現実にあり得るわけないからな。だけど、グロいのは生理的に無理。
「本当に? 絶対にビビらない?」
「ビビらない」
「そうか、そうか。では、お手並み拝見だ」
俺たちはそう言葉を交わして映画館に入る。
映画の内容な幽霊と祟りのオーソドックスな話。いたずらで田舎の山中にあった祠を弄った若者たちが、世にも恐ろしい祟りに遭うという話である。
『お前たち、あの祠を壊したんか!?』
よくある出だしで始まり──。
『た、祟りは本当にあったんだ……』
最初の祟りの犠牲者が出て──。
『ドアの前に誰かいるの! 助けに来て!』
仲間がひとりひとりと呪われ──。
『スマホが……。どうしてあいつから……? あいつは死んだだろう……!?』
そして、主人公の下にも──。
『呪ワレロ。呪ワレロ。呪ワレロ。呪ワレロ。呪ワレロ。呪ワレロ。呪ワレロ。呪ワレロ。呪ワレロ。呪ワレロ。呪ワレロ。呪ワレロ。呪ワレロ。呪ワレロ。呪ワレロ。呪ワレロ。呪ワレロ。呪ワレロ。呪ワレロ。呪ワレロ。呪ワレロ。呪ワレロ。呪ワレロ』
ジャンプスケアとともに幽霊が登場。
幽霊が若干グロいのが苦手な点だが、それ以外はポップコーンを食べながら優雅に過ごせた。怖くはないが展開にハラハラするいい映画だ。ストーリーも馬鹿みたい話じゃないし、いい感じです。
あっという間に1時間50分程度の上映時間は終わり、俺たちは映画館を出る。
「怖かったー! まだ震えてるよ、私……!」
「おいおい。大丈夫か?」
柊さんが身を震わせるのに早乙女が彼氏らしくそっと肩を抱いて安心させようとする。本当にこういうのを見るとふたりはカップルなのだと思い知らされる。
「めっちゃ怖かったね……。予想以上だったぜ……」
そんな中、この映画を選んだ本人である神宮寺自身がビビりまくっていた。
「お前が選んだんじゃないか」
「それはそうだけどさ。中辛のつもりで食べたら、激辛だったって感じだぜ……。きさちゃんはよく平気でいられるね?」
「俺は怖いの平気だって言っただろ。ハラハラはしたけどそこまで怖くはなかった」
「うーん……。負けたような気分だ…………」
神宮寺はそう言いながらも俺の方に寄ってくる。
「怖かったから安心させてくれー」
そう言って俺に肩を寄せる神宮寺。
「はいはい。お化けなんていないから安心しろ。本当に幽霊や祟りの類があったら連日ニュースになってるさ」
「きさちゃん、現実主義者だねぇ~」
神宮寺はそうからかうように言ってくるが、これは事実だ。だろう?
「次はどうする?」
「お昼ご飯を食べよー! ハンバーガーでいいかい?」
「オーケー。行こう」
早乙女が尋ねるのに神宮寺が答え、俺たちはハンバーガーのファストフード店に向かう。ファストフード店はフードコートの中にあり、たこ焼きやらラーメンやらいろいろとあるフードコートには、週末のためか人が結構いる。
だが、目当てのファストフード店では映画を見ていたらお昼をちょっと過ぎていたためか、込み具合はほどほど。
俺たちはバーガーとポテト、飲み物を頼み、テーブルで談笑することにした。
「ホラー映画ってやっぱり後を引くよね……。今日は一日中この映画のこと思い出して過ごしそう……。今日ひとりでトイレに行けるかなぁ……」
「帰ったら楽しい映画を観るしかないな。うちに来るか?」
「そうしようかな~」
柊さんと早乙女が人目をはばからずいちゃいちゃしている。リア充どもめ。
「あたしも怖かったから何か楽しい映画をみないといけないぜ。馬鹿みたいなコメディとか、そういうやつを。じゃないと、怖すぎてひとりで部屋にいるのも無理そう……。きさちゃんは本当に平気なの?」
「平気だけど。幽霊がどうのこうのってホラー映画は昔からそこまで怖くないんだよな。ただ殺人鬼が出てくるグロいやつとかは全然だめ。血がどばどば出るやつだと、自分まで痛くなってきて見てられなくなる」
「あたしはそっちも苦手だなぁ。グロいのを好き好んで見る人の感性が分からないね」
「だよな」
俺たちはそんな話をしながらファストフード店でハンバーガーを食した。
「けど、辛い料理と一緒でホラー映画ってまた見ちゃうんだよね。不思議だけどさ」
「分かる、分かる。ホラー映画って何故か見たくなるよね」
柊さんはそう言い、神宮寺もそう言う。
「それでトイレに行けなくなったらどうしようもないだろう」
「そこまで含めてだよ」
「なんだそりゃ」
怖いのを楽しむというのもなかなか理解できない話だ。ハラハラドキドキのエンターテイメントとして楽しむというならまだしも。
「ねえ、きさちゃん。帰ったら怖さ上書きのための上映会やらないかい?」
そう言って神宮寺がポテトを俺の方にひょいと差し出してくる。
「いいぞ。どっちの家でやる?」
「あたしのうち。来てね!」
「あいよ」
気軽に了解してしまったが、俺が神宮寺の家に行くのって初めてだよな。
……それに女の子の家に行くにも始めてだ。ちょっと緊張してきてしまった。相手は神宮寺なのに……。
「ほれ、きさちゃん、ポテト食べれ?」
そう言って神宮寺が俺の口にポテトをねじ込む。むぐぐ。
「なあ、神宮寺。これも青春っぽいことなのか?」
「おうともよ。みんなで映画を観て、感想を駄弁る。青春っぽいだろー?」
神宮寺はそう言って満面の笑みを浮かべたのだった。
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