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風邪ひいたときに看病してもらうって青春

……………………


 ──風邪ひいたときに看病してもらうって青春



 翌日、月曜日のことである。


「へーっくち!」


 俺は物の見事に風邪を引いていた。


 元々から熱っぽく、風邪っぽかったところで、さらに雨に濡れたせいだろう。今や完全に風邪になってしまっている。


「うう……っ。頭痛もする……。辛い……」


 既に朝一番に叔父さんに車で送ってもらって病院には行き、解熱剤や抗生物質などの薬を貰ってきているが、まだまだ風邪の症状はは収まりそうにない。


 鼻は詰まっているし、喉にも違和感があるし、頭は痛いし、全体的に体がだるい。


 熱は38度あり、そのせいでだるいのだと分かる。


「はあ…………」


 ベッドに横になりながら昨日のことを思い出す。神宮寺と早乙女のことだ。ふたりはとても仲よさそうにしていた。


「あのふたりどうなんだろうな……」


 俺が考えるのはふたりのこと。熱でぼんやりとした頭で、もしかしたら神宮寺が早乙女と付き合い始めたのではないだろうかと考えている。


 そんなことがあるわけないしという考えとひょっとしたらという考えが拮抗していた。今の神宮寺は確かに可愛いし、それに早乙女が惹かれたりすることもありえなくはないのだ。


 熱に浮かされた頭でそんな考えが延々と頭をよぎっている。


「喉乾いた……」


 今、叔父さんが買い物に行っているが、家の中にはろくなものがない。スポドリも買いためていないので水を飲むしかない。食べるものも何もない。あるのはカップラーメンぐらいであり、それは風邪のときに食べるものじゃない。


 そんなときである。家のチャイムが鳴った。


「はいはい」


 俺はマスクと付けて、よろよろと玄関に向かう。


「よーっす、きさちゃん」


「神宮寺……?」


 そこにいたのは神宮寺であった。どういうわけか平日の学校がある日に、神宮寺がうちの玄関の前に、買い物袋を下げて立っている。


「お前、学校はどうしたんだよ?」


「きさちゃん、自分で風邪引いたってメッセージ送ってきたじゃん。だから、看病しにきてやったんだぞー?」


「そうなのか……」


 神宮寺が着てくれたことに驚きと嬉しさがありながらも、昨日のことのせいでちょっとばかり距離感を感じてもいた。


「ほら。いろいろ買ってきたからプレゼント」


「ありがとな。上がってくれ」


 俺は神宮寺を家に上げて、自室に向かう。自室はいつだって片付いてるので、神宮寺を上げても問題はない……はずだ。


「スポドリ、飲む?」


「おお。ありがたい」


 俺は神宮寺からスポドリを受け取り、乾いた喉に流し込んだ。


「他にも食欲ないだろうからプリンとかゼリーとかレトルトのお粥とかも買ってきたぞ~。どうする~?」


「助かる。あとで冷蔵庫に入れておくよ」


「うんうん。他に困っていることはないかい?」


 神宮寺はそう尋ねてくる。


「そうだな……。薬飲む前に何かお腹に入れておくようにって医者に言われたんだけど、買ってきてくれたプリンか何か食べようと思う」


「おお。そうか、そうか。なら、食べさせてあげよう」


「え。いや、自分で食べられるし……」


「いいから、いいから」


 神宮寺はそう言ってプリンの蓋を開けると、付属のスプーンでプリンをすくい俺の口の方に運んでくる。


 これっていわゆる女の子によるあーんってやつなのでは……。


「ほれ、ほれ。早く食べてくれないとこぼれちゃうぞ」


「お、おう……」


 俺は風邪で少し弱っていたので、神宮寺に押されてしまい、そのまま差し出されたプリンをぱくりと口に。


 プリンは甘くて美味かった。いつもはプリンは食べないので久しぶりのプリンだ。


「どうよ?」


「……美味しい」


「そっか、そっか」


 俺の言葉に神宮寺は満足そうだ。


「そうそう。他にも冷却シートとかも買ってきたから使いな~」


 神宮寺はそう言って買い物袋から冷却シートを取り出し、俺のおでこにペタリ。


「あ、ありがとな……」


「いいってことよー!」


 神宮寺はにまにましていて、いつも通りのように見えた。


 けど、昨日は早乙女とデートしてたんだよな……。ひょっとして俺のことが好きなのかもと思っていたりもしたけれど、そうじゃないっぽい……。


 そう思うとどうしても神宮寺と距離を感じる。


「それからね~。きさちゃん──」


 神宮寺は何やら鞄の中をごそごそと漁る。


「ハッピーバースデー!」


 そして、神宮寺は俺の方に丁寧に包まれた包みを差し出した。


「へ?」


「へ? じゃないぞー。今日、きさちゃんの誕生日だろ~? 自分の誕生日を忘れてたのか~?」


「そう言えばそうだった」


 そうだ。今日は俺の誕生日じゃないか。


「日曜日にさ~。早乙女君と一緒にプレゼント選びに行ったんだぜ~。そのせいで早乙女君、柊ちゃんに勘違いされてたみたいだけど」


「ああ。そうだったのか…………」


 神宮寺はあのとき早乙女とデートしていたのではなく、俺の誕生日プレゼントを選んでいたのか。凄い勘違いをしていたことに、俺は何か恥ずかしくなってきてしまった。


「どした?」


「何でもない。ありがとうな、神宮寺」


 俺は笑みを浮かべてプレゼントを受け取った。


「へへっ。気に入ってくれるといいけれど」


「ふむふむ」


 俺は神宮寺から受け取った包みを開くと、そこにはタオルとハンカチが入っていた。タオルもハンカチも最近流行りのアニメのキャラクターものの結構しっかりしたやつだ。


「実はね。あたしも同じようなのを買ったんだよ~」


 そう言って神宮寺は同じアニメのキャラもののハンカチを見せる。


「何だよ、ペアルックってわけか?」


「そ、そうそう。……どう? 気に入った?」


「うん。気に入ったぜ」


 神宮寺が心配そうに尋ねるのに俺がはっきりと頷いて返す。


 素直に神宮寺と一緒のデザインのハンカチが使えるのは嬉しかった。神宮寺が選んでくれたものであり、神宮寺と一緒なのだから。


 普段の俺ならば神宮寺を異性として意識しまいとして、強情な態度を取っただろうが、今の俺は熱のせいでぼんやりしており、素直に受け取ってしまった。


「気に入ってくれたなら何よりだよ。風邪が治ったら早乙女君たちも誘って誕生日パーティしような~?」


「お? 祝ってくれるの?」


「祝うぜ~。滅茶苦茶祝うぜ~」


「そいつは嬉しいな」


 神宮寺が笑いながら言うのに俺も思わず笑った。誕生日を誰かに祝ってもらえると言うのは、それだけで嬉しいものである。


「だからさ。早く風邪を治しなよ~? 学校で待ってるからね~?」


 そして、神宮寺は少し心配そうにそう言う。


「おう。すぐに治して学校に戻ってくるぜ」


 俺はそんな神宮寺を安心させるようにそう言い、笑って見せたのだった。


「……ねえ、きさちゃん。柊ちゃんから聞いたんだけど、昨日あたしと早乙女君の尾行してたんだって?」


「お、おう。実はな……」


「それって柊ちゃんに頼まれたから?」


 神宮寺は俺にそう尋ねてくる。


「ま、まあ、そんな感じでもあるし……俺自身もちょっと気になってたから……」


「気になったって、あたしと早乙女君がデートしてるとか思った?」


「……そ、そうだよ。悪いかよ」


 俺は開き直って神宮寺にそう言った。


「へえ……」


 神宮寺は俺の言葉に凄くにまにまし始めた。こいつ、またひとつからかってやろうとか思っているな……。


「そうなんだ。気になってたんだ。きさちゃんがあたしのこと……」


 だが、神宮寺はどこか頬を赤くしてそう言っていた。


「ふーふふふふっ。それなら安心していいよ、きさちゃん。あたしは誰とも付き合ってないからなー?」


「そ、そうかよ。でも、最近他の男子にも声かけられてるみたいだけど……?」


「大丈夫。全然そういう男子とは付き合う気はないからね~」


 神宮寺はどこか嬉しそうにそういう。


「きさちゃんがそういうの気にしてくれたってだけで嬉しいよ」


「それってどういう意味──」


 神宮寺はそう言ったのちに俺の問いに答える前にプリンをさらにスプーンですくって俺の口に突っ込んだ。むぐぐ。


「安静にして、元気になってね、きさちゃん」


「あ、ああ……」


 神宮寺はそう言って俺にプリンを食べさせてからうちを去った。


「神宮寺に看病してもらうなんてな……」


 そう言いながらも俺の心はかなり嬉しい気分でいっぱいだった。


 それは体が弱ると心も弱るからそのせいかもと思ったりしたが、やっぱり俺は神宮寺のことが…………。


……………………

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