友達のことを尾行するのは青春なのだろうか?
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──友達のことを尾行するのは青春なのだろうか?
夏休み明けのテストも終わり、俺はそこそこの手ごたえを得ていた。
そして、それはテスト明けの打ち上げもやって、日常が戻ってきたと思ったときだ。
「如月君」
そう声をかけてきたのは柊さん。いつもはにこにこしている彼女が、どこか険しい表情を浮かべて俺の席にやってきていた。
どういうわけかいつも一緒に早乙女はいない。
「どうした、柊さん?」
俺は怪訝に思ってそう尋ねる。
「ちょっと聞いてほしいことがあるの。来てくれる?」
「いいけど……」
柊さんがそう言い俺たちは教室を出て、人気のない空き教室に移動。
「で、聞いてほしいことって?」
「大和君のことなんだよ。もしかすると、大和君が浮気してるかもしれないの!」
「ええっ!?」
そんな馬鹿な。あの早乙女が浮気を…………?
「どうしてそう思ったんだ?」
「実はね。この前、放課後に大和君が神宮寺ちゃんと一緒にいたのみたんだ。そこで何やら親しげに話してて……」
「それだけ?」
「違うよ。そのあとで大和君、次の週末は用事ができたって言って。だから、神宮寺ちゃんと遊ぼうと思ったら神宮寺ちゃんも週末に用事がって!」
「うむむ。それは怪しいな」
早乙女と神宮寺が申し合わせたように週末に用事があるという。それは秘密の密会をするためではなかろうか?
そう思うと急に不安になり始めてしまった。
「如月君は何か聞いてない?」
「俺は特に何も。寝耳に水だよ」
「そっか……。如月君にも秘密にしてるのか……」
柊さんは俺以上に不安になっている様子で、表情は暗かった。
「神宮寺ちゃん、いきなり可愛くなったからなぁ。それが影響してるのかも……」
「でも、早乙女がそう簡単に浮気するのかどうか……」
俺たちは答えの出ない問題を抱えながら悶々とする。
「よし! なら、柊さん。次の週末に神宮寺たちをつけよう。尾行して本当に浮気しているのかどうか突き止めないか?」
悩みに悩んだ既に俺は柊さんにそう提案した。
「そ、そんなことしていいのかな……?」
「でも、気になるだろ? 尾行してみて本当に浮気しているかどうか確かめようぜ」
俺は早乙女が浮気するような男ではないと信じている。
いや、そうあってほしいと思っているだけかもしれない。神宮寺と早乙女が付き合いだしたら、かなりショックを受けるから。
べ、別に神宮寺が早乙女と付き合うのはいいけど、早乙女が柊さんを裏切るのは許せないだけだぜ? そこに深い意味はないぜ?
……などと心の中で主張するが、俺が気になっているのは早乙女ではなく、神宮寺に方なのは分かっていた。
「分かった。そうしよう。私も確かめないと不安だからね」
「なら、次の週末の朝に俺の家の前で待ち合わせで。そこから神宮寺をつけよう。神宮寺が早乙女に会うなら、神宮寺を追えばいいはず」
「了解。次の週末に如月君の家だね」
というわけで、俺と柊さんは神宮寺と早乙女に生じた疑惑を調査するために、週末ふたりを尾行することに。
あれだけ柊さんとラブラブだった早乙女が、今になって神宮寺相手に浮気するとは思えないのだが、疑念は晴らさなければならない。
多分何もないだろうけどな。
……何もないといいんだが……。
* * * *
そして、週末。
早朝に家のチャイムがなり、俺は玄関を開ける。
「如月君、来たよ!」
「柊さん」
柊さんはばっちり大きなサングラスまでかけて、尾行の準備を整えていた。まだ暑さの残る9月なので、涼しそうな格好だ。
「如月君もサングラスか」
「おう。叔父さんに借りたんだ」
俺も叔父さんから借りたラウンドフレームのサングラスで決めていた。これでパッと見ても俺だとは分からない……はずだ。
それに今日はちょっと熱っぽくて咳が出ていたのでマスクもしている。不審者感は抜群だが、正体を隠すにはばっちりだ。
「それでは早速神宮寺の家を見張ろう。まだ出かけてないはずだ」
「おーっ!」
俺は柊さんを連れて神宮寺の家に向かう。
「あ。神宮寺ちゃんだよ、如月君」
「ちょうどだったな」
俺たちが神宮寺の家に着いたときには、神宮寺が丁度家から出てくるところだった。俺たちはそれを尾行し始める。
神宮寺は駅の方に向かい、俺と柊さんも駅の方に向かう。
すると──。
「大和君だ……」
駅では早乙女が神宮寺と落ち合っていた。
「や、やっぱりふたりは……浮気しているんだ……」
「ま、まだ決まったわけじゃないから。これから何をするかによるだろ? ただ出かけるだけかもしれないし?」
柊さんが暗い表情を浮かべてうろたえるのに、俺は必死にそういう。俺としてもまだ認めたくなかったのだ。
「そ、そ、そうだね。調査を続けよう」
柊さんもそう認め、俺たちは引き続き神宮寺と早乙女を尾行。
神宮寺たちは電車に乗って、移動し、街の方に向かった。俺と柊さんは神宮寺たちが駅に降りるのに合わせて電車に降り、追跡を継続。
「駅前の商業ビルに入るみたいだね」
「買い物でもするのか?」
柊さんと俺はそう言葉を交わし、商業ビルの中に。いつも俺たちが使う映画館などがあるビルで、いろいろな店が入っている場所だが……。神宮寺たちはここに何か用事があるのだろうか……?
俺と柊さんは不安を抱きながらも神宮寺たちを追う。
「あ。お店に入ったよ。雑貨のお店だ」
「ふむ? 何か家の用事だったりするんだろうか?」
「私たちも入ろう」
俺と柊さんも神宮寺たちが入った雑貨の店に入る。
雑貨の店ではお洒落なグラスなどの食器や生活をちょっと便利にする品などが置かれていた。俺と柊さんはこの店に神宮寺たちが何用で入ったかを確かめようとする。
神宮寺と早乙女は綺麗なグラスやその他可愛い雑貨などを見ながら言葉を交わしており、とても親しそうにしている。何だか本当にふたりは付き合っているみたいで、どうにも心が落ち着かない…………。
「神宮寺ちゃん、本当に大和君と仲良さそうなんだけど……」
「ま、まあ、一応友達だし? 仕方ないところもあるんじゃないかな……」
「そうなのかなぁ……」
「そ、そうそう。俺と柊さんもこうして一緒に出掛けてるしさ。まだ様子を見よう」
もはや早乙女の浮気を悟ってお通夜気味の柊さんとともに俺は神宮寺たちを追う。
神宮寺たちは次にキャラクターグッズのお店に入った。アニメや漫画、ゲームのキャラクターのグッズが売られている店である。
「神宮寺と早乙女は何か相談しているみたいな……?」
俺はそこで神宮寺と早乙女が笑いながら何かを話し合っているのを見た。商品を手に取ったりして、神宮寺と早乙女はあれこれと会話しているが、その会話の中身までは聞き取れない。
「もうダメ……。私、見てられない……。相手が神宮寺ちゃんとは言え、大和君が私以外の女の子とあんなに親しくしているなんて…………」
柊さんはついに精神が持たなくなったのか、撤退を始めた。
「ま、待ってくれ、柊さん」
俺も慌てて柊さんを追う。神宮寺と早乙女のこともまだ気になるが、今は柊さんの方が心配だ。
俺たちは商業ビルのエントランスまで来て、そこではあと大きく柊さんがため息。
「ねえ。本当のところ、どう思う、如月君? 大和君と神宮寺ちゃんって浮気しているというか、付き合っていると思う?」
「それは……まだ何とも言えない……」
「そうだよね。ここで見ただけじゃ何とも言えないよね」
俺の言葉に一応柊さんも納得してくれるが……。
「明日、私、大和君に直接聞いてみるね。神宮寺ちゃんと何してたのかって」
「あ、ああ。そうすべきかも」
それでもし神宮寺が早乙女と付き合っているとしたら、柊さんだけではなく、俺もショックだ。友人が浮気していたということと、やはり神宮寺が誰かと付き合っていたということが分かっしまって……。
そうならないことを望んでいるが、今はまだ完全に否定できない。
「それじゃあ、今日はありがとう、如月君」
柊さんはそう言って立ち去って行った。
「俺も帰るか…………」
これ以上、神宮寺たちを尾行しても何かわかることはないだろう。無駄足である。俺もそろそろ家に帰るとしよう。
そんなことを思っていたとき、不意に雨が降り始めた。
「雨かぁ……」
まるで俺の心の中が再現されたみたいな土砂降りの雨の中に踏み出し、俺は濡れながら家に帰った。
「へくちっ!」
冷たい雨のせいで熱っぽかったのが余計に酷くなった気がする。これは明日辺り本格的に熱が出るかも。
今日はさっさと寝よう…………。
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